1.はじめに
全国には弘法大師にゆかりのある湧水が多数存在します。福島県内では柳津町の「大清水」や磐梯町の「弘法清水」を過去の「土と水」で取り上げてきました。
今回は、本社・再生可能エネルギー研究開発施設が位置する郡山市西部第一工業団地からほど近い、逢瀬町夏出の滝集落で用水として利用されている「滝の弘法清水」を訪れました(写真-1)。
1.はじめに
全国には弘法大師にゆかりのある湧水が多数存在します。福島県内では柳津町の「大清水」や磐梯町の「弘法清水」を過去の「土と水」で取り上げてきました。
今回は、本社・再生可能エネルギー研究開発施設が位置する郡山市西部第一工業団地からほど近い、逢瀬町夏出の滝集落で用水として利用されている「滝の弘法清水」を訪れました(写真-1)。
2.位置について
郡山の西部をほぼ南北に横断する県道29号沿いの旧河内小学校夏出分校前のT字路を滝集落側に進みます。集落内の道路は幅員が狭いため、大きめの車両での通行は困難です。注意してください。
集落を抜けて5分ほど進むと右側に駐車場が見えてきます。その目の前の階段を降りると「滝の弘法清水」に到着します。この日の湧出量は毎分5L~6L程度でした。
近くにお堂も建立されており、荘厳な雰囲気が感じられます。
3.湧水の水質について
湧水を採水して実施したイオン分析結果を基に作成したトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを示します(図-2、図-3)。
採水時の現地測定では、pHが7.40、電気伝導度が18.4mS/mでした。作成したトリリニアダイヤグラムからは領域Ⅰにプロットされ、比較的浅い深度を流れる一般的な地下水であることが予想されます。
ヘキサダイヤグラムも六角形に近い形を示しており、海水や温泉水等の影響を受けていないことが分かります。
トリリニアダイヤグラムでは、領域Ⅰにプロットされました。一般的な地下水の性質を示していますが、ヘキサダイヤグラムからは炭酸水素イオンのイオン等量濃度がやや高いと感じられます。
4.地質と湧出機構
湧水周辺部の地質分布図を示します(図-4)。
「滝の弘法清水」は地質図上では大久保層の分布域に位置しています。大久保層は海成の中粒砂岩層を主体とする地層であり、地層の傾斜もあることから地下水が比較的流動しやすいと予想できます。
一方、イオン分析結果では海成層の影響であるNa+やCl-はあまり多く含まれず、浅部地下水の性質を示すことが分かります。周辺の状況からは岩盤が比較的浅い深度から岩盤が分布していると感じましたが、湧水自体は砂岩中を移動してきた地下水ではなく、地表付近に浸透した地下水が集まって湧出しているのではないかと予想されます。
5.今も残る弘法大師の威光に触れて
弘法大師に由来する湧水は、概ね同様のプロットが語り継がれています。
「滝の弘法清水」でも、次のような伝承があるそうです。
“額取山(安積山)の麓を通りかかった旅僧(弘法大師)が旅のつかれを癒やそうとある老婆に水を所望したところ、老婆はわざわざ下の谷間に降り水を汲んできて一杯の水を差し出した。
旅僧は付近には水がなくわざわざ谷間まで水を汲みに行った老婆の親切に感謝し、水不足に悩む村人のために、錫杖で山裾のあたりを掘った。たちまち清冽な水がコンコンと湧き出て滝のように流れた。そのあと旅僧は黙って安積山の山道を登って行った。
時はうつり村人たちは、この恵の水を弘法大師様ではないかと思うようになり、清水の側に一宇の御堂を建立した。この清水はいまも湧き出ており、日照りが続いても涸れずに、むかしの自然のまま、滝の集落(上滝、下滝)の飲料水や灌漑水として利用されている。”
弘法大師が足を運んだ先で、水不足に悩む地域の人々のために手にした錫杖で地面を突き刺すと豊富な湧水がこんこんと涌き出る。この湧水は枯れることが無く、その後代々に渡り地域で大切に使用され、現代にいたる・・・。
弘法大師空海は平安時代に活躍した人ですが、現代でも語り継がれる弘法大師ゆかりの湧水は概ねこのような伝承のもと、現在も大切にされています。
実際に弘法大師がこの地を訪問し、湧き出させたかはともかく、湧水を地域で大切に保存し利用していくためのきっかけとし、この伝承は非常に価値のあることだと感じられます。
地域で大切にされる湧水に弘法大師の威光を重ねることで、湧水の果たす役割がますます重要なものであるとの認識が強まるのだなぁと感じた一日でした。
また、地域のために行動する弘法大師の逸話は新協地水の企業理念のひとつである「住み良い地域づくりと地球環境の保全に貢献します。」に通ずる部分があるように感じています。
今後、弘法大師の逸話をほんのちょっとでも頭の隅において業務に取り組んでいければと思う新年でした。