1.はじめに
会津若松市湊町には豊臣秀吉や戊辰戦争、旧石器時代の笹山原遺跡群などの歴史も然り、数々の植物や湧き水に恵まれています。
今回は現場付近に湧き水があるという上司からの紹介で地元住民にも親しまれている「下馬渡の湧水」(写真-1)と「不動明王清水」(写真-2)を取材に訪れました。
2.位置について
郡山から会津方面に国道49号を進み、強清水(そば処として有名です)で国道294号方向に左折します。4.5kmほど進み自動販売機が2つ並んだやや広いY字路を右に入ると白河街道となります。そのまま進むとほどなく右手の山際に「下馬渡の湧水」が出てきます。
また、国道294号に戻り南に進むとコンビニエンスストアを通り過ぎます。そのまま1.3㎞ほど進むと左側に「不動明王清水入口」の案内板が見えますので、左折して道なりに進むと「不動明王清水」に到着です。
3.湧水の水質について
水質を比較するためにそれぞれの湧水を持ち帰り、
イオン分析を実施してトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを作成しました(図-2,図-3)。
採水時の簡易水質測定結果の数値と作成したトリリニアダイヤグラムで2つの湧水が領域Ⅰにプロットされたことから、どちらも比較的浅い深度を流れる一般的な地下水が湧出しているものと考えられます。
一方、ヘキサダイヤグラムの形も似ており性質が近いことがわかりますが、下馬渡の湧水の方がMg2+とHCO3-がとがった形を示し、溶存割合がやや多いようです。
2つの湧水は比較的近い場所にありますが、国道294号が通る平坦部を挟んで東側と西側の山裾でそれぞれ湧出しています。実際に地下水が流れている経路は異なるため、溶存成分の相対的な量が異なるようですね。
4.地質と湧出機構
湧水周辺部の地質分布図を示します(図-4)。 2つの湧水とも丘陵部や起伏の少ない山地と低地部が接する部分で湧出していますが、湧出している場所の地層状況は異なるようです。 20万分の1地質図幅「福島」を参考にすると、「下馬渡の湧水」は白河火砕流堆積物と呼称されるデイサイト質(石英安山岩質)の溶結した凝灰角礫岩〜火山礫凝灰岩からの湧水ですが、「不動明王清水」は流紋岩質の火砕岩からの湧水となります。
地層状況は亀裂の発達しやすい岩盤であり、どちらの湧水も岩盤の亀裂部を流れる裂か水が低地との境界部で湧出していると考えられますが、「不動明王清水」が位置する流紋岩質の火砕岩でよりSiO2量が多くなり、「下馬渡の湧水」では白河火砕流堆積物中でMg等を含む有色鉱物の量が若干多くなります。湧出の機構は同じですが、通過する岩盤の組成が湧水の組成にも影響している例と考えられます。
5.湧水を取材して・・・。
今回ご紹介した2箇所の湧き水は、湊町のガイドブックにも記載されております。不動明王清水は、不動明王寺の隣から湧水していることから「不動明王清水」と名付けられたと言われています。他にも目に良いという言い伝えや13年前の震災時には、断水した地元住民の助けになったとも言われています。
湧水の周辺に広がる田んぼは、夏には水が張られた美しい緑が広がり、秋には稲穂の黄金色が辺り一面を彩り、季節ならではの姿を楽しむことが出来ます。
また、以前会社主催の講演会で湊町の背炙り山に豊臣秀吉が通ったとされる道「関白平」をご紹介いただいたので足を運びました。夏から秋の間だけ山道が開放されており、「関白平」は背炙り山の山頂にあります。近くにはキャンプ場もあり、晴れた日は山頂から会津盆地や磐梯山、猪苗代湖を一望することが出来ます。その景色は豊臣秀吉が心を奪われるほどの絶景だといいます。
湊町を訪れた際には地元住民に親しまれている湧き水や豊臣秀吉が心を奪われた絶景を訪ねてみてはいかがでしょうか。
お詫び
前号の湧水シリーズ「猪苗代の湧水を訪ねて…磐椅(いわはし)神社 宝の水」の2.位置についての本文中で、土津神社の境内前を流れる用水である「土田堰」(はにたぜき)を「土津堰」と誤表記しておりました。
大変申し訳ございませんでした。お詫びして訂正いたします。
※新協地水(株)技術部