1.はじめに
郡山市東部に位置する中田町は、緑ヶ丘東町まで整備された花木団地で有名な農村地域です。桜の名所でもあり、秋には伝統芸能の柳橋歌舞伎の上演や特産品の海老根和紙で作製した灯籠のお祭りを楽しむことができます。
今回は、中田町で地域の方の生活用水として利用されている「五百目の名水」を訪れました(写真-1)。
2.位置について
本湧水は福島県郡山市中田町下枝五百目地内、県道65号沿いに位置します。福島県を東西に横断する国道49号線を郡山市からいわき方面へ向かい、田村町に入ります。「栃本」と書かれた小さな看板がついた信号がある交差点を左折し、県道40号を北上します。突き当りを左折し、県道65号に入りしばらく道なりに進むと右手に標識(写真-2)と東屋が見えてきます。そこが五百目の名水です。
駐車場は東屋の左手にございますので、そちらをご利用ください。
3.湧水の水質について
湧水の性質を調べるために、イオン分析を実施してトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを作成しました(図-2)。
五百目の名水はトリリニアダイヤグラムでは領域Ⅰに
プロットされたことから、比較的浅い場所を流れる一般的な地下水であると考えられます。
ヘキサダイヤグラムも、ほぼ六角形を示すプロファイルとなりました。ただし、他の湧水よりも若干横に張り出した六角形を示しており、カルシウムイオンや炭酸水素イオンの割合がやや多いと言えそうです。
4.地質と湧出機構
湧水周辺部の地質分布図を示します(図-4)。
「五百目の名水」が位置する郡山市中田町周辺は、阿武隈山地の西縁部付近であり、花崗岩類が広く分布する地域です。湧水部を直接観察することはできませんが、花崗岩地帯の湧水であり、降水量が少ないこの時期でも毎分6.0〜8.0Lと一定の湧水量があることから、花崗岩部の亀裂部を流れる裂か水の湧水ではと思います。
湧水の位置する場所が表層地質図上では角閃石黒雲母花崗閃緑岩〔Gr(Ⅲ)〕と淡紅色黒雲母花崗岩〔Gr(Ⅳ)〕の境界部付近に位置するため、異なる岩盤の境目を流れてきた地下水かもしれません。
一方、ヘキサダイヤグラムでは六角形に近くトリリニアダイヤグラムでも領域Ⅰにプロットされるため、岩盤に浸み込んだ雨水がそれほど長い時間を置かずに亀裂部を移動し湧出しているため、浅部を流れる地下水に近い性質を示していると考えられます。
地元の生活を支えるため、比較的早めに湧出してくれているのかもしれませんね。
5.伝承と思いに触れて
湧き水の由来について次のようなことが書かれていました。
“昔は急な坂道で、多くの人々はこの清水で一休みし、のどを潤しました。あまりのおいしさにある村人が一升びん(四百八十目(匁))に一杯詰めて持ち帰り、重さを計ると五百目(匁)あった。以来、五百目の清水と言われるようになり、地名も五百目と呼ばれるようになった。”
とあります。湧水の由来がそのまま地名になっているとは、少し不思議な気がしますね。
また、「五百目清水のさざなみ消えし写す二人の水鏡」という俗謡が残っているように、若い男女の縁結びの役を果たしたと記されています。
湧水は地域の小中学生や訪れる方の手で綺麗に清掃され、大切にされていることが伺えました。石碑の隣で真新しいマフラーで包まれた縁結びのおじいさんおばあさんの石像からも伝わってきました。
「五百目の湧水」は郡山市内では有名な湧水ですが、これまで湧水シリーズで取り上げたことがなく、今回初めて取材に訪れました。地元の皆様の生活の一部としてともに時間を過ごしてきた湧水であり、大切にする心が水のおいしさにつながっているのかなと感じる新年となりました。
※新協地水(株)技術部