1.はじめに
福島県は果樹王国としても有名です。特に県北地域は美味しい桃の産地として全国的に名前が知られております(本号が発行されている頃には桃のシーズンも終わりですかねぇ・・・)。
今回は県北の桃の産地である伊達郡国見町に、御滝神社の境内に湧き出ている湧水(群)を訪ねました(写真-1)。
1.はじめに
福島県は果樹王国としても有名です。特に県北地域は美味しい桃の産地として全国的に名前が知られております(本号が発行されている頃には桃のシーズンも終わりですかねぇ・・・)。
今回は県北の桃の産地である伊達郡国見町に、御滝神社の境内に湧き出ている湧水(群)を訪ねました(写真-1)。
2.位置について
本湧水は福島県伊達郡国見町光明寺字滝沢に鎮座する御滝神社の鎮守の森沿いの3箇所から湧出しており、上手側と下手側の2つの湧水は大きな湧水池を形成しています(図-1)。
御滝神社は国道4号を北に進み、福島市を通過して伊達郡国見町に入ります。国見インターチェンジ入り口を通過し、国見サービスエリア近くの貝田町裏交差点を右折します。桃畑を望みながらしばらく車を進めると左側に御滝神社入り口が見えてきますので、向かって右側の公園駐車場に車を停めます。準備が出来たら鳥居をくぐって神社の境内に進み、御滝神社に参拝しましょう。
3.御滝神社について
創建時期等の詳細は分かりませんでしたが、御祭神の稲倉魂命(いなくらたまのみこと)は五穀、特にお米の神様として奉られている神様です。
この神社の周辺部では緩やかな傾斜が連続しており、果樹園や水田地帯が広がっております。
この湧水は大昔から枯れたことが無いと言われており、下流側に湧水から水を引いた水路を整備して光明寺の集落を潤してきたそうです。
4.湧水の状況・水質について
御滝神社の湧水は、鎮守の森の山裾の3箇所から湧き出ており、上手側と下手側では湧水池が整備されています。この池のそれぞれで大きな野鯉が悠々と回遊している姿を楽しむことができます。
現地を訪ねたのは降水量の少ない五月下旬でしたが、湧水量は3箇所を併せて数百(L/min)と感じられました。この量であれば昔から枯れたことがないという話も納得できます。
今回は下手側の湧水池の越流水を採水してイオン分析を実施し、トリリニアダイヤグラムを作成しました(図-2)。
トリリニアダイヤグラムでは、重炭酸カルシウム型に分類され、一般的な循環性地下水の性質を示しています。豊富な水量をみると、湧出する地下水はやや深い深度を循環してきたのではと推察されます。
また、硝酸イオンが20.0(mg/L)よりやや高い数値を示しましたが、これは周辺の果樹園や畜産施設の影響によるものと考えられます。
5.地質と湧出機構
湧水周辺部の地質分布を示します(図-3)。
本湧水の湧出地点は、新第三紀に堆積・形成された凝灰質砂岩・シルト岩・凝灰岩の互層である梁川層(姥懐砂岩部層)と、未固結の礫・砂・泥から形成される低位の段丘堆積物とが接する丘陵地南側の斜面裾部に該当します。
湧水箇所がちょうど地形の変換点に位置しており、丘陵部から緩傾斜面に変化する場所で西側から東側に3つ並んでいることが、この湧水の特徴を示しています。
梁川層は堆積岩の互層により形成されており、層と層の境界の層理面を地下水が流動する場合がありますが、ここでは湧水に対して受け盤構造(山側に地層が傾き、層理面が斜面に向かい突っ込む形をとる)のため、湧水を生じにくい地層構造となっております。
周辺部で果樹園として利用されている緩傾斜地は、西側の奥羽山地から福島盆地に流れこむ複数の河川が運搬・堆積した土砂が形成した扇状地の一部です。扇状地は地下水を浸透しやすく、末端部では湧水が多いことが知られています。
御滝神社の湧水のある場所は、扇状地の中でも一段低くなる地形の遷急箇所に位置することから、扇状地内を流れる地下水の一部が地形の変化により流れを断ち切られた結果、多量に湧出しているのではと予想されます。
6.さいごに
豊富な湧水は果樹園や水田など豊かな農作物を育む礎となる地下水の一部が、私たちの眼を楽しませ、気持ちを落ち着かせてくれるために地表に現れてくれた姿なのでしょう。
御滝神社の湧水の脇には散策路が整備され、下手側の湧水池の脇にはベンチも設置されています。
夏の終わりの夕立が通り過ぎた午後、小道の脇の小さな水路を、流れる水音を聴きながら静かに散策する-そんな時間を過ごすために、現地を訪れてみては如何でしょうか?