1.はじめに
福島県では2040年までに県内エネルギーの100%相当量を再生可能エネルギーで生み出すことを目標として、現在非常に多くの分野で様々な取り組みが実施されています。
私ども「新協地水株式会社」は1975年の会社創立以来、福島県内の土と水の様々な問題に取り組んでまいりました。今までの経験・知識を再生可能エネルギーの利用普及に活かしたいと考え、2015年に「資源開発部」を立ち上げました。
現在、再生可能エネルギーのうち、 「土と水」に特に関わりの深い分野である「地中熱利用」の分野について取り組みを始めているところです。
2.再生可能エネルギーとは?
再生可能エネルギーは、消費した量を超えるエネルギーが自然現象の一部として常に新しく補充されるエネルギーのことです※1。
再生可能エネルギーは枯渇することのない、環境を変化させる可能性の少ないエネルギーとして注目されています。
※1「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」(平成二十一年法律第七十二号)で「エネルギー源として永続的に利用することができると認められるもの」とし、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律施行令」(平成二十一年第二百二十二号)で「太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他の自然界に存する熱、バイオマス」と規定されています。
3.地中熱の利用とは?
※2熱媒体の体積を変化させ(圧縮および膨張)、その時に生じる凝縮熱や圧縮熱を利用して熱交換を実施します。
低温熱源の熱を集めて、高温熱源よりも高い温度状態に変化させ、高温熱源に熱を放出します(熱は高温部から低温部にしか移動しない〔熱力学の第二法則〕ため、強制的に温度差を設けて熱を移動させます)。
4.地中熱研究実験棟における取り組み
私ども資源開発部では敷地内の深度100mのボアホール型熱交換器(ダブルUチューブ設置)を使用して、実際の地中熱利用システムの設備を設置したいと考え、駐車場の一画にプレハブ(32.0m²)の実験棟を建設し、併せて地中熱ヒートポンプエアコンによる地中熱利用システムを構築しました。
さらに、地中熱利用の効率を検討するため、測定機器によるデータ計測とディスプレイによる「地中熱利用の見える化」システムを設置しております。
地中熱利用システムの概要について、地中熱利用システムは大きく以下の3つの部分に区分されます。
①一次側システム(地中熱交換器)
②地中熱ヒートポンプ
③二次側システム
ここでは、それぞれについて簡単に説明します。
①一次側システム(地中熱交換器)
一次側システムで最も一般的な方式がボーリングマシンにより地盤を掘削し、熱交換器(Uチューブ)を埋設するボアホール型地中熱交換器です。
GL-100m程度の深度まで掘削可能であり、地盤の地中熱交換性能に併せた深度や本数の設置が必要となります。また、設置コストについては一般的にはmあたり1万5千円~2万円以上であり、今後のコストの低減が課題となっております。
その他の方法として、浅部の地中熱を利用する目的でコイル状や網目状にUチューブを配置する工法も開発されています。
②地中熱ヒートポンプ
ヒートポンプが稼働することで、低温熱源は熱を奪われ(冷却)、高温熱源は熱を与えられる(加熱)形になります。
このヒートポンプを稼動させるためには電力が必要ですが、ポンプで低い位置から高い位置に水を移動させるのにより多くの電力が必要なのと同様に、ヒートポンプによる熱の移動も温度差が大きいほど必要な電力が大きくなります。
地中熱の利用が空気熱の利用よりも有利な点がここです。夏は冷たく冬暖かい地中熱を利用した方が、夏場の熱い大気・冬場の冷たい大気と熱を交換するより温度差が小さく、必要な電力も少なくなります。
また、大気中に熱を放出しないことから都市部の気温が周辺よりも高くなる夏場のヒートアイランド現象の抑制にもつながります。
③二次側システム
一般家庭用のヒートポンプの二次側システムは大きく
①室外機では水や不凍液を熱交換器内に循環させ地中と熱交換を行い、室内では冷媒を室外機から室内機に循環させ、空気との熱交換により冷暖房を実施する「地中熱エアコン」
②一次側、二次側ともに循環流体(水や不凍液)を用いて熱交換を行う「地中熱ヒートポンプシステム」
の大きく二つのシステムがあります。私どもの実験棟では地中熱エアコンを導入しています。
<性能評価の方法>
地中熱ヒートポンプシステムの評価方法として、成績係数を求める方法が一般的です。
成績係数(COP)は消費電力1.0kwでどのくらいの熱量が交換できるかを示す値であり、数値が大きいほど、効率が良いことを示します。
成績係数には、交換した熱量の効率について検討する単体COPと、一次側および二次側の補機が使用する電力量も含めて検討するシステムCOPとがあります。
今後、連続運転を実施して各数値の計測により地中熱利用の効率を実証すると共に「地中熱利用の見える化」システムを多くの皆様に見学していただき、地中熱利用に興味を持っていただくことで地中熱利用の普及に携わっていきたいと考えております。
5.今後の地中熱関連の取り組みについて
現在、私ども新協地水では大きく二つの事業を中心に、地中熱の利用に取り組んでいきたいと考えております。
①準浅層地中熱利用を目的とした地中熱交換器の設置工法技術の開発
弊社が所有する回転埋設鋼管杭の施工技術を応用し、非排水非排土埋設工法による低コストで熱応答試験を実施する技術開発や、地中熱交換器を簡便に設置可能とする技術を開発し、現在の地中熱利用で問題となっている導入時の初期コストを低減させることで、地中熱利用の普及に貢献していきたいと考えております。
②郡山市内を中心とした地中熱ポテンシャルマップの作成
近年、場所ごとの地中熱の採熱可能量(ポテンシャル)の目安が、平面的に一目でわかるよう地図に示した図面として、地中熱ポテンシャルマップが多くの県や地方自治体で作成されています。
弊社では中通りを中心として、地質柱状図およびさく井柱状図データのほか、地下水調査のデータを多数所有しております。
これらのデータを整理・活用し、地質状況のほか透水係数等の推定から地下水の影響も考慮した地中熱利用の可能性および期待度を示すポテンシャルマップの作成に取り組んでいるところです。
6.最後に
「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が平成27年4月に改正され、2,000m²以上の大規模建築物(非住宅)を新築する場合、エネルギー消費性能基準(省エネ基準)に適合することが義務付けられました。地中熱の利用も含まれており、今後は中規模建築物から小規模建築物にまで制度が拡充されます。
今後、再生可能エネルギーの利用促進と共に地中熱の利用も導入が加速すると考えられます。
私達、新協地水株式会社は「土と水の総合コンサルタント」として地中熱利用の促進に取り組んでいきたいと考えております。
地中熱利用先進地北海道の実践に学ぶ
第25回 地中熱利用シンポジウム「北海道における地中熱利用」が6月14日に札幌で開催された。このシンポジウムに参加することができたので、そこで得た見聞を報告する。
日本における地中熱ヒートポンプの普及は、北海道が先導する形で進められてきた。全国の設置件数のうち、北海道が27%を占めるという(2015年末)。
シンポジウムの基調講演は北海道大学大学院工学研究院の長野教授による「北海道における地中熱利用の発展」であった。サブ講演は北海道電力(株)総合研究所エネルギー利用グループリーダーの石川氏が「省エネに関する取組と地中熱」について発表された。
「北海道における地中熱取り組み事例紹介」では、喜茂別町、留寿都町・南富良野町、訓子府町での消防署・学校・子供センターへの導入など、公共団体での取組が進んでいることが報告された。そのほか、稚内市での自社ビルへの活用や、ヒートポンプメーカーによる多数の農業施設や住宅への設置事例が報告された。
北海道が地中熱利用の先進地になっているのにはいくつかの要因があり、福島での地中熱利用促進のために学ぶべき点があると感じた。
①地中熱利用の理論的、技術的、実践的な指導の中核に北海道大学の取り組みがある。しっかりした理論的裏付けの下、ヒートポンプや熱交換器の開発、設計方法とツールの開発、地中熱導入実践的指導、研究者・技術者の養成まで、北海道大学がかかわっている。
福島県でも産総研再エネ研究所が郡山に開設され、日本大学工学部や福島大学で地中熱の研究体制の整備が進み始めている。研究機関の連携がうまく機能すれば、北海道に追いつき追い越せる可能性が広がる。
②北海道最大の企業である北海道電力が、省エネの取り組みの一環として地中熱に注目し、利用促進のための技術的開発に貢献している。北海道大学に「地中熱利用システム工学講座(寄附講座)」を設け、北海道大学と連携して進めている。北電の広報誌「イー・アシスト・マガジン」に地中熱利用実施例を特集するなど、普及面で大きな役割を果たしている。
福島県建設業協会は「再生可能エネルギー寄附講座」を福島大学に開設した。福島県は再生可能エネルギーに大きな力を注いでいて、エネルギーエージェンシーなど、学・官・民の協力による普及促進の体制ができつつある。
③公共団体では、学校や子育ての場での地中熱利用が目立っている。地中熱利用を省エネのための手段として取り入れるのではなく、郷土愛を持った健全な子供の育成という大きな目標実現のために必要な設備の一つという位置づけを与えられている。
シンポジウムの翌日、事例紹介された留寿都町の「るすつ子供センターぽっけ」を訪問し、松下センター長に施設を案内していただいた。
センターは保育所・児童館・子育て支援の機能を併せ持った木造平屋建ての施設である。地元産のカラマツの集成材を構造材とし、白樺のフローリングなど、その地域の産物を地域で加工し利用することにこだわっている。気密性を高め断熱機能を強化し、更に、地中熱利用床暖房、太陽熱集熱機による給湯など、ローエネルギー化を徹底していた。子育てのために、どのように良い環境を整えるか、に心配りがされた建物であった。町内の材料、地域のエネルギーを中心に最良の環境が整えられており、留寿都町では子供の数が増加に転じているという。地中熱利用はその中の不可欠の一翼を担っていることが理解できた。