1.はじめに
梅雨前線による大雨に伴って2021年7月3日10時30分頃に静岡県熱海市伊豆山の逢初川で土石流が発生しました。逢初川の上流部の標高390m地点(海岸から約2km上流)を源頭部として発生した斜面崩壊が土石流化し,下流域で甚大な被害が発生したことはテレビで生々しい土石流の流下による家屋等の崩壊などが放映されたことや新聞報道がなされたことから記憶に新しいところです。
静岡県災害対策本部が8月27日に発表した熱海伊豆山地区の土石流の発生について(第48報)1)によると死者25名,行方不明者2名,中等症3名,その他25名の人的被害が確認され,8/27日12:00時点において金城館等に滞在する避難者は176名と報告されています。物的被害としては,被害棟数128棟(135世帯)に及んでいます。
また,ライフラインの状況は,水道の復旧不能件数100件(その他の家屋は復旧済み),電気・通信・ガスについては被災家屋以外復旧済みとなっています。
静岡県は,2021年7月3日10時30分頃の土石流発生を受けて12:00には県災害対策本部を設置し,自衛隊に派遣要請を行いました。13:30に消防庁に緊急消防援助隊の出動要請を行い,15:30には災害救助法の適用を公示しました。
その後,7月9日には被災者生活再建支援法の適用を公示しました。静岡弁護士会においても被災者支援を行っています。
(公社)地盤工学会においても今回の土石流とその被害状況は衝撃的であり,7/13~7/15にWEBで開催された地盤工学研究発表会において,7/14の17:00~18:30に「令和3年7月3日に熱海市で発生した土砂災害に関する被害報告会」が行われました。報告者は,規矩大義(関東学院大学):土石流発生後の下流域の様子,稲垣秀輝(株式会社環境地質):崩壊地・上流部の調査,安田進(東京電機大):上空からの考察と情報の集約,東畑郁生(関東学院大学):捨てる、とは,進行は小高孟司(名城大学)でした。
2.土石流発生源頭部の状況
写真-1,写真-2に源頭部の崩壊状況を示す。
写真-33)には崩壊前の2017年8月撮影と崩壊後の2021年7月6日撮影の写真を並べたものを示しました。左側の写真の赤色は,今回の土石流の流下堆積範囲を示したものです。また,写真-43)には2017年8月に撮影された源頭部付近を拡大したもので階段状に盛土がなされていることが分かります。写真-52)には写真-1の源頭部付近を拡大したものを示しました。
これらの写真から斜面崩壊の源頭部は盛土が崩壊したことが分かります。この盛土崩落が土石流による被害を拡大させたとする問題に関して,崩落の発生原因究明や行政手続き(部分的な情報で判断せず,時系列で全部整理する)の検証作業を含む調査報告書案を静岡県が作成し,「逢初川土石流の発生原因調査検証委員会」の土木学会・地盤工学会・砂防学会に検証を依頼する方向で調整しているとのことです4)。
3.土石流発生の素因と誘因について
(1) 土石流の素因
伊豆山付近の急斜面には,湯河原火山噴出物の城山溶岩類である安山岩などが分布し,緩斜面には崖錐や風化して土砂化して堆積した緩斜面堆積物が分布しています。逢初川の下流域は斜面勾配5度から10度の比較的緩い勾配ですが上流になるに従い急勾配となり今回の源頭部付近の急斜面の勾配は20度から30度程度まで上昇しています。
図-13)には国土交通省国土地理院が源頭部付近の2009年と2019年に実施した航空レーザー測量の標高と2021年7月6日に実施したUAVレーザー測量の標高を示しました。
この図によると2009年は斜面勾配が20度~30度でしたが2019年には盛土厚が12m程度あり,斜面勾配の30度になっていることが分かります。さらに,2021年7月6日の崩壊後には2019年の盛土の2/3程度が無くなっていることが分かります。このように,今回の斜面崩壊の素因としては,源頭部には盛土が有り,この盛土が崩壊し,逢初川の下流域まで約2km流下する過程で土石流となり,人家等を巻き込んで流下したと考えられます。
(2) 土石流の誘因
静岡県の熱海雨量観測所(熱海市水口町)における6月30日から7月3日までの総雨量は400mm以上となりました(図-2参照)2)。土砂災害警戒情報は,災害発生の約10時間前の7月2日の12:30に発表されましたが17:00くらいには降雨がいったん小康状態となり,その後20:00くらいに降雨が多少を繰返した後,7月3日2:00くらいから降雨が連続したことにより土壌水分量も多くなって,7月3日10:30頃に斜面崩壊から土石流が発生しました。今回の斜面崩壊の誘因としては,梅雨前線による3日間以上降り続いた降雨であると考えられます。
近年,日降水量100mm,200mmの年ごとの回数が増加傾向にあり,梅雨前線や秋雨前線及び台風による豪雨は,二酸化炭素(CO2)の増加5)が考えられています。図-3にいぶきによる2009年から2021年までのCO2の全大気平均濃度の経時変化を示しました。12年で30ppm(2.5ppm/年)増加しています。
4.今後について
2021年5月20日より避難情報及び災害時の避難行動が変更されたことはご存じのことと思います。
「土砂災害警戒情報」は,「警戒レベル4」に相当します。
また,図-4には熱海市土砂災害ハザードマップ④6)を示しました。土石流が流下した地域は,土石流と地すべりの警戒区域,土石流特別警戒区域,急傾斜地の崩壊警戒区域になっています。自助・共助を心がけて避難準備と避難行動をとっていただきたいと思います。
今後は,静岡県が崩落の発生原因究明や行政手続きの検証作業を含む調査報告書案を作成し,学会(土木学会・地盤工学会・砂防学会)の検証を待ちたいと思います。
また,国土交通省が伸縮計設置,監視カメラ設置(WEB配信)による監視活動のほか,緊急的な砂防工事として既設砂防堰堤の除石,砂防堰堤の新設などが行われます。
さらに,全国の盛土の総点検や建設残土の現状見直しがなされる見込みです。
〈出展,引用など〉
1) 静岡県災害対策本部 : 熱海伊豆山地区の土石流の発生について(第48報),令和3年8月27日16時現在,報道提供資料
2) 国土交通省砂防部 : 静岡県熱海市伊豆山で発生した土石流災害,令和3年7月9日18:00現在
3) 国土交通省国土地理院 : 令和3年(2021年)7月1日からの大雨に関する情報,地理院ホーム
4) 静岡新聞 : 熱海土石流盛り土の検証に半年副知事が会見、学会に評価依頼,令和3年7月28日[(公社)地盤工学会中部支部HP参照]
5) 国立環境研究所衛星観測センターGOSATプロジェクト : 全大気における二酸化炭素濃度の月平均濃度と推定経年平均濃度
6) 熱海市ハザードマップ(防災ガイドブック) : 熱海市土砂災害ハザードマップ④,更新日令和2年5月20日