前回は、地盤品質判定士会の組織と役割について地盤品質判定士会の設立目的,組織,事業,役割などを紹介しました。地盤品質判定士の資格制度が出来てから2018年度(平成30年度)で5年となります。地盤品質判定士の資格更新は,5年毎に行われますので、現在、初年度に地盤品質判定士の資格を取得した地盤品質判定士の資格更新手続きが行われています。
この資格更新には、5年間のCPDポイント(Continuing Professional Development:技術者の継続教育)が125ポイント必要となります。つまり、地盤品質判定士は、日々技術の研鑽をしていく必要があります。
このため、地盤品質判定士会では、(公社)地盤工学会,地盤品質判定士協議会と連携して学会活動,セミナー・講習会などを行っています。また、住宅及び宅地の防災において国民の安全・安心に貢献すること、地盤品質判定士資格制度を社会へ啓発することなどを目的として無料の地盤相談会・講演会の活動を行っています。今回は、これらの活動について紹介します。
1・はじめに
2.判定士幹事会について
地盤品質判定士会は、前回も紹介したとおり、住宅及び宅地の防災において国民の安全・安心に貢献するために、会員の技術の研鑽とモラルの向上ならびに社会への啓発を図ることを目的として、2015年に地盤品質判定士協議会の内部組織として設立されました。図-1に地盤品質判定士協議会の組織図を示します。また、この地盤品質判定士会は、正会員(地盤品質判定士)と準会員(地盤品質判定士補)から構成されており、支部も神奈川,熊本のほか大阪が2018年11月に設立されました。北海道でも胆振東部地震災害を契機として設立の機運にあります。
3.地盤品質判定士会の活動
前述したように、地盤品質判定士会は、住宅及び宅地の防災において国民の安全・安心に貢献するために、会員の技術の研鑽とモラルの向上ならびに社会への啓発を図ることを目的としております。このための活動として、学会活動,セミナー・講習会及び無料相談会などを行っています。
3.1 ディスカッションセッションの開催
地盤品質判定士会は、(公社)地盤工学会が毎年開催する地盤工学研究発表会のディスカッションセッション(DS)において、地盤品質の判定に関する課題や地盤品質判定士の役割と期待などについて論文発表を行い、地盤品質判定士だけではなく,地盤工学に携わる研究者や技術者とディスカッションを重ねており、日々研鑽の糧としております。
このディスカッションセッションは、2016年度の第51回地盤工学研究発表会から始まり、2018年度までに3回行われました。各年度におけるディスカッション項目を以下に示します。
・第51回地盤工学研究発表会(岡山大会)のディスカッションセッション(DS-13),地盤品質判定士の役割と期待」,2016年9月15日(木) 9:00〜12:10
・第52回地盤工学研究発表会(名古屋大会)のディスカッションセッション(DS-9),「地盤品質判定士の役割と期待」,2017年7月13日(木) 9:00〜12:20
・第53回地盤工学研究発表会(高松大会)のディスカッションセッション(DS-8),「地盤品質判定士制度のさらなる活用に向けて」,2018年7月25日(水) 9:00〜12:20
来年度も第54回地盤工学研究発表会(大宮大会)においてディスカッションセッションを行う予定です。
3.2 セミナー・講習会
セミナー・講習会は、地盤品質判定士・地盤品質判定士補のスキルアップやこれから地盤品質判定士を受験する技術者及び建築構造物の地盤に関わる業務を行っている技術者などの技術の研鑽とモラルの向上に寄与することを目的として行っています。講師には地盤品質判定士の他,大学の先生,地盤技術者(土木・建築),弁護士,裁判官,建築士,不動産鑑定士など多方面の方々にお願いしております。
(1)地盤品質セミナー
地盤品質セミナーは、地盤品質判定士協議会の主催により地盤品質判定士会が運営しています。これまで、3回行われました。今年度は、大阪で開催される予定です。
・「地盤紛争の解決に向けて〜紛争事例から学ぶ〜」,2016年2月6日(土)
・「地盤に起因する土木・建築のトラブル事例とその解決にむけての地盤品質判定士の役割」,2017年2月18日(土)
・「地盤を原因とした土木・建築障害対策への地盤品質判定士へのニーズと役割」 《移り変わる地盤障害対策ニーズにどう対応するか》,2018年1月27日(土)
(2)講習会
講習会は、(公社)地盤工学会と地盤品質判定士協議会の共催で行われました。
地盤品質判定士スキルアップ講習会
・「宅地地盤の評価に関する最近の知見講習会」,2017年3月22日(水)
・「宅地地盤の評価に関する最近の知見講習会」,2017年6月27日(火)
・「宅地地盤の評価に関する最近の知見講習会」,2017年11月27日(月)
・「宅地地盤の評価に関する最近の知見講習会」,2018年2月8日(木)
宅地地盤の評価に関する最近の知見講習会
・「宅地評価の基礎知識と宅地防災」,2018年6月22日(金)
・「盛土の安定と宅地の液状化」,2018年9月26日(水)
・「小規模建物の基礎と地盤,擁壁と盛土の安定,地震による杭被害」, 2018年11月29日(木)
3.3 住宅地盤相談会・講演会
一般市民向け住宅地盤相談会・講演会は、住宅及び宅地の防災において国民の安全・安心に貢献すること、地盤品質判定士資格制度を社会へ啓発することなどを目的として行っています。なお、この住宅地盤相談会・講演会は、無料で行われています。これまで行われた無料住宅地盤相談会・講演会の主なものを以下に示します。
・第51回地盤工学研究発表会(岡山大会)後にお いて「地盤と住宅のトラブルお教えします 悩み聞きます・応えます 〜無料講演会と無料相談会〜」,2016年9月17日(土)
・第52回地盤工学研究発表会(名古屋大会)において「地盤品質判定士による住宅地盤相談会」と「住宅トラブルのなぜ?どうする?なっとく!〜 住宅地盤に潜むリスクに関する講演会〜」,2017年7月13(水)
・熊本県益城郡益城町(グランメッセ熊本)において「地盤品質判定士による住宅地盤相談会」と「宅地の復旧・復興に関する講演会」,2017年9月20日(水)〜21日(木)
・第53回地盤工学研究発表会(高松大会)において「無料住宅地盤相談会」2018年7月24日(火)〜26(木),「知りたい!宅地の安心、安全 講演会〜宅地地盤に潜むリスク〜」,2018年7月25日(水)
3.4 熊本地震災害2)対応
地盤品質判定士の資格制度は、2011年(平成23年)3月11日(金)14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震の地震動によって盛土の滑動や液状化等の被害を被った宅地地盤の品質・安全性の評価・品質判定を行い、主に宅地における地盤災害の防止や軽減に貢献することを目的として2013年(平成25年)に創設されました。
この地震から5年後には、熊本県熊本地方において2016年(平成28年) 4月14日(木)21時26分に発生した地震(マグニチュード6.5),4月16日(土)1時25分に発生した(マグニチュード7.3)地震によって、死者161人,重傷者1,087人,軽傷者1,605人の人的被害となりました。特に、住宅は、全壊8,369棟,半壊32,478棟,一部破損146,382棟及び公共建物325棟など多くの被害が発生しました。
このため、地盤品質判定士会としては、地震後1年1ヶ月が経過し、被災地が復旧・復興期に入り、被災者の方々が住宅の再建に向かおうとしている段階(2017年6月時点)において、これらの被災者の支援活動を行う目的で、「熊本地震対策部会」を立ち上げました。活動としては、被災者を対象とした住宅再建の相談会の実施やコンサルティングです。現在、熊本市在住の田尻雅則地盤品質判定士を部会長として19名の地盤品質判定士が入会し、相談会等に参加しております。
3.5 平成30年(2018年)の災害対応
平成30年(2018年)にも多数の災害が発生しました。大きなものですと6月の大阪府北部地震,7月の西日本豪雨,9月の北海道胆振東部地震などです。これらの災害発生後には、地盤品質判定士会や近隣の地盤品質判定士などが災害調査を行いました。
(1)大阪府北部地震3)
2018年6月18日(月)7時58分大阪府北部を震源とするマグニチュード6.1の地震が発生しました。この地震動により、死者5人,重傷者9人,軽傷者390人の人的被害となりました。住宅は、全壊0棟,半壊29棟,一部破損2,323棟などの被害となりました。この地震動により高槻市において9歳女児と大阪市において80歳男性がブロック塀の崩壊に巻き込まれて死亡したことです。
これを受けて、ブロック塀の点検や安定性に関する講習会が行われています。地盤品質判定士会においてもブロック塀や擁壁の地震時安定性に関する研究や講習会を行っていく必要のあることを確認しています。
(2)平成30年7月豪雨4)
前線や台風第7号の影響により、2018年6月28日(木)から7月8日(日)にかけて西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となりました。この大雨による降水量は、高知県安芸郡馬路村(魚梁瀬)で1,852.5ミリ,徳島県那賀郡那賀町(木頭)で1,365.5ミリ,岐阜県郡上市(ひるがの)で1,214.5ミリなど7月の月降水量平年値の2倍から4倍が11日間で降ったことです。この豪雨災害においては、死者224人,行方不明者8人,重傷者109人,軽傷者315人の人的被害となりました。住宅は、全壊6,695棟,半壊10,719棟,一部破損3,707棟,床上浸水8,640棟,床下浸水21,576棟及び公共建物9棟など多数の被害となりました。
この7月豪雨災害については、7月25日(水)に地盤工学研究発表会(高松大会)において地盤品質判定士会幹事会の尾上技術部会長が宅地地盤の被災状況について報告を行いました。
(3)平成30年北海道胆振東部地震5)
2018年9月6日(木)3時7分胆振地方東部を震源とするマグニチュード6.7の地震が発生した。この地震により死者41人,重傷17人,軽傷674人,住宅の全壊394棟,半壊1,016棟,一部破損7,555棟などの被害となりました。
この地震動災害の特徴としては、苫東厚真火力発電所の停止により北海道全道において停電(ブラックアウト)が発生しました。また、札幌市清田区の里塚1条地区では、地震時液状化によって宅地地盤や道路及び上下水道が被害を受けました6)。
このため、地盤品質判定士会では、熊本地震対策部会と同様の活動を行う北海道支部を立ち上げる予定です。
4.おわりに
地盤品質判定士の資格制度は、2011年(平成23年)3月11日(金)14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震の地震動によって盛土の滑動や液状化等の被害を被った宅地地盤の品質・安全性の評価・品質判定を行い、主に宅地における地盤災害の防止や軽減に貢献することを目的として2013年(平成25年)に創設されました。
2018年度(平成30年度)でまる5年となります。
また、2018年2月27日付で、地盤品質判定士が、国土交通省の「平成29年度公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格」のうち、「宅地防災」の施設分野で登録されました。国及び地方公共団体が発注する宅地防災に関わる業務において、地盤品質判定士が管理技術者・照査技術者を担当することのできる資格となりました。社会で幅広く活躍することが期待されています。このことにより、自治体などからの地盤災害・復旧事業に関しての依頼・要請が増えています。
さらに、住宅地盤に関連した訴訟においては、地盤品質判定士が専門員として裁判に関わることや意見書を作成することなども多くなってきています。
このように、一般市民の方だけではなく、自治体などからの地盤品質判定士への期待も大きくなってきています。この一方で地盤品質判定士制度の普及,自治体などへの技術の普及と伝達などの重要性も増しています。また、限られた情報で地盤の品質を判定しなければならない場合が多く、技術的な難しさも明らかとなっているため、判定士には常日頃からのスキルアップが求められています7)。このため、地盤品質判定士協議会や地盤品質判定士会においては、学会でのディスカッションやセミナー・講習会でのスキルアップと宅地地盤相談会などを継続して行い、国民が専門家の知識・経験を活用できる社会システムを構築すること、地盤の品質を判定できる専門的知識と経験及び技術力によって、住宅及び造成宅地の防災・減災を通じて国民の住環境の安全性向上に寄与することに努力を重ねていく必要があることを再認識しています。
<参考資料・文献 >
1)地盤品質判定士協議会ホームページ:http://www.jiban-jage.jp/
2)平成28年(2016年)熊本県熊本地方を震源とする地震に係る被害状況等について:非常災害対策本部,平成30年10月15日
3)大阪府北部を震源とする地震に係る被害状況等について:総務省 内閣府,平成30年6月22日
4)平成30年7月豪雨による被害状況等について:非常災害対策本部,平成30年10月9日
5)平成30年北海道胆振東部地震に係る被害状況等について:総務 省内閣府,平成30年10月5日
6)平成30年北海道胆振東部地震による液状化被害:(公社)地盤工学会 平成30年北海道胆振東部地震による地盤災害調査団,2018年10月2日(火)
7)北詰昌樹,森友宏:DS-8「地盤品質判定士制度のさらなる活用に向けて」,地盤工学会誌11月・12月合併号,2018年11月