1.はじめに
みなさんは「長寿」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか？日本人の平均寿命が80歳を超え、「長寿」のイメージも以前と比べ様変わりしていると感じます。私の年齢も平均寿命の半分を過ぎ、いろいろと心配事が・・・。
それはさておき、今回の湧水シリーズではおめでたい長寿の名を冠する、県北地方の名水「長寿泉」を川俣町に訪ねました。この「長寿泉」は夏場の渇水期でも湧水が途切れることがなく、多くの方が水を汲みに来るそうです。
また、道路沿いおよび周辺斜面の桜並木は「長寿泉の桜」と呼ばれる桜の名所としても有名です（写真-1、写真-2）。
2.位置について
本湧水は福島県伊達郡川俣町小島地内、標高565.5mの長寿山の山頂下の道路脇に位置しています。
順路は国道349号線と国道399号線を結ぶ町道「遠西田代線」に、川俣市街地方向から国道349号線の「岩阿久」（いわご）地区との分岐看板の手前を入るルートが分かりやすいです。民家が点在する町道沿いを山に向かって進みましょう。だんだん道幅が狭くなり不安になりますが、案内板が掲示されているので大丈夫です。
途中、川俣町が見渡せる展望の良い場所もあります。天気の良い日に出かけるのもよさそうです。
3.湧水の水質について
湧水を採水して実施したイオン分析結果を基に作成したトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを示します（図-2、図-3）。
トリリニアダイヤグラムでは、重炭酸カルシウム型に分類されました。また、ヘキサダイヤグラムではやや炭酸水素イオンの値が大きい六角形となり、一般的な循環性地下水の性質を示しています。
本湧水の採水時の外気温は29℃ありましたが、湧水自体の水温は14℃と冷たく、顔を洗うと暑さでぼぉ～としていた頭が一気に冴えわたり、目が覚めるようでした。外気温と湧水の水温の差が大きいことから、やや深い場所を流動しているのかもしれません。
また、湧水量を測ると毎分2.0ℓでした。採水日まで雨が少なかったことを考えると、広範囲の地下水が集まる湧水であるため、降雨量に左右されず夏場も枯れないのではと想像されます。
4.地質と湧出機構
湧水周辺部の地質分布図を示します（図-4）。
本地域は阿武隈山地を構成する花崗岩類を主体に構成されていますが、既存資料を調べると、長寿泉のある位置が花崗岩類に貫入した安山岩質（一部玄武岩質）な岩脈部に該当することが分かりました。
この岩脈は規模が大きいことから、岩脈の貫入に伴う亀裂も集中しており、結果として地下水が集まりやすいのではと考えられます。
岩盤の割目や亀裂、火山性の岩石で冷却時に生じる節理、断層破砕帯等の空隙部などを水みちとする裂罅（レッカ）型地下水の一つとして、遠くから集まった地下水が長寿山の斜面で湧出しているのではと考えます。
湧水が流れ落ちる水音を聴いていると気持ちが落ち着きます。日々の喧騒を離れ、気持ちを落ち着かせることも長寿の秘訣のひとつかもしれません。
湧水の隣には川俣町出身の文筆家である新関儀蔵氏の功績を讃える「長寿之碑」が建てられています。同氏は百二歳で亡くなるまで精力的に川俣町の歴史や文化に関係する書籍を執筆し続けたとのことです。
人生の終焉は誰にでも等しく訪れるが、その瞬間まで無駄なことは何一つないのかもしれない・・・。今の自分の日常生活はどうなんだろう・・・。
長寿之碑に記された言葉を読み、最後には湧水の音を聴きながら長寿と人生についてあれこれと考える、そんな1日となりました。
