●住所/亀田郡七飯町東大沼175-1
●地形及び地質
大沼から北東に流れ鹿部町で太平洋に注ぐ折戸川の支流大七沢川と精進川に挟まれた平地になっている。この辺りは駒ヶ岳の山体崩壊で折戸川が堰き止められ、湖になったところが埋め立てられて平坦な地形が形成されたと思われる。湖の深いところはまだ埋立てられずに、大沼・小沼として残っている。周辺には10m~20m小高い丘陵地形が多数みられるが、これは山体崩壊による流山の痕跡であろう。北西側8kmには活火山である駒ヶ岳がそびえ、すそ野が大沼の北岸から水中に没している。植物工場の地下には、薄い沖積層の下に駒ヶ岳火山の岩屑雪崩堆積物があり、その下には南側にあるより古い火山である横津岳の火山噴出物が分布すると思われる。2つの火山に挟まれていることが、豊富な地下水と温泉熱に恵まれる条件になっている。
1・アプレ植物工場1・2号棟
●工場の概要と特徴
▶温室仕様 1536㎡×2棟 断熱性能を上げるため、シートの間に空気の層を設置するなど、長期的な視点での省エネ対策を取り入れている。
▶生産する野菜─軟弱野菜(葉菜類─小松菜・水菜・ホウレン草他)と果菜類(ナス・トマト・ピーマン・パプリカ他)など、数10種類、多くの品種の生産を行っている。
▶水耕栽培の養分─すべての種類に対し、同一の成分で栽培する。循環培養液の処理は微生物で行っているため、濁りや藻類の発生がない。
▶製品の特長─温度・CO2濃度、照明など、徹底したデータ管理・制御により、高品質の野菜を生産している。日持ちが長い・アクがでない、ナスでもピーマンでも生食できる、季節を問わず均質で安定した出荷を確保していることなどが評判。ホテル・旅館・飲食店のほか、インターネットによる直接販売もあり、年中同一価格(150円/100g)で販路を獲得している。
▶生産量─1棟当たり5トン~8トン/月
▶従業員数─33人
●システムの概要
熱源
温泉水─50℃ 350ℓ/min
地下水─12℃ 450ℓ/min
ボアホ-ル─各棟85m×9か所(シングルUチューブ)
アースチューブ─各棟φ300mm×4系統
ヒートポンプ
冷暖房系統─112.5馬力(22.5馬力×5連結)
エアレーション系統─22.5馬力 1台
ファンコイルユニット・放熱管
ファンコイル─各棟5台─放熱管 合計450m
●設置の効果
経済性(年額)
従来方式(エアコン+灯油)─80,000千円
当該システムの光熱費─43,000千円
光熱費の削減額(年額)─37,000千円
環境性
エネルギー削減率───57%
CO2排出削減率─── 59%
水耕栽培の培養液は微生物処理により濁りがない、エアレーション、温度管理など最新の管理が自動的に行われている。
2・登別温泉
(1)夢元 さぎり湯
●登別温泉株式会社の共同浴場
登別市登別温泉60番地
●ヒートポンプシステム
温泉排湯熱利用ヒートポンプにより、給湯を行う。
ヒートポンプ─────30馬力
貯湯槽─────18トン
●硫化水素による設備と制御の障害対策に苦心した。
(2)登別地獄谷 展望台公衆トイレ
●洞爺湖地方環境事務所所管
地獄谷展望台と遊歩道の入り口にある。
●2008年8月に、洞爺湖サミットに合わせて建築された。
●システムの概要
ヒートポンプ─8馬力1台
採熱管─水平配管架橋ポリエチレン16A(地温が高いため(25℃)ボアホール不要)
利用目的─給湯・床置きファンコイル・床暖
●硫化水素ガスが多いため、制御機器や見える化のための設備が1年程度でだめになる。硫化水素対策が課題である。
3・赤平オーキッド・赤平消防署
ハイウェーオアシス砂川で昼食、滝川ICで降りて国道38号線に入る。10km程度東に走ると空知川の右岸沿いに走るようになる。空知川が蛇行し、国道から離れたところの信号を右折し1km進むと正面に多数の農業用ハウスが現れる。赤平オーキッドの農場である。
赤平市は石狩川の最大支流である空知川の下流にあり、かつては炭鉱の町として栄えていた。炭鉱の閉山により人口は激減、現在約1万人超である。今回の視察では、胡蝶蘭の生産企業として知られる赤平オーキッド株式会社と滝川地区広域消防事務組合赤平消防署を訪問した。
(1)赤平オーキッド株式会社
●北西方向に流下する空知川が、中心市街地の東南東4km付近で大きく蛇行し、流路を北→東→西に変えている。赤平オーキッドの農業用ハウス(450㎡×12棟)は西側に突き出した河岸段丘上にある。
●企業と施設の概要
農業用ハウス─450㎡×12棟─5728m²
年商─3.2億円 従業員─32人
商品─胡蝶蘭及びメリクロン苗、実生苗の製造販売、メリクロン苗は東南アジアで委託生産し(2年間)輸入して赤平で育て、苗及び花卉を販売する。
●地中熱利用設備の概要
断熱性能が高い「複層エァーハウス」採用
地中熱ヒートポンプチラー─45馬力×6=270馬力
ボアホール掘削─85m×78本(4m間隔、千鳥配置)
熱交換器─シングルUチューブ
暖房─ファンコイルではなく温水循環方式(温水温度40℃、室内温度21~23°)
制御関係─時間帯、苗の成長度合い、開花期に合わせて最適温度に合わせた制御システム構築
●地中熱利用効果
イニシャルコスト─2億円(追加投資)
ランニングコスト─970万円(灯油ボイラーでは2838万円、年間1868万円の節減)─削減率66%
CO2排出量─71%
投資回収期間─8年
(2)滝川地区広域消防事務組合赤平消防署
●地中熱利用の内容
車庫部分の床暖房・輻射暖房(300m²)─温水供給(12℃以上に保つ)
事務所の冷暖房─各室に天吊型又は壁掛け型のファンコイルユニット設置
●システム概要
冷暖房ヒートポンプ─22馬力型1基、
冷暖房用熱交換器─85m×8か所(シングルUチューブ)
温水暖房用ヒートポンプ─36馬力相当1基
温水暖房系統熱交換器─95m×12か所(シングルUチューブ)
●システム導入効果
従来方式(電気+灯油ボイラー)──年額410万円
地中熱ヒートポンプ(電気)───年額190万円
導入効果────────────年額220万円程度
CO2排出抑制効果─────────57%、123t/年
●国の補助が50%程度あるので、イニシャルコストは高くても自治体の財政負担は小さく、ランニングコスト削減効果が大きい。
(3)コンチネンタルシルマー株式会社本社
●所在地
札幌市中央区南1条西11丁目コンチネンタルビル
●主な商品─気水分離機KHKシルマー─配管の腐食や浸蝕・騒音振動の最大の要因である気泡を完全に分離出来る画期的な商品として、全国で最大のシェアを占めている。─模型実験設備を作って、どこでも実演できる。
●地中熱利用─駐車場の融雪に使用
●本間社長は、ビートルズメンバーが52年前の訪日公演の際、ホテルで描いた大変貴重な絵を所有し、自社の画廊に展示している。
(4)北海道大学
北海道大学は、日本における地中熱利用研究のセンターの一つであり、大学院工学研究院教授長野克則氏のおひざ元です。様々な実験装置や試験的な導入施設がある中で、国際教育研究センターと、工学研究科共用実験棟の2箇所を視察した。
(1)国際教育研究センター
●地中熱利用設備の概要
ホールの暖房─温水循環による床暖房
玄関前の融雪─熱交換器─65m×4カ所+80m×2カ所にUチューブ
(2)工学研究科共用実験棟
建物全体が、省エネと長寿命化、再生材の利用、環境保全、ユニバーサルデザインなど、最先端の研究成果を取り入れた、未来型志向で作られている。
この中で地中熱利用は、ボアホールによるのではなく、建物周辺のトレンチに埋設されたクールチューブ、ウォームチューブで地中の熱を利用する設計になっている。
省エネは、断熱・気密性を高めること、冬季の日射取り入れ、ヒートチムニー、冬季太陽熱蓄熱、夏季の夜間冷熱の利用、クールチューブ・ウォームチューブによる地中熱利用など、熱利用の徹底した合理化を追及している。
4・先進地視察の感想
●北海道での地中熱利用は、主に暖房・給湯になっている。導入にあたっては、国や道の補助金を利用している。
●採熱はボアホールによる熱交換器埋設だけでなく、温泉地熱利用の水平埋設や地下水・温泉利用のオープンループなど様々な工法が、その地域の熱特性に合わせて計画されている。
●植物工場や胡蝶蘭栽培の地中熱利用は、事業主の地域と農業に対する熱い思いが基本にあることに感動した。事業に対するさまざまな創意と工夫、技術開発があって、事業の成功の基本が築かれた。地中熱利用は栽培技術と採算性を支えるサポートの役割を果たしている。
●地中熱利用は、単に暖冷房コストの面からだけでは、その優位性は生かされない。事業主の思いと地中熱技術者の提案力がうまくかみ合って、企画段階から設備施工・制御システム・メンテナンスまで、息の長い協力関係を創り上げられるか否かがカギになる。