(1) 地盤調査の目的
地盤調査の目的は、主として土木・建築構造物の建設(建設事業),地盤災害対策(地盤災害),構造物の維持管理(維持管理)および環境保全(環境)などのために対象地盤の地盤構造と工学的性質を明らかにすることです(図‒1参照)。
従来は、建設事業における各種構造物の建設に関わるものが大部分を占めていましたが、近年の災害の頻発に伴う地盤災害関係の地盤調査や社会インフラストラクチャーの老朽化に伴う構造物の維持管理に関わる地盤調査が増えてきています。
地盤調査は、基礎知識として地質学,土木工学などを必要とし、計測技術などの要素技術を駆使して実施するものであり、建設工事に際し、地盤に関する基礎資料を提供するものです。こうした技術的手法は、そのまま地盤災害対策,維持管理および環境問題の解決に役立つ資料を提供することも可能です。
(2)土木・建築構造物の建設(建設事業)のための地盤調査
建設事業のための地盤調査は、建築物,切土構造物,盛土構造物,上下水道,橋梁・高架構造物,河川堤防・河川構造物,埋立て・港湾構造物,トンネル,ダムなどが対象となります。ただし,これらの地盤調査に関しては、ただ単に地盤調査業務だけを要求されるだけではなく、地質・地質構造や土質及び基礎に関する検討も行わなくてはならない業務も付加されることが多くなっています。これは,建設コンサルタント業務と呼ばれています。
この建設コンサルタント業務は、目的別工種に分類されています。表‒2に建設コンサルタントの専門技術部門とその内容を示します。これらの工種には、それぞれ、計画立案,測量,調査提案(立案),調査,解析,設計(概略,詳細あるいは予備,実施),設計監理,施工管理および維持管理の項目があります。また、環境・防災・維持管理の分野にも分かれています。
また、「建設コンサルタント」は、地盤調査を生業としている会社において、建設部門の土質及び基礎や応用理学部門の地質の部門の資格を持つ技術士で登録していることが官公庁の地盤調査の入札要件となっています。
(3)地盤災害のための地盤調査
地盤災害のための地盤調査は、地すべり・斜面崩壊などの土砂(斜面)災害,地震動・液状化などの地盤災害,洪水などの降雨(気象)災害,降灰・火砕流などの火山災害が対象となります。個々の災害に対する被災調査と、あらかじめ災害を予測するハザードマップなどを作成するための災害発生予測調査に分けられます。ハザードマップには、土砂災害(急傾斜・地すべり・土石流),地震災害(地震動・液状化・津波・活断層),気象災害(洪水・高潮・雪崩),火山噴火災害などの種類があります。近年は、国土のあらゆる所に人が住むようになって自然災害に人工的な要因が重なり合って被害が甚大化する傾向があります。また、地球温暖化により集中豪雨,ゲリラ豪雨が頻繁に発生し、昔と同じような対策では間に合わない状況になっています。
地盤災害の例として2022年3月16日23:36に福島県沖を震源として発生したマグニチュード7.4(暫定値)の地震による被害状況を写真‒1に示します。
(4)維持管理のための地盤調査
維持管理のための地盤調査は、既設構造物が当初の機能を維持しているかどうかを確認する目的で実施されます。定期的な点検・観察が主体となり、不良箇所が発見された場合には、その原因を解明して対策を講じるため、主として非破壊で行う物理探査手法を応用した調査を実施します。近年多く実施されている維持管理調査としては、道路防災点検,トンネル変状調査,コンクリート構造物劣化度調査,基礎構造物損傷調査,のり面老朽化調査,河川堤防老朽化調査,ため池漏水調査,道路面下の空洞調査などがあります。
非破壊調査の例として熱赤外線映像法によるモルタル吹付のり面老朽化診断に用いる可視画像と赤外線画像を写真‒2に示します。
(5)環境のための地盤調査
環境のための地盤調査は、土壌・地下水汚染,大気環境,水環境,地盤環境,生態環境,廃棄物などが対象となります。土壌・地下水汚染については、近年、人工的な汚染のほか自然由来の物質による汚染がクローズアップされており、主要な対象業務となっています。これらの調査は、客観性が高くかつ十分な説明責任が求められます。また、開発事業に伴う環境への影響を予測・評価することを目的として、環境影響評価が行われます。大規模な開発事業を行う場合は必須事項です。