はじめて地震動を体験したのは、小学校4年の6月16日午後1時過ぎに校庭掃除をしていた時でした。この時には、揺れを直接感じて竹箒を支えにやっと立っていたことを今も覚えています。地震動が収まって校舎に戻ろうと思った時には校舎の中から皆が走って出てきたことも覚えています。この地震が昭和39(1964)年の「新潟地震」でした。幸いにも小生が住んでいた郡山市に被害は無く、地震の恐ろしさを実感したのは1978年6月12日午後5時過ぎに大学の3階建て鉄筋コンクリート造の3階の研究室で先生と囲碁をしていた時でした。その時には,研究室の本棚や机の引き出しが動き出し,碁盤の石も動いたため、勝負は直ちに終わりとなりました。この時の地震が昭和53(1978)年の「宮城県沖地震」でした。この時には、大学院の1年で地盤振動に関する研究を行おうと思っていたことと、先生の地震直後の対応に事の重大さを推測したことでした。これら2つの地震動による震度は、郡山市では震度4を記録しましたが,地震動を体験した場所が3階だったのでひときわ大きく感じました。これが地震による地盤災害の調査を行うきっかけとなったことは言うまでもないことです。
1・はじめに
2.地震動による砂地盤の液状化について
地震動による地盤災害の代表としては“液状化”が挙げられます。これは、日本において、1964年6月16日に発生した新潟地震の液状化被害が際立っていたからです。また、この地震より約3ヶ月前の1964年3月27日午後5時36分頃(日本時間28日12時36分)にアラスカ州南部においてM9.2の巨大地震が発生し、地盤が流動化したことも起因となって近代的な地盤力学的手法を用いた調査や解析が行われました。このときから地震時液状化や地震時地盤流動破壊に関する研究が我が国だけではなく海外の研究者・技術者によって行われ、繰返し載荷による間隙水圧の上昇(有効応力の低下)によって軟化することを「有効応力の基本原理」にしたがって明快に説明されたことでした。このことはCalifornia大学のSeed教授の研究グループが繰返し三軸試験装置を開発して液状化現象を再現したことにあります1)。
図-1及び図-2には筆者が行った豊浦砂の繰返し三軸試験結果を示しました。図-1の上段は繰返し載荷した軸荷重(圧縮と伸張が交番),中段は軸ひずみ,下段は間隙水圧のタイムグラフを示したものです。繰返し載荷回数が増えていくにしたがって、軸ひずみが増加し、間隙水圧も増加したのち一定値となります。この状態が間隙水圧が上昇して有効応力が0となった初期液状化からひずみが累積していく液状化の状態です。
図-2は、図-1のタイムグラフの軸差応力と軸ひずみの関係と有効応力経路を示したものです。図2-右図において繰返し回数の増加とともに間隙水圧が上昇して有効応力と軸差応力の0付近になると、図2-左図の軸ひずみが進行することが分かります。このように繰返し三軸試験結果から“液状化”することがよくわかると思います。
3.地震動による地盤災害の調査事例
表-1には1964年から2018年の間に発生した主な被害地震を示しました。小生は、この表の中の太字で示した1978年宮城県沖地震,1983年日本海中部地震,1984年長野県西部地震,2004年新潟県中越地震,2008年岩手・宮城内陸地震,2011年東北地方太平洋沖地震の6地震の被害調査を行いました。この中でも宮城県沖地震,岩手・宮城内陸地震及び東日本太平洋沖地震の被害調査においては振動測定や動的変形特性試験及び調査ボーリングなどを行いましたのでその結果について簡単に示します。
(1)1978年宮城県沖地震の被害調査3)
大学院1年の10月~11月に盛土斜面が1978年宮城県沖地震によって崩壊した白石市寿山第四団地の被害調査を行いました。図-3にその平面図,鳥瞰図及び断面図を示しました。この造成団地における斜面崩壊,開口亀裂及び開口段差亀裂などの変状は盛土箇所に集中していることが分かりました。そこで、造成地盤の振動特性を調査したところ、A-A’断面の下の表に示すように、盛土地盤と切土地盤では卓越周期に明瞭な違いのあることが判明しました。この振動特性の違いが地盤の剛性の違いに結びつくこと,揺れやすさの違い及び共振しやすさの違いとして表現できるものであることが推定されました。
(2)1983年日本海中部地震の被害調査5)
日本海中部地震の被害調査は、東京大学生産技術研究所の地震調査班に同行させていただきました。秋田市周辺の液状化被害や青森県車力村の大噴砂孔などは、液状化直後の強度低下による電柱の沈下や地震動による間隙水圧の圧力の凄さを思い知らされました。
(3)1984年長野県西部地震の被害調査6)
長野県西部地震は、実験室で供試体を三軸セル内で圧密しているときに地震動を感じました。この当時、実験室には信州大学から内地留学していた阿部寛史助手がいましたので直ちに被害状況を確認することが出来、現地に調査に入れることになりました。まだ、行方不明の方々がおりましたので、渓流の上流にあった温泉施設の所まではいくことが出来ませんでしたが、谷を粉体流が高速で流下したため,V字谷が深く掘り込まれていました。
(4)2004年新潟県中越地震の被害調査7)
2004年新潟県中越地震では、山古志村が山地斜面の崩壊によって道路が寸断され、河川も閉塞してダム湖ができるなどの被害が出たこと、宅地造成地の盛土斜面が1978年宮城県沖地震と同様に崩壊したこと、信濃川沿いの平野部においては液状化が多数発生したことが挙げられました。
(5)2008年岩手・宮城内陸地震の被害調査8)
2008年岩手・宮城内陸地震の被害調査は、(公社)地盤工学会東北支部の平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震災害調査委員会のメンバーとして参加しました。特に荒砥沢地すべりは、幅900m,長さ1300mで平均層厚は推定100mを優に超え、移動距離も300~350mと巨大なものでした(写真-2,写真-3,写真-4参照, マークは写真撮影位置)。
地すべり移動体を構成する地質は、旧カルデラの湖成層であるシルト岩・砂岩、その上位の軽石凝灰岩及び溶結凝灰岩です。写真-5に示すように地すべり末端部の迫り上がった部分にシルト岩が見られ、対岸にも不動体のシルト岩・砂岩互層の湖成堆積物層が見られました。
そこで、不動体層中のシルト岩の動的性質把握を目的としてブロックサンプリングを行い、乱さない試料と再構成試料の動的変形特性試験を行いました。初期せん断剛性率は、共にG0=76MN/m2であり、せん断剛性率G~せん断ひずみγ曲線(図-4)もほぼ同じ傾向を示しました。
このことは、同程度の地震力が作用した場合には再滑動することが予測されました。また、図-5には粘土・砂・砂礫の動的変形特性(G/G0~γ)にシルト岩の動的変形特性をプロットしたものを示しました。シルト岩の動的変形特性は、粘土の傾向に近い挙動を示しますがγ=0.3%くらいから急激に剛性が低下することが特徴的であることが分かりました。
(6)2011年東北地方太平洋沖地震の被害調査9)
2011年東北地方太平洋沖地震の被害調査は、(公社)地盤工学会の被害調査委員として福島県中通り地方の地盤災害を中心に行いました。写真-6には東日本大震災合同調査報告地盤編2の表紙を示しました。また、写真-7には福島市伏拝地区の谷埋め盛土の崩壊状況を示しました。表-2に示すように谷埋め盛土の被害が多く見られました。
表-2及び図-7から、N値が0〜2と非常に小さい盛土は、盛土層厚の大小にかかわらず変状が生じていること、かつ盛土層厚が厚いと図-6に示すTypeDのような大変形の崩壊となる場合のあることが分かりました。
4.おわりに
地震動による地盤災害の調査を行うことによって、土質動力学の知識や地盤の振動特性ならびにどのような地盤が地震時に変状が生じたり、崩壊するかを自分なりに理解できるようになりました。紙面の関係から豪
雨による地盤災害の調査については紹介することが出来ませんでしたので別な機会に述べたいと思います。
次回は、「思い出の地盤工学─地盤と調査・対策工立案について─」を紹介します。
<参考資料・文献 >
1)三浦清一:地盤力学の理論から実践へ─進化する災害に直面して─,土木学会平成23年度定時総会特別公演,2011年5月27日
2)原勝重:土の非排水繰返し試験に関するシンポジウム論文集,(社)土質工学会,pp.1~35,1988年
3)1978年宮城県沖地震被害調査報告書:(社)土木学会東北支部,pp.445~448,1980年4月30日
4)原勝重・大塚孝義,森芳信:白石市寿山第四団地の常時微動特性について,第6回日本地震工学シンポジウム論文集,pp.2001-2007,1982
5)1983年日本海中部地震震害調査報告書:(社)土木学会日本海中部地震震害調査委員会,1986年
6)1984年長野県西部地震による被害状況速報:基礎地盤コンサルタント株式会社(社内技術資料)
7)平成16年新潟県中越地震被害調査報告書:(社)土木学会,2006年
8)原勝重:4.2.4地すべり面を構成する地質の動力学的性質,平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震災害調査報告書,pp.74~75,(社)地盤工学会,2010年6月
9)東日本大震災合同調査報告地盤編2:東日本大震災合同調査報告書編集委員会,(公社)地盤工学会,平成27年3月31日
10)原勝重:東北地方太平洋沖地震によって生じた谷埋め盛土の変状とその対策工について─福島県中通り地方南部の例─,全地連「技術フォーラム2014」秋田,2014年9月