1.はじめに
福島県の県都である福島市は周囲を山に囲まれた盆地です。夏場の暑さについて頻繁に「福島盆地」だからねと話題になります。そんな福島盆地のへそに該当する部分に、周囲から頭一つとびぬけた標高275mの信夫山─福島市のシンボル的存在が位置しています。
この信夫山は歴史的にも地質的にも興味深い場所ですが、今回は信夫山に複数存在する湧水をご紹介いただき取材に訪れました。取材した湧水の場所を図-1に示します。
1.はじめに
福島県の県都である福島市は周囲を山に囲まれた盆地です。夏場の暑さについて頻繁に「福島盆地」だからねと話題になります。そんな福島盆地のへそに該当する部分に、周囲から頭一つとびぬけた標高275mの信夫山─福島市のシンボル的存在が位置しています。
この信夫山は歴史的にも地質的にも興味深い場所ですが、今回は信夫山に複数存在する湧水をご紹介いただき取材に訪れました。取材した湧水の場所を図-1に示します。
2.それぞれの湧水について
① 養山大清水
養山大清水は信夫山の西側、新幹線のトンネルの袂付近に位置しています。
案内板にはこの場所が月山神社山道の入口に該当し地名をとって養山口といわれること、元禄4年(1691年)銘の庚申塔が建立されており、昔から信仰を集めてきたことなどが書かれております。
これまで多くの参詣者の往来をこの湧水は見てきたのかなぁと、感慨深いものがあります。取材時の水量はやや少ない状況でしたが、整備されており時期によって水量が変化することが考えられます(写真-1)。
② たんたら清水
たんたら清水は信夫山の中央部、高度で100mほど登った中腹よりやや下の道路脇に湧出しています(写真-2)。
岩盤の露岩部で湧水しており、岩盤の亀裂を流下する裂か型の湧水であることが分かります。湧水量は毎分2.0L程度でしょうか。
案内板によれば流れ落ちる水音が、「たんたら・たんたら」と聞こえたのではと説明されていました。どんな日照りでも枯れることがないとのことから、裂か型の湧水の特徴が表れているのではと考えられます。
③ 瀧同神社の清水
この湧水は信夫山の東側に建立された瀧同神社の境内で触れることができます。実際の湧出地点は塩ビパイプで引き水を実施していることから確認することは出来ませんが、不動尊として祠が建てられており本殿と合わせて大切にされてきたことが分かります(写真-3)。
3.信夫山の地質
信夫山では今でも木の葉や魚の化石が産出することで知られています。ちょっと意外な気がしますね。この理由は信夫山の形成過程に秘密があります。
信夫山周辺部の地層は約1,000万年前に東北地方がまだ海底だったころに堆積したと考えられています。その後、奥羽山脈の隆起に伴い福島周辺は陸地化しましが、信夫山周辺部は流紋岩貫入の影響で硬質化したようです。
約20万年前には断層運動をともなう陥没が起こりはじめ、周囲から砂や礫、シルトなどの未固結堆積物が流入し現在の盆地内を埋積するようになりました。信夫山周辺は周囲の地層より硬い状態であったことから、盆地内に取り残されることとなり、現在の様相を呈していると考えられています。
このような特徴のある地形は「残丘」や「独立丘陵」と呼ばれています。
信夫山周辺部の地質(図-2)をみると、信夫山が凝灰岩や砂岩などの固結堆積物で構成されている一方で、周辺部は砂や礫、泥といった未固結堆積物が広く分布していることが確認できます。
現在でも周辺の山地は盆地北西縁の断層帯を境に隆起する一方、盆地自体は沈降しているそうです。確かに未固結堆積物の周囲からの流入・堆積が続けばいつかは埋積されて盆地でなくなってしまいますよね。
4.湧水の水質について
湧水を採水して実施したイオン分析結果を基に作成したトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを示します(図-3、図-4)。結果を見るとこれまで取材してきた湧水と性質が異なっていることが分かります。
トリリニアダイヤグラムでは、各湧水が領域Ⅳに区分されています。凡例を見ると、この領域は海水が混入した地下水が区分される領域となっています。
また、ヘキサダイヤグラムにおいても海水に多く存在するNa++K+やCl−の割合が多くこれまで訪問してきた湧水とは性質が大きく異なっています。
信夫山自体がかつての海底に堆積した堆積物に由来する岩盤で構成されていることが分かりましたが、かつての海水そのものが湧水として湧出しているとは考えにくそうです。信夫山周辺に降った雨水が裂か水として岩盤の亀裂部を流れるなかで、岩盤中の海水成分が付加された結果として海水の成分を含む地下水として湧出しているのではないかと予想されます。
過去の信夫山形成の歴史と現在の湧水の成分とがリンクしており、とても興味深い結果となりました。
5.おわりに
信夫山には多くの神社が建立されており、古くから信仰の対象とされてきたことが分かります。信夫山に関連する伝承も多く存在するようです。また、その成り立ちも特徴的であり、現在では公園として整備され春の桜の名所や登山コースとしても多くの人に愛されています。
今回の取材では、私達が触れることのできる湧水と信夫山の生い立ちに繋がりがあることが分かりました。また、湧水が過去の歴史の流れの中で人々の信仰とも深く関わってきたことも感じることができました。
信夫山は歴史が好きな方、自然が好きな方、体を動かすのが好きな方などそれぞれに楽しみを見つけることができる場所だと思います。皆様もぜひ今回取材した湧水をはじめ、いろいろな信夫山の楽しみを発見する小旅行に出かけられてはいかがでしょうか。
<謝辞>
今回の取材にあたっては、一般社団法人福島県建築士事務所協会専務理事の新関 永様に信夫山の湧水としてご紹介をいただき、現地では各湧水の案内をしていただきました。
この場を借りて御礼申し上げます。