沼沢湖は、福島県奥会津(大沼郡金山町)に位置し、約4万5千年前と約5400年前の大規模な噴火によって誕生したカルデラ湖です。カルデラを形成した大規模噴火の前後にも溶岩ドームを形成した小規模な噴火を繰り返しました。これら一連のカルデラや溶岩群を総称して沼沢火山と呼ばれています。火山活動が作り出した美しい地形に加え、カルデラに地下水が溜まり、透明度の高い湖が誕生しました。湖の概要は、直径約2km,湖水面の標高475m,水深は最も深い元の火道と思われる付近で95mに達します。気象庁は2003年の活火山見直しで、新たな活火山として認定をしました。「沼沢火山の生い立ち・沼沢火山周辺の地質」については、道の駅「奥会津かなやま」に詳細に記載されたパネルが掲示してあります。また、高度成長期の電力安定供給を目的として、只見川との落差を利用した揚水発電所が、昭和57年5月までに2基建設され発電が開始されました。今後期待される再生可能エネルギー利用促進の先駆けとなった地域でもあります。
現在沼沢湖周辺は、「深い森に抱かれた伝説の湖」として、登山・キャンプ・湖水浴そしてニジマス釣りさらには世界中の妖精が集まる場所として賑わう観光地となっています。この地には、『その昔、湖には大蛇が棲み、民は恐れおののいていた。時の領主佐原義連はこれを退治して供養した。』という伝説が語り継がれており、毎年夏には多くの観光客が集まる「沼沢湖水祭り」が2日間にわたって開催されています。
今回は、美しい沼沢湖の外輪山である惣山(816m)・前山(835m)を周遊する山紀行、「妖精遊ぶ秋の沼沢湖周遊」を紹介します。ちなみに、妖精とは自然の精霊で大蛇も広いくくりでは妖精の仲間だそうです。
☆2018年10月13日(土) 快晴
毎年10月も半ばになってくると紅葉を目的とした絶景の山歩きを期待して、ワクワクしながら週末を迎える。本日の天気予報は快晴、自宅をまだ薄暗い5時20分にスタートし、沼山湖畔の妖精美術館駐車場を目指す。磐越自動車道~国道252号線、三島町から県道237号線(小栗山・宮下線)を経て、妖精美術館駐車場には7時11分に到着する。夏の湖水祭りのときのような賑わいはなく、駐車場は「シーン」と静まりかえっており、車外に出ると気温は13℃と肌寒い。帽子・手袋といった防寒具を身に着け準備を整えて、駐車場を7時28分にスタートする。惣山の登山口まで、湖畔のサイクリングロードと車道を北進することになるが、自然休養村センター付近のサイクリングロードがルート上の最低高度481mであることから、最高高度前山までの比高は約354mとなる。湖を囲む外輪山の惣山・前山の山頂付近はモヤに覆われているものの青空の面積が徐々に広がってきており、透明度の高い水面に朝日が反射をしてキラキラと輝いている。歩き始めて27分、サイクリングロードと車道を2.2㎞歩き、7時55分に赤い鳥居と「沼沢湖一周遊歩道・惣山」の道標がある福沢登山口に着く。参道から神社の左わきをすり抜け登山道入り、植林された杉林の中を緩やかに登っていく。登山道は良く整備され木枠階段状になっているが木の表面が苔むしており、朝露で大変滑りやすい。道は、九十九折れとなり一気に高度を稼ぐことになる。紅葉の色づきはまだ早く木々が鬱蒼と茂っており、湖を眺望することはできない。
九十九折れが終わると、8時15分に朽ちかけたベンチ設置個所(第一のベンチ),標高613m地点に着く。ここで帽子や手袋そして防寒着を脱ぎ軽快な登山スタイルに、ここからさらにアップダウンを繰り返しながら、周遊していくことになる。黄色に色づく葉が主体で、まだまだ絶景の紅葉には早いもののモヤの中は幻想的でまさに妖精遊ぶ雰囲気となる。ブナやナラが目立つ尾根道を登っていくと、モヤの切れ間から湖面が見え隠れし、切れ落ちた惣山の東壁が迫っていることが確認できる。鎖場を通過すると、8時36分(登り始めて1時間8分)で標高698m地点に到達する。ここにも朽ちかけた丸太がベンチ(第2のベンチ)として設置してあり行動食としてみかんを口に放り込み、一旦下降をして次のピークを目指す。モヤは一段と濃くなり、木の根を跨ぎながら尾根の縁を歩いて行く。赤岩と呼ばれる露岩部の痩せ尾根をロープやチェーンを頼りに、そして露岩を跨ぐように設置された簡易パイプの足場を慎重に通過をして、遅れて登ってくる相棒を待つ。周辺を見わたすとモヤは徐々に上がり始め、周辺の木々が赤・黄に色づいていることがわかる。アップダウンにうんざりといった表情の相棒から「山頂に着いたら笛を吹いて」と、早く山頂に着いた合図として笛を吹きたいが、なかなか山頂は遠い。結構急な斜面を登り切り山頂間近と思っていたら残念また下降、天空は真っ青となり焦る気持ちを切り替えて、ゆっくりゆっくりと歩を進める。すると、太いブナに赤ペンキで384と書かれている。この数字は何を意味するのかと考えつつ斜面を一気に登り、中継施設のパラボラアンテナ(東北電力の施設)が大きく確認できるようになると、9時22分(登り始めて1時間54分)に標高816mの惣山山頂に着く。山頂に着いた合図として笛を鳴らすと、相棒は案外近くまで登ってきており、すぐに合流することができた。
山頂は、比較的広く山名標識と休憩用のベンチが設置してある。ここから沼沢湖が眼下に見え、さらに東側から北側に雄大な風景が眺望できるはずであったが、若干モヤが残り絶景をフルスクリーンで観ることができなかった。気温は19℃まで上がり汗ばむ体を休め、行動食として準備をしてきた果物を食べながら一休み。約20分間の小休止を終え、現在メンテナンス中の中継施設右側をすり抜け幅の広い林道に出る、とすぐに三叉路となり、太郎布登山口方向へ。ここから九十九折れの斜面を一気に高度を下げて、次のポイント「太郎布野鳥の森」を目指す。どこまでも下降する登山道を淡々と下り、10時2分(惣山山頂から20分)に標高716m地点のベンチ(第3のベンチ)に着く。ここから後ろを振り返ると、若干色づき始めた惣山が青空に映え美しく聳えている。この付近の木々の密度は薄く、沼沢湖が見え隠れするようになる。第3のベンチからさらに九十九折れの下降はまだまだ続き、約20分で鞍部(地形図から標高601m)を通過、再び登山道は登りになる。登りは北西斜面で陽射しはあまり届かず、鬱蒼とした登山道を単独で行動することは心細いだろうなあと、相棒に感謝して歩を進める。空が一気に開け案内板のある太郎布野鳥の森に10時24分(惣山山頂から42分)に到着する。ここの案内板には野鳥の種類と鳴声(カタカナ表記)が掲示してあり、集中して鳴声に耳を傾けるが野鳥の種類を特定することはできなかった。さらに進むと三叉路となりと、太郎布登山口への分岐となる。ここの道標にはそれぞれ「惣山登山口3㎞」「前山登山口1㎞」と記されており、一気に長い距離を下降してきたことがわかる。ここからいよいよ前山への最後の九十九折れとなり再び高度を上げていく。一旦下りモードになった自分の体を登りモードに、ギアチェンジすることは大変キツク、一歩一歩登山道を踏みしめながら進む、相棒はと振り返ると、クリの実が多く落ちていることから、クリが大好きな相棒は味見をしながら元気にそしてのんびりと歩いてくる。「冬眠する熊用だから」といっても、一向に前に進んでこない。前山から西側斜面に当たる登山道は、鬱蒼と茂った木々に日光の温かさが遮られ、気温は12℃に低下をしているが、九十九折れの急登は体をポカポカと熱くしてくれた。10時51分、九十九折れが終わり斜面は緩やか(地図上で760m付近)になり、相棒も登りに専念し懸命に追いかけてくるのがわかる。携帯ナビで目的地までの距離が徐々に少なくなっていくことに楽しさを噛み締めながら、水分を多量に含んだ枯葉の急斜面を登り斜面が緩むと、11時4分(惣山山頂から1時間22分)に前山山頂に到着する。前山山頂にも惣山同様に山名標識があり、標識にタッチしてすぐに相棒に笛で合図を送る。周辺の木々に目を向けるものの紅葉にはまだ少し早く、山頂部は木々に囲まれ展望はない。相棒の到着を待って、アツアツの特製ラーメンを作って大休止とし、誰とも合わなかった本日の山行を振り返る。
前山山頂では、47分ほど休憩し11時51分に下山を開始する。10分ほど進んだ露岩部が、このルート最大の展望地点となり、眼下に沼沢湖とジオラマのような里山の風景を眺望することができた。また、下山路は東側斜面となり、木々の葉が鮮やかに色づいて、今日一番の絶景を見ることができた。後は、樹林帯となり九十九折れを一気に高度を下げ杉林に入っていく。道がぬかるんでくると湖畔に沿った遊歩道となり、やがて前山山頂から58分で「前山登山口1.7㎞」の道標がある林道に出る。ここからは、湖畔に沿って惣山・前山の眺望を楽しみながら進み、13時1分(前山山頂から1時間10分)に妖精美術館駐車場に到着する。本日は、静かな沼沢湖周遊を楽しむことができた。明日の天気も晴れ、温泉と地酒を楽しみに民宿へ。
【総行動時間 4時間20分,総休憩時間1時間13分,積算距離 12.2㎞】