2018年2月27日付で、地盤品質判定士が、国土交通省の「平成29年度公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格」のうち、「宅地防災」の施設分野で登録されました。国及び地方公共団体が発注する宅地防災に関わる業務において、地盤品質判定士が管理技術者・照査技術者を担当することのできる資格となりました。社会で幅広く活躍することが期待されています。
1・はじめに
2.地盤品質判定士に求められる能力と試験項目1)
地盤品質判定士について(1)-資格制度創設の背景と意義-においては、地盤品質判定士に求められる能力について触れませんでしたので、ここで、改めて示します。
求められる能力としては、「地盤品質を判定できる基礎的な知識とその応用力」と「地盤品質を適正に判定できる十分な経験と技術力」です。
(1)地盤品質を判定できる基礎的な知識とその応用力
地盤品質を判定できる基礎的な知識とその応用 力としては、以下に示す7項目が挙げられます。
i)技術者倫理
ii)宅地の造成、土砂災害に関わる法制度
iii) 地形・地質・地盤の調査、土砂災害
iv)住宅等(小規模建築物)の基礎
v)地盤の液状化
vi)盛土・切土と擁壁の安定性
vii)地盤改良
これらの項目に関わる試験は、多肢択一式の問題で行われます。これは、一次試験であり、50問を2時間で解答します。合格すると「地盤品質判定士補」となることが出来ます。
(2)地盤品質を適正に判定できる十分な経験と技術力
地盤品質を適正に判定できる十分な経験と技術力としては、以下に示す3項目が挙げられます。あります。
viii)地盤の液状化
ix)基礎の支持力と沈下
x)盛土・切土と擁壁の安定性
これらの項目に関わる試験は、記述式の問題で行われます。これは、二次試験であり、3問を3時間で解答します。一次試験と二次試験に合格すると「地盤品質判定士」となることが出来ます。
3.住宅地盤に起因するトラブルについて
それでは、地盤品質判定士は、何故このような問題を解く必要があるのか?、何故このような能力が必要なのか?は、“住宅地盤には、様々な問題が生じる場合がある”からです。
(1)住宅地盤に関するトラブル
住宅地盤に関するトラブルには、不同沈下、基礎の亀裂、住宅の傾斜、滑動(すべり)、地震時液状化による噴砂や不同沈下や今年4月11日に大分県中津市耶馬渓地内で発生した裏山の斜面(がけ地)崩壊などがあります。特に、不同沈下には表-12)や図-13)に示すような11もの原因例があります。さらに、この不同沈下によって住宅の床が傾斜すると、その大きさによっては健康障害を生じることがあります(図-24)参照)。
(2)住宅地盤のトラブル対策
この対応策としては、まず、事前に詳細な住宅地盤の調査を行えば回避出来た可能性が考えられる場合があります。これは、地盤の中は見えないこと、土の種類・状態、過去の履歴、外力の種類や作用などが分からないからです。つまり、不同沈下、基礎の亀裂、住宅の傾斜、滑動(すべり)、地震時液状化による噴砂や不同沈下、裏山の斜面(がけ地)崩壊などのリスクを事前に洗い出しを行うために調査を実施して、その対応策を講じることが必要です。つぎに、不同沈下、基礎の亀裂、住宅の傾斜、滑動(すべり)、地震時液状化による噴砂や不同沈下、裏山の斜面(がけ地)崩壊などが生じた場合には、その原因として、もともと持っている地盤の特性(素因)が、荷重(外力)の変化、豪雨、地震などを切っ掛け(誘因)として発生したのかを知るための調査計画を立案して、調査を実施し、その結果をもとに対応策を講じることになります。
このように、住宅地盤に関するリスクを把握して、その対応策を講じることやリスクが顕在化した場合の原因究明と対応策を講じることができる技術者が「地盤品質判定士」であると言えます。
4.地盤品質判定士会の組織と事業
(1)地盤品質判定士会の組織
地盤品質判定士会は、住宅及び宅地の防災及び国民の安全に貢献するために、会員の技術の研鑽とモラルの向上ならびに社会への啓発を図ることを目的として、2015年に地盤品質判定士協議会の内部組織として設立されました(図-3参照)。
地盤品質判定士会は、正会員(地盤品質判定士)と準会員(地盤品質判定士補)から構成されています。
(2) 地盤品質判定士会の事業
地盤品質判定士会では、この目的を達成するために、資格制度監理委員会と協力して以下の事業を行います。
a) 地盤品質判定士等の知識と技術力の維持向上
に必要な施策の実施
b) 地盤品質判定士等の業務と活用などの推進
c) その他、目的達成に関して必要な事項
つぎに、この事業の運営は、幹事長、副幹事長及び幹事から構成される幹事会で審議・決定などが行われます。
また、地盤品質判定士会は、会務を分掌するため、総務・企画委員会、広報委員会、技術委員会をおき、活動を行います(図-4参照)。
総務・企画委員会は、幹事会に関する事務、各委員会間の調整、企画の検討、関係機関との連携等、支部の発足に関する事項を行います。
広報委員会は、地盤品質判定士会の広報活動に関する事項を行います。
技術委員会は、講習会等の開催、技術情報の収集・発信、技術指針の作成、研究、地盤相談会の開催等に関する事項を行います。
5.地盤品質判定士会の役割
地盤品質判定士会の役割は、地盤品質判定士会の目的である「住宅及び宅地の防災及び国民の安全に貢献するために、会員の技術の研鑽とモラルの向上ならびに社会への啓発を図る」ことと地盤品質判定士の「知識と技術力の維持向上に必要な施策の実施」、「地盤品質判定士の業務と活用などの推進」及び「目的達成のために必要な事項」などの事業を実施することです。
まず、知識と技術力の維持向上に必要な施策の実施としては、宅地地盤の品質評価に関する技術講習会を2014年から毎年開催し、地盤品質セミナーを2016年から毎年開催しています。
つぎに、地盤品質判定士の業務と活用などの推進としては、一般市民の方を対象とした出張無料相談会を2016年より地盤工学研究発表会に合わせて開催しております。また、熊本地震で大きな被害を受けた地域、一般市民の方々の復旧・復興の手助けとして、熊本市等とも連携・協力して、熊本地震対策部会6)がセミナーや相談会なども開催しています。
そして、住宅及び宅地の防災及び国民の安全に貢献するために、会員の技術の研鑽とモラルの向上ならびに社会への啓発を図る目的達成のために必要な事項としては、2016年から地盤工学研究発表会においてディスカッションセッションを開催し、地盤に関わる諸問題について実態と地盤品質判定士の業務を紹介して、地盤の品質評価における地盤品質判定士の役割と期待等について議論しています。
6.おわりに
地盤品質判定士会としては、住宅及び造成宅地の防災・減災を通じて住環境の安全性向上に努力していきたいと考えています7)。
また、前回も示しましたが、地盤品質判定士は常々以下のようなことを考えています。
①宅地の安全・安心のためには、土地選びが重要です。
②このためには、宅地の特徴を理解し、納得した上で土地を選んでください。
③地盤対策工には万能な方法はありません。利点と欠点があることを理解してください。
④宅地の安全性は、時間の経過とともに変化することがあり、定期点検は必要です。
なお、弊社には地盤品質判定士が3名おります。住宅地盤に関する相談ならびに住宅地盤の品質判定などが行えます。
次回は、「地盤品質判定士について(3)─地盤品質判定士及び判定士会の活動と宅地防災について─」を紹介します。
追って
6月28日(木)から7月8日(日)にかけて台風7号の影響や前線の影響により、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨となり、河川の氾濫、浸水害、土砂災害などが多数発生し、7月21日現在、死者219人、行方不明者16人となる甚大な災害となりました(平成30年7月豪雨)。
被災された皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、犠牲になられた方々とご遺族の皆様に、深くお悔やみを申し上げます。
地盤品質判定士会としては、技術委員長と被災地域近隣の地盤品質判定士が初動調査を始めました。山沿いに宅地が多く存在する地域では、土石流やがけ崩れなどの土砂災害による被災が多くなっていることが報じられており、今後の被害調査の課題としています。
<参考資料・文献 >
1)地盤品質判定士協議会:2017年度地盤品質判定士の検定試験、受験の手引き
2)小規模建築物基礎設計指針:(社)日本建築学会編、p.255、2008年9月25日
3)小規模建築物基礎設計指針:(社)日本建築学会編、p.256、2008年9月25日
4)建築士のためのテキスト小規模建築物を対象とした地盤・基礎:(社)日本建築学会、p.31、2008年
5)地盤品質判定士協議会ホームページ:http://www.jiban-jage.jp/
6)地盤品質判定士会ホームページ:http://www.hanteisi.org/
7)北詰昌樹:地盤品質判定士の役割と活動実績、2017年度地盤品質セミナー、p.6、2018年1月27日