はじめに
日本人は、世界で有数のエビの消費国であることを知っていますか?そして、そのエビの約95%を海外からの輸入に頼っていることを知っていますか?
近年、新型コロナウイルス問題に伴う輸入品の制限、円安の影響などに伴い、海外産の水産物が品薄になるなど、我が国における食料安全保障並びに食料自給率向上の観点から、陸上養殖による水産物の国産化が注目されています。
弊社は、2011年(平成23年)の東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故によって全村民が避難を余儀なくされた葛尾村(かつらおむら)において、復興のための住民帰還支援と新たな名産品を創出して地域経済の活性化に貢献するべく、2022年1月に会社を設立し、海のない山村でバナメイエビの陸上養殖を開始しました。
本稿では、弊社が取り組んできたこれまでの経過と今後のビジョンについて、3回のシリーズにてご紹介いたします。
1.株式会社HANERU葛尾概要
2.なぜ葛尾村か
筆者は、長年、上下水道事業のプラント建設、維持管理の事業に携わってきました。
近年、上下水道事業においては、財政難、施設老朽化、技術継承問題が顕著であり、特に地震や大雨などの自然災害に伴う緊急時対応を担うべき技術者確保が最も重要な課題であると考えてきました。
そのような背景において、地域の中で地域の人が地域の上下水道を守るという考え方に基づき、過疎化が進む地域において、産業創出と上下水道インフラ管理の融合による技術者確保と継承を実現したいと思い、福島県庁を訪問したところ、葛尾村を紹介されました。
葛尾村は、福島県浜通りと中通りの境の阿武隈山脈に位置し、2023年2月時点で人口1,305人となっておりますが、避難解除後の帰還した住民は326人ほどでそのほとんどが高齢者、村外からの移住者が162人で、若者の定住者増加が課題となっています。
県庁の方同行の元、現地を訪問したところ、震災と原発事故から11年が経つ中、復興や住民の帰還は道半ばであり、元々湧き水や表流水を水源としていた水道事業も、放射能の懸念から全面、深井戸水に切り替わっているなどの説明をいただきました。
そこで、筆者らは、葛尾村において震災と原発事故からの復興の象徴として、バナメイエビの陸上養殖事業を行い、簡易水道施設の管理とを組み合わせた新たな地方創生の取り組みを実施し、全国の過疎地域に向けたモデル事業として水平展開していくことを決意しました。
3.なぜエビか
近年、我が国においては、海洋資源保護、食料自給率向上並びに食料安全保障上の観点から、陸上養殖による水産物の生産が活発化しています。
陸上養殖で飼育されている魚種としては、サーモン(マス含む)、ヒラメ、フグ、チョウザメ、ウナギなど、多岐にわたっていますが、その中でもバナメイエビは、前述の世界的なエビの消費大国でありながら、そのほとんどを輸入に頼っていることから、近年、全国各地で試験養殖が開始されています。
バナメイエビは、クルマエビ科の一種で、身が柔らかく甘みが強いのが特徴で、病気耐性に強いことから、比較的チャレンジしやすい魚種と言われております。そして、バナメイエビは稚エビから約3〜4カ月で出荷サイズとなることから、車エビやブラックタイガーといった品種と比べて、早期に事業化しやすい特徴があります。
当社では、そのバナメイエビを海のない山村である葛尾村において、事業化可能な規模で生産し、葛尾村における新たな名産品として、地域経済の活性化に貢献するとともに、「葛尾村にエビを食べに行こう!」と観光客誘致に繋げることができるよう取り組んでいるところです。