1.美しい三重塔が会津にあり『雷電山 法用寺』
訪れたのは、大沼郡会津美里町。合併前は新鶴村の山の中腹にひっそりと佇む法用寺。季節は真冬だったせいか、参拝客はわたしたちだけ。白い雪景色に金剛力士像の写真が飾られた仁王門だけが目に留まります。国指定重要文化財に指定されている木造金剛力士立像は、るい焼(もらい火)を防ぐため、現在は観音堂内に安置されているようです。2mを超える像は、1本のケヤキの木から彫り出されたものとのこと。ぜひいつか拝見してみたいものです。門をくぐると5台程度駐車可能な駐車場と近代的なお手洗いが隣接されており、女性の訪問にも嬉しいですね。
さて、あらためて駐車場から見上げると、静かに観音堂が私たちを見下ろしています。そのそばに寄り添うように、会津五桜のひとつである虎の尾桜(とらのおざくら)があります。珍しい品種だそうですが、この日は花ではなく枝には雪が咲いておりました。
『あれが三重塔だよ。』の長谷川さんの声に振り向くと、観音堂の南手約20m程先に目を見張るほどの立派な三重塔が。門側からは木々に隠れて見えない位置だったので、急に現れたように思えたのです。まるでお寺が大切な三重塔を人目から隠し守り続けているようです。雪が残る地面に足をとられながら、それでも三重塔から目を離すことができないまま、近づいてみます。『大昔にこんな建造物が造れるとは、すごいなぁ。』と、こどものような感想。観るだけで、すっと背筋が伸びるような美しさです。三重塔の前はちょうどひらけており、眼下には会津の街並みが広がっています。桜の季節に再訪し、三重塔と虎の尾桜との違った表情も味わいたいものです。敷地内にはイチョウの木も多数みられました。これは秋も来ずにはいられませんね。『近くに中田観音っていうのもあるよ。』と長谷川さん。せっかくなので、ぜひ。
2.野口英世の母シカも信仰『中田観音(弘安寺)』
法用寺より少し北に進んだところに、会津ころり三観音のひとつとしても有名な弘安寺、地元では中田観音とよばれるお寺があります。本尊の十一面観音は縁結びや安産などのご利益があるそうです。女性にはもってこいのパワースポットですね。その昔、野口英世の母シカが息子・英世の火傷治療と立身出世祈願のために月参りしていたそうです。これは御利益ありそうだ。こちらもお手洗いと駐車場完備。長谷川さんとうろうろしていると、なにやら「だきつき柱」なる表示が。『ころり観音っては、認知症や病気で寝たきりにならないでころっとあの世にいくのをお願いするんだ。』と長谷川さん。まだまだお互いにころっといきたくはないですが、信仰心のある方が抱きつくと何事も念願がかなえられるといわれるそうですよ。平成29年3月から約一年間、観音堂の大規模な修繕を行うとの工事看板が掲げてありました。その期間中は祈祷・拝観できないようですね。お札やお守り、ご朱印は仮の建物でいただくことができるそうです。だきつき柱は来年3月までお預けということでしょうか。
法用寺に続いて、中田観音のご本尊は国指定重要文化財に指定されています。今回の訪問に際し、情報収集したところ、法用寺とつながりのある言い伝えがあるようですね。法用寺に子宝の願かけを行っていた長者夫婦がやっとかわいい女の子に恵まれ、大切に育てていました。年月が過ぎ、成長した姫が法用寺で参拝していたところ、同じく参拝していた男性にひとめぼれし、思いを内に秘めたまま、食事も喉を通らず、亡くなってしまいます。恋煩いということでしょうか。姫の菩提の弔いにと両親が観音堂を建てたのが始まりとされています。その話を知ったひとめぼれの君は、姫の想いを知り、20年間にわたり、姫の霊を慰めていたそうです。縁結びにご利益があるのは、そのためでしょうか。
法用寺とは同じ山つづきにあります。こんなに近くの距離に歴史のあるお寺が並んでいるとは、会津はやっぱりちがうなあと思っていると『会津は仏都と言われるくらい、仏教が盛んだよ。』と長谷川さん。仏都?初めて耳にした言葉でしたが、なるほど、いい表現ですね。
長谷川さん『ここから10分くらい行ったところに、立木観音って有名なところあるよ。』阿部『行きます!』
3.8mもの観音様は圧巻です『立木観音(恵隆寺)』
会津坂下町に移動します。といっても、やはり車で10分程度の距離です。雪になったり雨になったり晴れたり曇ったりと忙しい天気です。『寒いなぁ』会津暮らしの長谷川さんが言うんですから、今日は普段以上に寒いようですね。他コーナーで日本遺産について触れましたが、福島県内では2つの認定がされており、そのもうひとつが「会津の三十三観音めぐり~巡礼を通して観た往時の会津の文化~」というストーリーです。偶然でしたが、訪れた3箇所とも三十三観音の名所でした。長谷川さんは以前に三十三観音をすべて廻ったことがあるようです。どうりで、ルート選定がスムーズでした。立木観音の駐車場に降り立つと、さらに風が刺すように冷たい。でもとても眺めがいい。
隣地には『旧五十嵐家住宅』なる農家の古民家を移築し、保存されています。ここまで状態が良いのは大変希少とのこと。では、立木観音へ。こちらにも三重塔。建替えたのだろうか。法用寺より新しく小ぶり。門から入り直し、観音堂前へ進む。長谷川さんの言っていた立派な観音様は、係の方を呼び、拝観料をお支払いするとお目にかかれるようだが、シーズンオフなのか、係の方がいない。暖かい時期にあらためて来ようと思いつつ看板に目をやると、『櫛の奉納』とある。櫛?髪の悩みとか?と安易な想像をしてしまったが、『苦』く『死』しとなぞらえて、手放すことで、女性特有の体や心の悩みを和らげるために幸せを願って奉納されているようです。その日、櫛は持ってませんでしたので、後日にでも病気療養中の母を連れてこようかなと思いました。車いす大丈夫かな?
4.帰り途
次回の行先を打合せ、長谷川さんと立木観音で別れると、さぁて帰路へ。途中、吹雪で視界が真っ白になり、会津の雪はやっぱり違うなあと実感。
同じ福島県内でありながら、風土の違いを感じます。そこに観音様が生まれた所以に頷いたり。ご利益の内容が、人々の暮らしに直結していたり。真冬のせいか参拝客の姿はなかったものの、人の少ない時期だからこそゆっくりと訪問できました。信仰の厚い方ではなかったわたしも、心が研ぎ澄まされた感覚をおぼえました。また次回、会津の旅にお付き合いください。