以前は、県内外のスキー場から登れる山を対象として、厳冬期の山登りに挑戦していましたが、加齢とともに寒さに体が耐え切れず、五十代半ばにして積雪(残雪の山は別として)が少ない安全な冬山歩きをするようになりました。身近に福島県を南北に連なる阿武隈高地があって、低山といえども数々の名峰があったことも大きな理由です。阿武隈高地は、宮城県南部から茨城県北部まで170㎞以上にわたって連なる山地で、阿武隈川を中心に盆地が連続する中通り地方と太平洋沿岸部である浜通り地方の境界となっています。成り立ちは、海底で堆積した古い地層が隆起して陸地となり、その後長い年月をかけ浸食作用により老年期のなだらかな地形となりました。さらに隆起が進み標高500〜700mの隆起準平原になっていきました。地質は主に花崗岩から成り、浸食されず残った硬い地質(石灰岩など)の独立峰が所どころ見られるのも大きな特徴です。冬期間でも積雪が少ないうえに、自宅(郡山市)から1時間前後で登山口まで行ける山が多く、飲みすぎた翌日,体調がすぐれない時,用事があった休日,冷静になって考え事がしたいときなど、時間を気にせず(下山が暗くならない程度に)「ちょっと登ってくる」と言って、春夏秋冬1年を通して阿武隈高地の山々に登っています。ちなみに私の登山履歴を調べてみると、本格的に山登りを始めた2000年7月以降、蓬田岳(標高952m)には149回,宇津峰山(677m)98回,大滝根山(1193m)55回,日山(1057m)へは44回ほど、登っていました。
平成31年2月は、月初めにインフルエンザA型に感染し、高熱により体力が奪われ疲労感が抜けきれず、引き続き腰痛や酷いアレルギーが発症してしまい、半ば山行を諦めていました。それでも、2月24日の天気予報が「県内は移動性の高気圧に覆われ、一日を通して天気の崩れはなく、広い範囲で晴れる」と聞いてからは、居てもたってもいられず、五十人山への山行を計画しました。五十人山は双葉郡葛尾村にある標高883mの山で、阿武隈高地特有の山全体が雑木林に覆われた名峰です。なだらかな山容で、山頂直下に広がる広場そして360度の展望が魅力的で、震災前に14回ほど訪れていました。葛尾村は、2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故の影響により、村内全域が警戒地域または計画的避難区域に指定されました。2016年6月12日に一部の帰還困難区域を除き避難指示が解除されたことから、再び山頂を踏むことを心待ちにしていました。そんな昨年12月に広報『かつらお』の「登山道の紅葉に感動・五十人山へ 船引山岳会」という記事が目に止まり、現実の山行となりました。五十人山の山紀行は、弊社発行「土と水(第56号)」(2011年12月)に双葉の山々として掲載をしました。拙い紹介文の中で、いつまた訪れることができるかわからない双葉の山について、「大好きな双葉の山々を弊社発行の土と水に掲載することで記録にとどめたい。」と結んでいました。今回は記録としてではなく、春の陽射しの中、阿武隈高地特有の雑木林の美しさ、そして山頂からの展望の素晴らしさを実感した五十人山山行を紹介します。