地盤品質判定士の資格制度は、2011年(平成23年)3月11日(金)14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震の地震動によって盛土の滑動や液状化等の被害を被った宅地地盤の品質・安全性の評価・品質判定を行い、主に宅地における地盤災害の防止や軽減に貢献することを目的として2013年(平成25年)に創設されました。
また、地盤品質判定士会は、住宅及び宅地の防災及び国民の安全に貢献するために、会員の技術の研鑽とモラルの向上ならびに社会への啓発を図ることを目的として、2015年(平成27年)に地盤品質判定士協議会の内部組織として設立されました。
ここでは、現在、地盤品質判定士会幹事会において、広報委員会委員としての活動をしている関係上、地盤品質判定士について、資格制度創設の背景と意義、地盤品質判定士会の組織と役割、地盤品質判定士会の活動などについて今後の展望などを含めて、3回にわたって紹介します。
1・はじめに1)
2.地盤品質判定士資格制度創設の背景と意義
(1)地盤品質判定士とは
地盤品質判定士とは、地盤品質を判定できる十分な知識、技術力、経験を有し、検定試験に合格し、登録した技術者です。
また、地盤品質判定士の業務は、地盤品質判定士協議会のHP2)には以下のように載っています。
ここで、改めて、地盤品質判定士資格とは、その業務とは、を整理してみますと
となります。
(2)地盤品質判定士の検定試験3)
地盤品質判定士の検定試験の仕組みを図-2に示し、受験に必要な資格を表-1に示す。
検定試験は、宅地の造成、土砂災害に関わる法制度、地形・地質・地盤の調査、土砂災害、住宅等(小規模建築物)の基礎、地盤の液状化、盛土・切土と擁壁の安定性、基礎の沈下や傾斜及び地盤改良といった多岐にわたる基礎知識と地盤の評価(品質の判定)に関わる経験及び技術力を確認するほか、技術者倫理についての出題もあります。
検定試験に合格して登録した者には、「地盤品質判定士」あるいは「地盤品質判定士補」の資格が付与されます。 行う期間(緊急時対応)、そして事故発生前の状態に戻す復旧対応までの期間(復旧対策)の全ての期間がリスクマネジメントの対応期間である。
(3)資格制度創設の背景
東日本大震災では、多くの住宅地において、盛土の滑動や液状化被害が多数発生したことは記憶に新しいことです。また、造成住宅地の地震動による被害は、十勝沖地震(1968年)、宮城沖地震(1978年)、阪神淡路大震災(1995年)、中越地震(2006年)、岩手・宮城内陸地震(2008年)などにおいても多数見られました。さらに、宅地においては、軟弱地盤、盛土、擁壁など地盤に起因したトラブルも多数発生しています。
これらの宅地災害やトラブルの多くが現場で宅地地盤に関わる業務に携わる人々の土や地盤に関する知識が不足しているためではないかとの指摘がされています。また、住宅を求める一般市民の方々も土や地盤に関する知識を持っていないことがほとんどであり、土地・地盤についての調査を依頼できる、信頼に足る技術者を必要としています。
さらに、東日本大震災では、多くの住宅地において被害が多数発生したことから、このような被害が繰り返されないように地盤に対する評価基準の早急な整備が求められました。(公社)地盤工学会においては、東日本大震災の発生から4ヶ月後に「地震時における地盤災害の課題と対策-2011年東日本大震災の教訓と提言(第一次)-」4)を公表し、東日本大震災が提起したことの一つとして「公共構造物と私有財産の安全性レベルの落差」を指摘し、既存や新設の宅地の評価(品質判定)ができる「地盤品質判定士」の資格制度の創設を提案しました。2012年6月に公開された第二次提言5)においても「地盤工学の専門知識と倫理観を有する技術者が社会において適切に評価され、地盤の品質を確認及び説明する業務において幅広く活躍することによって、主に宅地における地盤災害の防止や軽減に貢献することを目的として、新たな技術者資格『地盤品質判定士(仮称)』の制度を設立する」と述べています。
技術者資格制度は、社会からの強い要請により作り上げられるものとの提言趣旨に従って、地盤工学会・日本建築学会・全国地質調査業協会連合会を代表として、住宅や宅地の関係諸団体の参画により、地盤品質判定士制度を運営する地盤品質判定士協議会が2013年2月に発足しました。協議会では、この資格制度が社会システムの一部として活かされる時に初めてその実質的貢献が発揮されるものと期待しています。
(4)資格制度の意義
地盤品質判定士の資格制度の目的は、宅地の造成業者、不動産業者、住宅メーカー等と住宅及び宅地取得者の間に立ち、地盤の評価(品質判定)に関わる調査・試験の立案、調査結果に基づく適切な評価と対策工の提案等を行う能力を有する技術者を社会的に明示することを通じて、国民が専門家の知識・経験を活用できる社会システムを構築することにあります。また、有資格者は、地盤の品質を判定できる専門的知識と経験及び技術力によって、住宅及び造成宅地の防災・減災を通じて国民の住環境の安全性向上に寄与することが期待されています。
3.地盤品質判定士の役割と業務
(1)役割
地盤品質判定士の役割としては、図-36)に示すように、
①一般住宅の地盤に関する疑問・問題の解決をサポートすることです。
つまり、造成業者・不動産業者・ハウスメーカーの方々が「地盤の設計はこれで良いのか?」、一般消費者の方々が「宅地が安全なのかわからない」、「宅地の相談は誰に相談したら良いのか?」などの心配について、地盤品質判定士がサポートします。
②地盤のプロの視点による適切な助言や説明で不安や不満を解消します。
つまり、造成業者・不動産業者・ハウスメーカーの方々が地盤について一般消費者に納得してもらえないことや一般消費者の方々が説明がわからなくて不安であるなどのことを地盤品質判定士が解消します。
(2)住宅地盤の相談
また、地盤品質判定士会では、住宅地盤に関する相談を受け付けております。相談の流れは、図-46)に示すように
0次相談→1次相談→2次相談→解決までサポートする流れとなります。
0次相談は、イベント時などに開催されます無料相談会です。宅地地盤の問題に関して分からないことや悩んでいることなどを相談していただき、地盤品質判定士が「何が問題なのか?」を探り、簡単な助言やアドバイスも行います。
1次相談は、0次相談で明らかとなった「問題点」に関するもう少し詳しい情報や資料をもとに地盤品質判定士が対応します。無料での相談となりますので面談、メール、FAX、郵送及び地盤品質判定士会HPより申し込んでください。
2次相談は、1次相談まででは解決出来なかった複雑な案件を対象とした有料の相談となります。相談に際しては、住宅地盤に関わる、より詳細な情報をいただき、地盤品質判定士が原因、解決案、復旧・対策工法などの所見を記した「評価書」を作成します。
なお、問題や悩みの内容や居住区域に応じて「相談者専任の地盤品質判定士」のマッチング・紹介を行いますので、これ以降は、「専任の地盤品質判定士」が対応します。
(3)地盤品質判定士の業務
地盤品質判定士の業務は、宅地の造成業者、不動産業者、住宅メーカー等と住宅及び宅地取得者の間に立ち、地盤の評価(品質判定)に関わる調査・試験の立案、調査結果に基づく適切な評価と対策工の提案等を行います。
まず、個人の地盤品質判定士としての業務としては、
①他社への宅地地盤の地盤調査・試験の立案
②他社が行った宅地地盤調査結果の評価、対策工の提案
③係争に至った案件の品質判定
(弁護士or裁判所からの依頼)
などが挙げられます。
つぎに、企業内地盤品質判定士の業務としては、
①企業として宅地地盤の地盤調査・試験の立案
②企業として行った宅地地盤調査結果の評価、対策工の提案
③他社への宅地地盤の地盤調査・試験の立案
④他社が行った宅地地盤調査結果の評価、対策工の提案
⑤官公庁の都市計画課や区画整理課発注の宅地地盤調査を実施し、報告書を作成
⑥係争に至った案件の品質判定
(弁護士or裁判所からの依頼)
などが挙げられます。
平成30年2月27日には、「宅地防災」の施設分野で「地盤品質判定士」が登録されました。
4.おわりに
地盤品質判定士は、平成30年2月末現在、952名が登録を済ませており、ほぼ日本全国におります。これら地盤品質判定士は、以下のようなことを常々考えております。
①宅地の安全・安心のためには、土地選びが重要です。
②このためには、宅地の特徴を理解し、納得した上で土地を選んでください。
③地盤対策工には万能な方法はありません。利点と欠点があることを理解してください。
④宅地の安全性は、時間の経過とともに変化することがあり、定期点検は必要です。
弊社には、地盤品質判定士が3名おります。住宅地盤に関する相談ならびに住宅地盤の品質判定などが行えます。
最後に、本稿は、地盤品質判定会幹事長である北詰昌樹東京工業大学教授の地盤品質判定士の役割と活動実績1)を参考とさせていただいたことを記して感謝申し上げます。
次回は、「地盤品質判定士について(2) -地盤品質判定士会の組織と役割-」を紹介します。
<< 参考文献 >
1)北詰昌樹:地盤品質判定士の役割と活動実績,2017年度地盤品質セミナー, pp.1~6, 2018年1月27日
2)地盤品質判定士協議会ホームページ:https://jiban-jage.jp/
3)地盤品質判定士協議会:2017年度地盤品質判定士の検定試験,受験の手引き
4)(公社)地盤工学会:「地震時における地盤災害の課題と対策- 2.11年東日本大震災 の教訓と提言(第-次)-」,2011
5)(公社)地盤工学会:「地震時における地盤災害の課題と対策- 2.11年東日本大震災 の教訓と提言(第二次)-」,2012
6)地盤品質判定士会:地盤品質判定士の役割,住宅地盤相談の簡単な流れと1次・2次相談の問い合わせ先
http://www.jiban.or.jp/jagekai/index.html