1.はじめに
今年度より湧水シリーズの担当となった筆者(中田)は、第1回目として地元である浜通りの湧水「助けの名水」を取材することにしました。地元では有名な観光スポットで、震災以前は綺麗に整備されていたと聞きました。また、筆者が幼いころ家族と水を汲みに何度も訪れた思い出の場所でした。
今回、不思議な縁に導かれるように初の取材地であり、思い出の場所「助けの名水」に足を運びました
(写真-1、写真-2)。
2.湧水の位置について
原町区の国道6号線から川俣に通じる県道12号線を西へ進みます。大原簡易郵便局の先のT字路を北(栃窪橲原線)へ進み、突き当り(県道268号線)を西に約890m進むと「助けの名水」の案内板が左手に見えてきます。ここを左折し、道なりに進むと「助けの名水」に到着です。
ここで、注意点がございます。カーナビが目的地を認識しない場合と現在通行止めの「助けの観音」を通る道に案内される可能性がございます。事前にGoogleマップ等でルートご確認いただくか、今回ご紹介したルートをご利用ください。
3.湧水池の歴史について
小屋の看板(写真-4)には、江戸時代から塩を運ぶため「塩の道」を往来する人々の憩いの場として「助けの名水」があったとされています。
震災以前は足が水浸しになるほど水量が多かったため、小屋の隣でワサビを栽培していたという話も聞きました(写真-6)。
4.湧水周辺の地質状況と水質について
湧水周辺の地質を調べてみました。地質調査所が公表している地質図を示します。
湧水周辺部では、古生代二畳紀(約2億5100万年〜2億9900万年前)として区分されるとても古い時代に形成された地層が分布しています。その中でも弓折沢層と呼ばれる黒色頁岩および頁岩砂岩互層で構成される地層の分布域に湧水があります。
頁岩は堆積岩の一種ですが、文字通りページのような層状を示し、堆積面に沿って薄く層状に割れやすい性質を持つ岩石です。
頁岩自体は非常に硬質で地下水をほとんど通さないため、岩盤中に発達した亀裂や挟まれる砂岩(砂岩は頁岩より水を通しやすい)または砂岩と頁岩の境界を流れる地下水が沢沿いの斜面と交わる場所で地表に湧出していると考えらえます。
次に、湧水を採水して実施したイオン分析結果を基に作成したトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを示します(図-3、図-4)。
トリリニアダイヤグラムでは「助けの名水」の水質は領域Ⅰに区分されました。ヘキサダイヤグラムも六角形のフォルムが大きく崩れていないことから、一般的な地下水の性質を示すものと考えられます。
現地で測定した電気伝導度の値からも岩盤中を流れるときに溶け出したイオンが存在することが分かります。ただし、その値はそれほど大きくないため、岩盤中の比較的浅い部分を伏流し流れついた地下水が「助けの名水」として湧出していると考えられます。
5.地元の湧水を取材して・・・。
取材を通して、湧水を身近に感じると共に以前訪れていた人々しか知らない知識と時代背景や名残に探求心がくすぐられました。現在工事中のため通行止めになっている「助けの観音」へ続く道は今年の夏開通されると聞き、これを機に、今回ご紹介した歴史の続きや以前の賑わいを取り戻す取り組みが行われるかもしれません。避暑にもうってつけの「助けの名水」へ以前の面影を見に足を運んでみてはいかがでしょうか。
また、近くの「山津見神社」には産業の神、交通安全の神、安産祈願、酒造の神など様々な神徳があります。「助けの名水」に訪れた際は「山津見神社」を参拝してみるのも良いかと思います。
※新協地水(株)技術部