1.はじめに
湧水を取材で訪れると、いろいろな看板を目にします。湧水の由来が書かれた看板や、湧水の名称を示す看板、訪れた人へのお願いが書かれた看板などその内容は様々です。
今回訪れた川内村の2つの湧水、「坊主清水」と「毛戸の清水」には、趣は異なりますがそれぞれ地元の皆さんが大切にしていることが伝わる看板が設置されていました。
2.湧水の位置について
川内村役場を目印に、「坊主清水」と「毛戸の清水」までのルートを紹介します。
坊主清水は国道399号を北上し、県道112号に出て10キロほど道なりに進みますと、看板と駐車スペースが見えてきます。毛戸の清水は、国道399号を南下しYO-TASHIを経由、二つ目のトンネル手前で石橋を渡って左折したところにあります。
3.湧水の水質について
2つの湧水について、トリリニアダイヤグラムおよびヘキサダイヤグラムを作成しました。
このグラフを見ると水質が似ていることが分かります。トリリニアダイヤグラム地下水の性質としては領域Ⅰに区分されるため、一般的な地下水であると言えます。また、ヘキサダイヤグラムでも近似した型となりますが「高田島坊主清水」の方がやや面積が狭く、イオンの量が少ない印象を受けます。
4.周辺の地層状況
湧水周辺では白亜紀前期に広域に貫入した花崗岩類が分布しますが、地質図上ではやや様子が異なるようです。
「坊主清水」は黒雲母花崗岩が一様に分布する地域に位置しますが、「毛戸の清水」が位置する場所は断層が複数存在する畑川破砕帯の内部に位置し、断層に近接するほか地層もやや入り組んでいます。
花崗岩体の地下水は花崗岩類の風化部や亀裂部を流動する場合が多いです。「毛戸の清水」は地質図から想定すると断層に起因する亀裂を流れる裂か型の地下水が湧出していると予想できます。一方、「坊主清水」は水源が離れており、そこから県道沿いに湧水を引いて整備されています。湧水量が多く、ヘキサダイヤグラムの面積も「毛戸の清水」と比べると小さいため、イオンがあまり溶け込んでいないようです。このため、花崗岩帯の風化部を流れる地下水が湧出しているのではと考えられます。
5.湧水には伝説がつきものです。
湧水シリーズでは弘法大師に関する伝説が多く登場します。「坊主清水」にもその名称でわかるように、お坊さまにまつわる話が伝えられていることが案内看板で紹介されていました。
いわく、『昔々、この地を巡教していたお坊さまが峠で病を発症し、もうダメかとあきらめかけたところ、この湧水を見つけ飲んだら元気を取り戻し、旅を続けることができた』との伝説があり、高田島地域の人々に「坊主清水」として脈々と伝えられてきたとのこと。
また、湧水自体は忘れられていたものの最近になり地元有志の手により湧水の場所が特定され、県道沿いまで引き水し休憩場として整備されたそうです。小説のような展開に少し胸が熱くなりますね。
6.おわりに
「坊主清水」では湧水の伝説と地域住民の熱意で湧水が現代に復活したことを案内看板で知ることができました。また、「毛戸の清水」の名称を示す看板には湧水の名前の下に「憩い 安らぎの場」と書かれており、柱部には「毛戸老人クラブ」様のお名前が記載されていました(毛戸は湧水のある地区名)。看板の見た目や雰囲気は異なりますが、どちらの湧水も綺麗に整備されており、地元の方々にとても大事にされていることが伝わる空間でした。
地元の皆様の想いと結びつくことで、ただの「地下水が涌き出る場所」から「地域の憩いの場となる湧水」へと変化することを実感して帰路につきました。
今回、湧き水までの道が入り組んでいたため、道に迷い何度も同じ道をぐるぐると回ってしまいました。そのため、一度引き返して場所を尋ねることにしました。地元住民の方々に目印になるものなどを教えていただいたおかげで湧き水に辿り着くことができ、人の優しさに触れる良い経験になりました。
次は新緑の季節や紅葉の季節など、時季をかえて川内村の名所や湧水に足を運んでみたいと思います。
※新協地水(株)技術部