1.はじめに
福島県は「会津地方」・「中通り」・「浜通り」の3地域に区分され、風土や気候など地域ごとの特色が大きく違います(関東出身の筆者はこの違いの大きさにカルチャーショックを受けました)。
今回は、福島県の3地域を東西につなぐ大動脈「国道49号」沿いの湧水のひとつ、「長沢峠の一杯清水」をいわき市三和町上市萱に訪ねました(写真-1)。
1.はじめに
福島県は「会津地方」・「中通り」・「浜通り」の3地域に区分され、風土や気候など地域ごとの特色が大きく違います(関東出身の筆者はこの違いの大きさにカルチャーショックを受けました)。
今回は、福島県の3地域を東西につなぐ大動脈「国道49号」沿いの湧水のひとつ、「長沢峠の一杯清水」をいわき市三和町上市萱に訪ねました(写真-1)。
2.位置について
本湧水は福島県いわき市三和町上市萱地内、旧国道49号沿いに位置します(図-1)。
いわき方面から国道49号線を北上し長沢峠に差し掛かる手前の登攀車線の始点付近、地蔵橋を渡った左側に旧国道49号線への入口があります。左折して700mほど進むと利用し易く整備された水汲み場が見えてきます。これが長沢の一杯清水です。
訪れた時は旧道のあちこちに雪が残っており、一部凍結した状態でした(写真-2)。車両が頻繁に往来し、騒々しい感がある国道49号とは対照的に、旧国道49号は静寂が辺りを支配し、水の流れる音だけが聞こえる空間です。ひっそりと時間が過ぎていきます。
3.湧水の水質について
湧水を採水して実施したイオン分析結果を基に作成したトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを示します(図-2)(図-3)。
トリリニアダイヤグラムでは、重炭酸カルシウム型に分類されました。また、ヘキサダイヤグラムではやや炭酸水素イオンの値が大きい六角形となっております。一般的な循環性地下水の性質を示しており、地下水が循環する深度も比較的浅いと予想されます。それでも、採水時の気温が3℃に対し、湧水の水温が9.5℃でした。一般的な地下水温は年間を通じてほぼ一定で約12.0℃~15.0℃程度と言われますが、「一杯清水」も外気温との比較ではだいぶ暖かい状態でした。よって表流水ではなく、若干気温の影響を受けやすい浅部の地下水であると言えます。
実際の湧水自体は塩見山の山麓に湧出しており、そこから多くの人が利用できるよう、道路脇まで塩ビパイプで引いているとのことです。
4.水質と湧出機構
湧水周辺部の地質分布を示します(図-4)。
本地域は広域変成岩として有名な阿武隈変成岩類のうち、御斎所変成岩の分布域に該当します。
御斎所変成岩は、二酸化ケイ素の含有が少ない塩基性岩が地中の奥深くで大きな圧力を受け、岩石を構成する結晶構造が再結晶した片岩より構成されます。
片岩の特徴として、再結晶時に「片理」と呼ばれる面構造を形成し、「片理構造」に沿って剥がれやすいという性質があります。片理構造に沿って亀裂が発達しやすく、地すべり発生の原因となる場合があります。「一杯清水」も塩見山を構成する御斎所変成岩の片岩中の片理に沿って発達した亀裂部を流れる裂罅水が湧出していると考えられます。
5.さいごに
「長沢峠の一杯清水」は、いわき市のホームページでも紹介されており、週末には湧水を汲むために多くの利用者が訪れるとのことです。
現地には2月の中旬に訪れたため雪が残るやや寂しい雰囲気でした。一方、旧国道49号線は峠の山道であり、これから新緑の季節を迎え、目にも美しい若葉の緑が映えるイメージが自然と膨らむような場所でした。
また、渇水期ではありましたが毎分約20.0Lの湧出量がありました。山から湧水を分けて頂く気持ちを忘れなければ、多くの人が訪れるたびに「長沢峠の一杯清水」は季節ごとに違った顔で私たちを出迎えてくれることと思います。