会越国境に聳える会津朝日岳(1,624m)のキャッチフレーズ(※1)は、「深山幽谷に聳える孤高のピーク」となっており、南会津を代表する秀峰です。この地域の山々は、越後山脈の南部から三国・帝釈山脈へと連なる懐深くに位置し、古生層から形成されています。豪雪地帯として知られており、春になると雪は山の斜面を移動して浸食するため、聳え立つように急峻な山々が多いのが特徴です。このような雪食地形は春先の全層雪崩により、植物や表土が削られることで山肌に鏡面状の岩盤が露出します。会津朝日岳の山腹にも認められ、ガイドブックによれば「緊張する岩場があると同時にブナの原生林を残す秀峰です」と記載されています。登山道は手強く、経験者(上級者)向き,歩行時間7時間25分から9時間(※2)で、私自身十分な気合と完全な体調でないと「よし、行くぞぉ」という気分になれない山域です。2011年の会津豪雨災害で登山口に至る林道が土砂で埋もれ登山禁止となっていましたが、2015年に4年ぶりとなる山開きが行なわれ登山道が再開通しました。
2017年秋、体調を整えた上で久々に会津朝日岳の紅葉を見に行くことを計画しました。天気予報では10月8日~9日が「移動性の高気圧に覆われ、快晴になる」ことから、只見町の民宿に一泊をして二日目に、会津朝日岳に登ることにしました。今回は、前日にアシナガバチに刺されるというアクシデントがありましたが全山紅葉の山旅、白沢林道「いわなの里」の奥、赤倉沢登山口から山頂を目指すルートを紹介します。
(※1 只見町観光まちづくり協会による ※2 ガイドブックにより多少異なる)
☆2017年10月9日(月・体育の日) 快晴
前日(8日)三島町の志津倉山山行中に、右太腿をアシナガバチに刺され、痛みと痒みで十分に眠れなかった。30数年前にスズメバチに刺されアレルギー反応が、重症化することを心配していた相棒に朝一番で状況を診てもらうと、「熱もあり腫れているから無理をしないほうがいい」と。一度は会津朝日岳への登山を諦めたものの、民宿を出るときに年老いた主から、「痒みが出てきたらもう大丈夫、今日は快晴だから良い登山を!」と気合を入れられ、一気に登山モードに、相棒からは「痛みが出たら絶対に戻るよ」と、キツク何度も言われながら赤倉沢登山口へ。登山口へのアクセスがあまり良くない会津朝日岳であるが、圧巻の紅葉広がる隠れた名峰で人気が高く、既に22台の県内外ナンバーの車で駐車場はほぼ満杯状態、ようやく1台駐車できるスペースを確保、はやる気持ちを抑えてのスタート準備となる。右太腿の状態を改めて確認してから、7時56分に駐車場奥の赤倉沢に架かる木橋を渡ってスタート、山頂までの比高は登山口の標高が約561mであるため、1,063mとなる。沢に沿って幅の広い平坦な道を行き、3本目の沢を渡ると道幅は狭く本格的な登山道となる。ここからは傾斜がキツク、峡谷の様相となり西側に大きな山塊が迫ってくる、ロープが張ってある最後の急沢を渡渉すると道の傾斜はますますキツクなる。気温は20度で湿度も80%超え、この時期にしては高く体感的には盛夏の山を登っているように、一気に体中の汗が絞られる。
焦らず慎重に進むと、登山道唯一の水場である「三吉ミチギ」に8時51分(登り始めて55分)に到着、ここで水分を補給しついでに右太腿を冷やして、これから始まる九十九折れの急登に備え行動食のバナナで体調を整える。展望のない急勾配の九十九折れは風景が変化せず、辛抱と根気が絶対条件となるが、今はブナの葉が黄色を中心とした紅葉となっており、風景を愛でながら快適に登ることが出来る。落葉した木々の間から、東側に山並みを覆う雲海が眺望できるようになると高度感はぐっと増してくる。葉の重なりが薄く陽射しも強くなり、明るく感じられるようになると、苦しかった九十九折れが終わり、尾根突端の「人見の松」に9時53分(登り始めて1時間57分)に到着する。山頂までは、2.6kmの道標がある「人見の松」は展望そして、キツイ傾斜の登山道の終わりを告げるスポットで、ここを乗り越えればこの腫れあがった右太腿であっても頂を踏むことができると、安堵感に包まれる。少しずつ近づいてくる頂そして全山紅葉風景に圧倒され、目をとられると露岩に足を滑らせることになる。ここは慎重に露岩帯を進み、尾根を一旦下って登り返せば、会津朝日岳の前衛峰、「叶の高手(1,430m)」に10時15分(登り始めて2時間19分)に到着する。山頂までは2.1㎞の道標がある「叶の高手」を2回目の休息ポイントとして、ナッツ類で軽めの行動食をとっていると、すでに早朝スタートした人たちの下山タイムと重なり多くの登山者とすれ違う。下山とはいっても鞍部から約120mの比高がある「叶の高手」への登り返しはキツク、それでも頂を踏みしめた余裕からか我々に対して「もうすぐだから」「紅葉がものすごくきれいだよ」と、労いの言葉をかけてくれる。朝日岳の大クロベの脇の狭い登山道を譲り合いながら下降すると、「叶の高手」から24分で1,319mの鞍部を通過する。鞍部周辺はブナの巨木にすっぽりと囲まれ、見上げると周辺のブナはもう落葉して冬支度に入っているようだ。山頂まで0.9kmの道標がある「熊の平」そして「避難小屋」を通過、やがて植生が灌木になると山頂まで500mの小ピーク「バウチの高手」に到着する。ここから山頂までは雪食地形の露岩帯となり樹木は生育できずゼンマイやミヤマイラクサといった低木類が見事な草紅葉となっている。露岩帯は滑りやすく草紅葉に目を奪われると鏡肌の岩盤に足を滑らせることになる。万が一、足を滑らせると命に係わる滑落事故となることから十分に注意をして、岩場に取り付けてあるロープをしっかり掴み、スリルを味わいながら、手足の筋肉全てをフル稼働させ稜線へ、ここにきて初めて、西側の展望が開けてくる。細い岩稜を伝って、11時35分(登り始めて3時間39分)に三角点そして山名表示盤がある、会津朝日岳山頂に到達する。山頂からの眺望は、360度の大パノラマが広がっている。数パーティがのんびりと大休止中、われわれもゆっくり休める場所を確保して、温かいうどんと民宿お手製のおにぎりで、疲れをいやすことに。まだまだのんびり風景を堪能していたいものの、右太腿が本格的に痛まぬうちに、12時19分に下山を開始する。
下山は、同じルートを確実に戻ることになるが、今度は上から見る広大な紅葉風景となり、頂を踏みしめた余裕からか、登りとは違った味わいで風景を堪能することが出来る。いつものように、足早になってしまうのを抑えながら、右太腿を気遣いゆっくりゆっくり風景をなごり惜しむように、下山をして、14時51分(下山開始2時間32分)に登山口に到着する。相棒にも心配をかけた登山であったが、素晴らしい奥会津の広大な紅葉風景を目の当たりにすることが出来た。また、2008年7月以来7度目となる会津朝日岳への登山は、南会津の山々の手強さを十分に感じさせてくれた山行であった。
【登り3時間39分、下り2時間32分、積算距離 約14.1km】
【豆知識・アシナガバチ(体長20〜26mm)】
アシナガバチは、比較的攻撃性が強くない蜂で、巣に近づく等刺激をしなければ襲われることは少ないと言われています。登山中に巣の近くを無造作に歩いたのが襲われた原因と思われます。羽音はスズメバチと比べると小さく、周辺を飛び回っていても、まったく警戒をしませんでした。刺されたときは、強い痛みを感じさらに時間とともに徐々に強くなっていきました。以前スズメバチに刺されたため、強いアレルギー反応(アナフィラキシー)を発症することを懸念して、登山中はリムーバー(吸引器)を持ち歩いています。すぐに対応しましたが、強い痛みは治まらず徐々に周辺部が赤く腫れてきました。今回は、自己責任と民宿の主の適切なアドバイス(酒はほどほどにし、よく冷やす)もあり、無事に紀行文を「土と水」に掲載することが出来ましたが、アレルギー反応は死に至るケースもあると言われています。是非とも「土と水」の読者の皆様におかれましては、蜂に刺された場合は緊急に治療を要することを認識して、安全に登山を楽しんでください。