郡山市の西方には中通りと会津を分ける奥羽分水嶺山脈が南北に連なっており、そのほぼ中央に高旗山(968m)はあります。高旗山には一等三角点が設置されており、山頂からは「一等三角点の山」としてその名に恥じることがない、周囲360度の素晴らしい展望を得ることが出来、深田久弥著「日本百名山」磐梯山の項で、高旗山を含む稜線からの展望を次のように表現しています。「私の得た最も見事な眺望(猪苗代湖と磐梯山の調和)は、湖の東南側にある額取山から高旗山に続く丘陵山脈上からであった」と山名の由来は、平安時代に八幡太郎義家が奥州征伐の際、軍旗を高く掲げ戦勝を祈願したと伝えられたことに因んでいます。郡山市内から望む高旗山は美しい三角形であり、地質は片状花崗岩を基盤としこれを不整合に覆って、第三紀中新世の凝灰岩・砂岩・頁岩が発達し、それらの間に変朽安山岩・流紋岩などの火山岩類が広く分布しています。山頂から南側の標高600〜800m地点に鉱床が点在し、黄銅鉱・黄鉄鉱・金などを採掘していました。採掘の歴史は古く慶長年間(1500年代後半)には、蘆名氏によって開坑され昭和30年代後半(不明)まで採掘されていましたが、現在は廃山となり鉱山跡そして登山道としての分岐名称(鉱山跡コース出合)だけが残っています。
高旗山の北側山麓に「林道日山源田線」が開通してからは、鳥居のある登山口(標高約784m)までマイカーで行くことが出来、手ごろに登れる「展望の山」として四季を通じてハイカーに親しまれる市民の山となりました。今回は、真っ青な空、真っ白な雪、音のない、人のいない世界を堪能するため、2月積雪期の沢に沿って山頂を目指す旧道登山ルート(林道が出来るまでの登山道)を紹介します。
☆2018年2月4日(日・立春) 快晴
1月は週末になると様々な会合に出席「予想通りに飲み疲れ」となり、週末の山行として十分に体を動かすことが出来なかった。このストレスを解消するため、快晴となる2月4日の立春に例年通り展望の山、高旗山へ行くことを計画した。放射冷却で冷え込んだ朝、なかなか布団から抜け出せず自宅スタートが8時になってしまい、あわてて県道郡山・湖南線を西走し、源田湯バス停から左折、リニューアルした旅館「forestバン源田」駐車場手前まで入る。「林道日山源田線」は冬期閉鎖のため、林道標が設置されている起点が本日の登山口となる。この地点の標高が約424mとなるため山頂までの比高は約544mとなる。入念に日焼け予防を行っている相棒の準備を待って、午前9時にスタートをする。林道に踏跡は無く大雪警報が出された1月22日~23日以降(郡山市内で30㎝の積雪)、この林道を利用してハイカーが入山した形跡を確認することはできなかった。林道の雪は、例年ほど硬く締まってはおらず、春先の水分が多い重い雪ではなく、風で舞い上がる乾いた粉雪である。スタートしてすぐに膝下ラッセルでの歩行となり、スノーシューを準備してこなかったことを深く後悔する。ガイドブックによれば雪のない4~11月であれば、コースタイムは1時間55分となっているが、ラッセルが必要となる雪の状態で山頂まで登る山行時間が判断できず、先が思いやられると少し重い気持ちに。こうした気持ちが通じたのか、相棒は「行けるところまでだね」と、プレッシャーをさらっとかわしてくれた。先頭は、体重が軽い相棒がラッセルで踏み固め、その後を私が進むという歩行スタイルで林道を進み、9時14分に大きく右折する林道から離れ、沢を3度渡渉して北側斜面を直登する。
スタートから30分、北側斜面は雪面が硬く締まっていることを期待していたが、依然として雪は乾いたフカフカの状態で、4輪駆動のように手足全身を使っての登りとなる。いつの間にか全身汗だくとなり、帽子・手袋さらには上着を脱ぎ、春山登山の様相となって急斜面と悪戦苦闘、9時54分(登り始めて54分)に再び林道に出る。林道は傾斜こそ緩むものの吹き溜まりで積雪が多く大変歩きにくい。やがて東側に回り込み10時7分(登り始めて1時間7分)に「高旗山ハイキングコース」と「宇奈己呂和気神社由緒」の案内板がある登山口に到着する。ここの登山口の標高は約784mであることから、山頂までの比高が約184mそして距離は道標によると1640mとなる。ここまで来ると山頂までの時間もある程度予測ができることから、気分的にゆとりができ行動食(ナッツ類)で小休止、相棒と軽めのストレッチで体をほぐす。無雪期であれば鳥居をくぐり右側のキツイ尾根を急登し左側に折れ緩い斜面の雑木林を行くことになるが、依然として踏跡は無く登山道は不明瞭であり、左側に折れる箇所を見失ってしまい尾根をズンズン直登してしまった。登山道と異なる木々の密集した間隔に違和感を覚え携帯ナビで現在位置を確認すると、左に折れる地点からほぼ倍の距離を登ってきてしまった。正規の登山道に一度下ってから進もうとする私に対して、相棒は高さを保持したまま斜面を進むという。先を行く上方斜面の相棒に声をかけながらフカフカの雪と悪戦苦闘、確実に登山道と思われる道を進み10時41分(登り始めて1時間41分)に「おつかれさま」と書かれた道標がある高旗鉱山跡コース出合となる。ここからは、積雪があっても参道として明瞭となり若干歩きやすくなってくる。さっきまで上方に見え隠れしていた相棒の黄と赤のウェアは完全に見えなくなってしまったが、ホイッスルの音に確実「ピィー」と笛の音が反応してくることから、安心して先に進む。
10時51分(登り始めて1時間51分)にいよいよ山頂まで最後の登りとなる道標に、すると木々の間から斜面をショートカットしてきた相棒が無事に合流する。真っ青な空、真っ白な雪、そして木々の枝の霧氷は、青と白の鮮やかなコントラストとなっている。傾斜が緩やかになり「宇奈己呂和気神社」の塔標を見ながら最後の鳥居をくぐり前方が大きく開けると、11時24分(登り始めて2時間24分)に「一等三角点の山」そして冬の眺望が格別な高旗山の頂に到着する。まだ姿が見えない相棒は、深雪の中を意地で歩いてきたため山頂直下で疲労がピークに達し、超スローペースになってしまった。雲一つない快晴に恵まれた格別な眺望がここにあることを相棒に伝えるため、一人大声で「バンザイ」を叫ぶと、「ピョー」と力の無い笛の音が聞こえてきた。360度の大展望はさすがであり、北側に大きく猪苗代湖が半分顔を覗かせ、後方に鋭く天をさす磐梯山を望むことが出来る。飯豊・吾妻・安達太良が北に、さらに大戸・博士・など会津の名峰が西に続き、間近には額取山や八幡岳そして笠ヶ森山を見ることが出来る。東には安積平野が開けその奥に、阿武隈山地の山々を望むことが出来る。山頂は、予想以上に暖かく春がそこまで来ていることを、頂で感じることが出来た。マイブームとなっている特製卵入り鍋焼きうどんを作り、二人きりの山頂で展望を堪能した後、12時22分に下山を開始する。下山は、相棒が苦労してラッセルしてきたショートカットトレースを一気に駆け下り、13時32分(下山開始1時間10分)に登山口へ無事帰り着いた。あんなに苦労して登った山も、フカフカの雪中下山は「あっ」という間であった。
(登り2時間24分,下り1時間10分,積算距離7.6km)