蓬田岳(952m)は平田村・郡山市・須賀川市の境界に位置し、早朝自宅マンション(郡山市菜根)から眺望するピラミダルな山容は朝日をバックに美しく、阿武隈山地の中でもひときわ目立つ秀峰です。蓬田岳がある阿武隈山地は、中通り地方と、太平洋沿岸部である浜通り地方との間に南北に広大な面積を占めて存在します。山容は隆起準平原で高地部は全体的に平均高度500m前後のなだらかな地形が続いていますが、あちらこちらに残丘として硬い地質の独立峰が突出しており、その代表格が蓬田岳です。全山が白亜紀に貫入した花崗岩で出来ていて、周囲に視界を遮る山々もないことから、素晴らしい眺望を手軽に楽しむことができ、多くの登山者を魅了しています。特に冬場は降雪量が少なく冬型の気圧配置下にあっても比較的好天に恵まれる日が多いことに加え、条件が良ければ富士山や筑波山の眺望スポットとして知られていることから、県内はもとより首都圏さらには新潟および東北各県からビギナーそして中高年の登山者が多く訪れています。さらに、年間を通して蓬田岳のみを登る信奉者もおり、いつも山頂でお会いする人達との会話も楽しみの一つです。
蓬田岳の山麓には、「ジュピアランドひらた」が広がっており整備された駐車場そしてトイレを完備し、登山の拠点として利用されています。公園南東側にある蓬田新田口は、山頂に鎮座する菅船神社への参道であり、その他公園頂部からの探検コース口とともに良く整備されています。ジュピアランド以外の平田村側からの登山口は、蓬田岳西側斜面からの下蓬田口、打違内口があります。ジュピアランドから山麓の送電線下を通り、郡山市側の糠塚口に周遊することもでき、糠塚口からは一般登りコース、岩登りコース他があります。以前のガイドブックには、「糠塚口は、藪が濃いので一般登山者にはすすめられません」「不明瞭な廃道、立ち入り禁止」という注意書きが掲載されていました。しかし、ここ数年このコースを歩く人も多くなったことから、2017年2月上旬に郡山市が案内板を設置したようです。私も大好きな蓬田岳であり、トレーニングを兼ね年間を通して登っています。特にここ数年単独山行については相棒から「近くで安全な山へ」と言われていることもあり、迷わず蓬田岳へ行くことが多くなりました。この結果、2016年は年間を通して22回蓬田岳の頂に立つことが出来ました。今回は、ジュピアランドを起点とし送電線下を周遊して糠塚登山口・上級者コース(この案内板では)を経て山頂を目指す山行を紹介します。
☆2017年2月12日(日) 曇り時々晴れ
木曜日夜半から寒気が日本付近に居座り、10日(金)朝には郡山でも10〜15㎝の降雪となった。まだまだ郡山市内でも雪は残っているものの休日はじっとしておれず、単独で迷わず平田村のジュピアランドへ。午前9時40分に寒風吹きすさぶ広い駐車場に着くものの、けっこうな雪がまだ残っており登山者の車はない。気温は0度であるが北風は強く叩くように体に当たり、体感気温はマイナス3〜4度に感じる。準備を整え9時52分にスタート、駐車場の標高が約575mであるため山頂までの比高は377mとなる。北西側のバーベキュー管理棟北側階段を上ると送電線巡視路へ、ここから山麓の鉄塔線下6基、標高580〜605mのアップダウンを歩いていく。
送電線は、山頂から見て北から東に延びていることから、「北側には吹き溜まりがありラッセルが必要だろうなあ」と、覚悟を決めてこのコースを選んだが、風が強くガスで見通しも悪くなる上、予想以上に鞍部では雪が深く、一人でのラッセルに難儀をして予想以上に体力を消耗してしまった。紫・ピンクのテープが目印の7基目鉄塔約20メートル手前を左に折れ雑木林そして林道を進むと、スタートして58分、10時50分に車が7〜8台駐車できる糠塚登山口に着く。糠塚登山口は、ジュピアランドから約2.9㎞、標高は約576mでほとんどジュピアランドの駐車場と変わらない高さに位置している。新しいコース案内板が設置された登山口から植林された杉林の中をゆっくりと高度を上げていく。気温はマイナス1度であるが、登山道は沢に沿って取り付いていることから、風の音はするものの体から直接体温が奪われることがなく、ポカポカと温かさを感じながらの登山となる。しかし、幹の太さが15㎝以上ある杉の木々が上空で直接風を受け大きくしなり、「キューキュー」と悲鳴に似た音が聞こえ、雪面に目を落とすと蹄の跡が無数にあることから、不気味さ感じながら前へ進むことになる。11時6分に一般登りコース、11時11分に岩登りコースとの分岐を過ぎ植生が雑木林へと変化すると、本格的な急登となる。この付近から沢の源頭部に当たり、唯一の水場そして玉石、転石がゴロゴロと重なったガレ場となっている。北側斜面で日が当たらないため雪は凍結し大変滑りやすいことから、足の置き場を慎重に確認して進むことに。
源頭部を過ぎ斜面が緩んでくると手作りの小さな案内板があり右の斜面に沿って進む。ここから先、尾根までの北側斜面の凹地形が、このコース最大の難所となる。無雪期であれば美しい雑木林の中を九十九折れに登ることになるが、茶碗を斜めに置いたような凹地形となっていることから、雪が吹き溜まりとなって積雪も多くラッセルと急登の繰り返しで体全体での歩行となる。凍結している箇所では、3点確保のためほぼ四つん這いに近い歩行となり大幅に時間がかかってしまった。茶碗の縁に当たる巨岩・くじら石(2月25日撮影)上部を登り、糠塚登山口から52分、11時42分に北側尾根に到達する。尾根は、積雪はないものの風は強くさらに露出した岩の表面は凍結していて大変滑りやすい。木の幹や枝そして岩など指に触れるものにはしっかりとつかまり、展望岩へ。展望岩から郡山市街地の眺望は大変素晴らしく、しばらく眺めていたい気分となるが、風は一向に収まらず強烈な寒さを感じることから、すぐに行動に移すことに。
展望岩から「モスラの鼻抜け」と呼ばれる岩の隙間を抜け一般登りコースと合流する。ここから先も急登は続くが、難所をクリアした解放感と若干暖かくなってきた春の陽射しに、気分はウキウキとなり山頂を目指す。最後の分岐と菩薩様が乗った大岩の脇をすり抜け、さらに先へ急ぎ樹林帯を抜けると空が広く開け、午後12時15分登り始めて2時間22分で一等三角点が設置してある山頂に到着する。スタート地点の駐車場からの距離は5㎞であったが予想以上の雪の吹き溜まりで悪戦苦闘した結果、いつも以上に時間がかかってしまった。それでも達成感でゆったりとした気分で、山頂北側にある蓬田岳のランドマーク、大石から見る風景は、阿武隈の山々はもとより吾妻、安達太良、磐梯、那須連峰そして飯豊と東北南部の山々を眺望することができ、12月から2月上旬までは、早朝条件がそろえば南西方向に富士山の姿を見ることができる。まだまだのんびりしていたいが、動かないでいると痛さに似た寒さを感じる。太平洋を見渡せる菅船神社脇で、カップラーメンを食べ、凍結した参道を下山。ようやく体そして指先に温かさを感じるようになると、ジュピアランド上部の鳥居に着き、一気に公園内をラストスパートとし駐車場へ。雪の中、誰にも会わない登山であったが、厳冬期の北側斜面を楽しく登ることができ、満足した山行であった。
【登り2時間22分、下り33分、積算距離7.0km】