特 集 

深井戸のメンテナンスについて
≫≫ ボアホールカメラによる井戸内観測の必要性 ≪≪

営業部 課長 山家久雄

ボアホールカメラとは?
 はじめに、当社が新しく導入した井内観測機器(ボアホールTVカメラ)について説明いたします。(写真)
 井内観測機器(ボアホールTVカメラ)『以下ボアホールカメラ』は、井戸内部を映像として映し出し、色々な障害を見つけ出し、井戸回復への対策(処置)等を考えるのに有効な手段です。人間でたとえれば、胃カメラのようなものです。胃が痛い人を外面的な症状だけで診断するのではなく、胃カメラを入れてどのあたりが悪いのか、またどの様な症状なのかを映像として映し出せば適正に処置することができます。
 同じように、井戸内部についても井戸水が濁った、砂が混じってきたといった現象が発生しても、果たしてどの位置で障害が起きているのかわからないと有効な対策を行うことはほとんど不可能です。そこで、ボアホールカメラで映像として捉えれば、どの部分が、どんな症状なのかということが一目瞭然となってくるわけです。このようなことからも、井戸に何らかの症状が出てきた場合、井内観測の必要性(重要性)が解ると思います。

井戸の障害とは?
 まず、井戸について先入観や漠然と抱くイメージを大きく変えていただきたいのです。みなさんは『井戸は永久的なもの』と考えている人が大半であると思いますが、井戸にも寿命はあるのです。深井戸の耐用年数(井戸の寿命)は特に明記されていませんが、鋼管井戸ケーシングの場合、一般的には、約20〜30年とされています。しかし、井戸ケーシングは、その井戸の状態(井戸の構造、地下水の水質、地下水の使用条件、他等)が耐用年数を大きく左右する事があります。(以下参照)
使用条件・・・・・井戸能力と水中ポンプのバランス
         井戸(ポンプ)の稼働時間
         自然水位と運転水位の差
         井戸スクリーン位置と運転水位の関係
水質・・・・・・・地下水の性質(pH、含有成分、温度等)
井戸設置場所・・・敷地内の井戸設置場所と付近の構造物        
        (キュービクル、高圧鉄塔、高圧電線等)
周辺環境・・・・・地域条件
        (近隣井戸の有無、大規模造成、付近構造物)
 以上の様な条件によって深井戸の耐用年数は決定され、最悪の場合は5年程度でケーシングが腐食し圧潰が発生したという事例もあります。(原因が単独ということはほとんど無く、色々な条件が重なって発生する場合の方が多い)
 それぞれの井戸が様々な条件下で使用されていますので、例えば、水が濁ってきた、砂があがってきた、水質が変化した等の症状が発生した場合、井戸ケーシングに何らかの障害が発生したと考えられるため、早急に井戸の診断をすることが必要となってきます。
 ここで、井戸内を映像として映し出すボアホールカメラが必要不可欠となってくるのです。

井戸の障害と処置 井戸・ポンプのメンテナンスと経済性
 井戸については前述したように、それぞれの井戸により独自の性質があり、その性質の違いによって様々な障害が発生します。例えば、下図の様に井戸新設時は、井戸の自然水位とポンプでの汲み上げ水位(運転水位)の差は小さかったものが、時間経過とともに運転水位が低下して差が大きくなっていきます。この状況は、水位の低下とともにケーシングが酸化して錆が発生することから始まり、錆スケールの発生やケーシングの腐食へと進行し、ケーシングの腐食孔から濁り水や砂の流出という現象に至ります。
【錆スケールの発生→スクリーンの目詰まり→水位低下→酸化→スケール発生→スケール剥離→腐食→繰り返し】


運転水位の変化
注:「自然水位」揚水しない状態での水位            
「運転水位」揚水時の水位(揚水量と湧出量とのバランス水位)

 上図の末期的な状態になると、ほとんどの場合井戸の機能が回復しないため新規に井戸を設置しなければなりません。(例えば、井戸寿命20年として、20年毎に井戸を新設する状況になる。)
 そうならないためにも定期検診を実施し、常日頃の状態を把握する『井戸カルテ』を作っておくべきであると考えます。また、人間と同じように早期発見・早期治療を行えば井戸及びポンプを長期間使用できることとなります。
 早期治療とは、井戸のメンテナンス(洗浄工等)であり、定期的に実施することにより、水量の確保と井戸の長期使用が可能となり、結果として一番経済的です。最後に、水中ポンプについて考えた場合、使用している井戸とのバランスで判断する必要があります。
 井戸とポンプの関係では、

  1. 井戸効率・地下水質が良く、短期間でのスケール発生があまりない状態
  2. 水質が良くないためスケールが短期間のうちに発生する(目詰まり状態)
  3. 井戸能力とポンプ汲み上げ量のバランスが悪い (過剰揚水)
  4. ポンプ稼働時間(汲み上げ量)、水位降下量の変動が激しい場合

 以上の様な事が考えられます。
 1. の状態は、比較的長期間稼働しても井戸及びポンプ本体には特に大きな影響は与えないので、ポンプの稼働時間等を管理しながら時期を想定し、定期的にメンテナンスを実施することが望ましく、1. 以外については、ポンプに対して何らかの悪影響を及ぼしているため、比較的早い時期でポンプに影響が出てくるものと考えられます。
 従って、ポンプを長期にわたって使用するなら、2〜3年程度で消耗部品の取り替えやスケール除去、清掃等のオーバーホールを実施し、少しでもポンプの寿命を延ばすように考えることが必要であり、それがコストにも関係してきます。

総合的な判断からのメンテナンス
 前述したように、第一に経済性を重視した場合、定期点検・定期メンテナンスを実施して井戸・ポンプともに良い条件で使用することが最も経済的であると言えます。
 では、どのようなメンテナンスが理想的であるかを最後に述べます。

  1. ポンプの点検整備、オーバーホール等を2〜3年毎に実施する(ポンプ引き上げ)
  2. ポンプ引き上げ時に、井戸洗浄、浚渫等のメンテナンスを実施する
  3. 予備ポンプ(代替えポンプとして)を準備する(注-1)
  4. 井戸・ポンプ管理台帳を作成し次の時期を想定する(注-2)
  5. 井戸・ポンプのメンテナンスについての費用は、その都度ではなく予算化する


新型井戸洗浄器

(注-1)予備ポンプの準備とは、ポンプ整備期間中の給水停止時間を極力少なくするために準備し、2台のポンプを交互に使用すること
(注-2)井戸・ポンプ管理台帳とは、井戸構造図、揚水試験記録、運転記録、整備時期等を記録し状況の変化や将来の計画を検討するためのものである


第7回技術研究発表会をおえて

実行委員長 渡辺 善蔵

 第7回技術研究発表会が8月4日に郡山市大槻町の郡山市青少年会館で行われました。このように本格的な研究発表会を一つの企業が開催することは非常に稀だと思いますし、7年間も続けられたこと自体、会社の技術力、技術に対する情熱を示すものであり、みなさんに自慢できるものと確信しております。論文の内容も年々高度化し、応用地質学会等に発表したものや特許出願できた発明もあります。今後、更なる発展を続けていきたいと思います。
 今回の各賞受賞者、論題及び寸評は以下の通りです。

アートスペース工学(株)
田村太郎氏

各 賞

受賞者

論題及び受賞理由

技術賞
技術部地質環境課
 石井六夢〇 大坪久人
【阿武隈花崗岩中の比抵抗二次元探査と岩盤の状態】
良く論文としてまとまっているが、残念ながら結論を出すためにはデータが不足しているので、他の現場のデータも入れたものにして頂きたい。

奨励賞
技術部工事課
 篠田順一〇 平善照
 郡司武律 (工事課全員)
【大玉村1号井水源工事に伴うさく井工事現場報告】
施工中に経験した学ぶべき諸項目を分析し対策を提案しているので、今後の工事に活かして頂きたい。
基礎開発事業部
 山口 将〇 菅野雅浩
 深谷高志
【真砂土及び粘性土におけるブレードパイルの調査・設計の注意点と施工方法について】
単なる現場報告ではなく、その中の技術的な問題点1点についてデータを集め、論文として解析して頂きたい。

特別賞
アートスペース工学(株)
 田村太郎
【揚水試験による横井戸の限界集水量と降水量の関係】
少ないデータでも結論を出す方法があることを示している。機会があったら、データをもっと収集し、まとめなおして頂きたい。
技術部地盤調査課
 藤沼伸幸
【ボーリング孔を用いた現場透水試験から求められる透水係数の
         比較・検討(回復法及びパッカー式透水試験)について】

パッカー式透水試験をもっと社内でPRし、いろいろな現場で使用し、もっとデータを収集して頂きたい。

      連名中の氏名○は発表者


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