1.はじめに
郡山の奥座敷と呼ばれる磐梯熱海はその名を体現する温泉街で賑わっています。磐梯熱海の開湯は800年以上前とされ、地名の「熱海」や本社の所在地である「上伊豆島」などは、領主となった源頼朝の家臣が故郷の伊豆にある熱海温泉を偲んで名付けたと言われています。また温泉街を流れる「五百川」は、萩姫という美しい娘が、不治の病を治すために神様のお告げを頼りに京から五百本目の川沿いの温泉に浸かり、完治したという伝説が由来とされています。
今回は温泉街で有名な磐梯熱海で、地元住民からおいしい水道水として親しまれている深沢川の名水と同じ名前を冠する湧水「深沢の名水処」(写真-1)に足を運びました。
2.位置について
磐梯熱海駅から踏切を渡り、磐越西線を挟んだ反対側の道路に出ます。磐梯熱海温泉街の方角に約1.0㎞進み、左側の「華の湯」の看板に従い左折すると温泉街に入ります。少し進み右側に足湯が見えましたら、左側の「ゆとりろ磐梯熱海」の第二駐車場に入って右奥の鳥居の手前に「深沢の名水処」がございます。車でお越しの際には案内の看板が出ていますので近くのゆとりろ磐梯熱海の第二駐車場をご利用ください。
3.湧水の水質について
湧水の性質を調べるために、イオン分析を実施してトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを作成しました(図-2)。
深沢の名水はトリリニアダイヤグラムでは領域Ⅰにプロットされたことから、比較的浅い場所を流れる一般的な地下水であると考えられます。
ヘキサダイヤグラムでも、ほぼ六角形を示すプロファイルとなりました。温泉街に近接していることから、イオンの溶存量が偏った性質を示すかもと思っておりましたが、表流水に近い地下水の性質を示していると言えそうです。
4.地質と湧出機構
湧水周辺部の地質分布図を示します(図-4)。
周辺の地質は一様ではなく、マグマ由来の火成岩や砂や泥、火山から噴出した火山砕屑物が固まった堆積岩が比較的入り組んでいることが分かります。また、地質図でも磐梯熱海を代表する温泉マークが記載されていますね。
深沢の名水は地質図上では安山岩火砕岩及び溶岩の分布域に位置しています。これらの地層は比較的亀裂や空隙が多く、地下水が流れやすい地層と言えます。また、五百川沿いに形成された平坦地とやや傾斜の急な山地が接する山裾に該当するため、降った雨水が比較的早い段階で地層中の流下しやすい場所を通り、湧出しているのではと想像します。
5.湧水を取材して・・・。
県内の内陸部に位置する磐梯熱海は温泉や湧き水といった地下水の恩恵を授かり、今も昔も変わらず多くの方々に愛され親しまれていることを肌に感じました。湧水のそばに建つ源泉神社はその恩恵への祈願と感謝を込めて名付けられたとされており、神様への祈願のみならず日頃からの感謝も大切であると気付かされました。
湧水の近くには無料の足湯と手湯がございます。こちらの湯は駅前の足湯よりややぬるく、駅前の足湯が熱いと感じる方にはちょうど良い温度です。駅から少し離れた場所にあるため人の数も少ない穴場スポットです。お時間がある方はタオルをご持参のうえ、身も心も潤しに訪れてみてはいかがでしょうか。
※新協地水(株)技術部