土と水の広場 |
10月末に入社して、「早速に紀行文を」ということでしたが、時間もなかったので家族での旅行も計画できず、ほぼ1年ぶりの山行となった。
昨日からの雨模様で今日(11/13)の山行は、おもしろみに欠けると思い、雪囲いをするかどうか迷いながら、山並みを見た。
先週に初冠雪をみたという磐梯山は曇がかかり、状況がよくないが、手前の雄国山の稜線は見える。なんとか天気はもちそうな気配である。県内に23ヶ所(福島県の所在地)ある一等三角点のひとつ、猫魔ヶ岳からの眺望を期待して出かけよう。
途中、江戸時代前期の掘抜隧道工事に従事した工夫達の、力水となったという力清水から水を補給し、30数年前に雄国山で初めて経験した冬山を思いだしながら、今は車を走らせて、金沢峠におり立った。眼下に雄国沼、奥の右側には猫魔ヶ岳、太平山、厩岳山、左に雄国山などの外輪山が連なる。
50万年前に猫魔火山の影響で出来たと考えられているカルデラ湖(雄国沼)は、周囲が約4km、深さが最大8m、そして小さな尾瀬といわれるこの雄国湿原は晩秋の季節でも人気があり、数組の登山者がいた。猫石、猫魔ヶ岳とひとりでのんびり歩くには、手ごろな道のりであろう。
沼のほとりを歩くと冷たい風が水面をたたき、水音がさわがしい。川の流れにも似た水音も山道に入ると、ほどなく枯れ葉の音と足音だけに変わった。
ナラの落葉はくるぶしくらいまであり、暖かささえ感じる。高度を稼ぐとともに見え始めたブナの白い木肌は、曇空から時折さす陽に映え晩秋の美しさを際立たせている。
沼に注ぎ込む幾筋の沢をわたりながら、前の職場の施工分野に携わっていた時には想像しなかった源泉への思いや、沢肌の地層の変化・地下水脈、ところどころにある滑落の跡を興味深くながめている自分におかしくなった。
やがて尾根づたいに道は変わり、足元は石と粘土の混じり合った状態となる。こんなとき、地質屋と言う我社の人達は石や粘土を手にとり、岩質・土質などを判定し、50万年前に夢をはせるのだろうと思いながら、約2時間かかって猫石に到着した。
昼食をとったが、風の冷たさに負けすぐに目的地に向かった。一等三角点のある猫魔ヶ岳からのながめはさすがで、会津盆地が半一望できた。裏に目を向けると磐梯山は雲で見えなかったが、猪苗代湖・桧原湖がガスの合間から半分ほど見えた。手前にはアルツ磐梯、猫魔スキー場があり、雪を恋しがっているようだ。そのスキー場の尾根を境に雄国沼側の木々は霧氷で飾り付けられていることから、西側からの季節風の厳しさが想像できる。
まもなく、尾根を境に色とりどりの花が咲くゲレンデと、誰も居ない白銀の世界に分かれた雄国周辺になるのだろう。
帰路の猫石からみる雄国湿原は陽がさすと黄金色になり、八つの外輪山に囲まれた地底から、なにかが涌き出るような幻想的な思いにかられる。
こうして眺めて、地形などから人間の存在しなかった太古の地球を想像しながら、足を運ぶ事も忘れがちに下山して、金沢峠についたときには手はかじかみ、体はすっかり冷え切っていた。猫石、太平山、猫魔ヶ岳は朝の入山の時とまったく同じ様に木々についた霧氷で白化粧して見える。
往復5時間の、のんびりした山行であったが、いままでとは違う目で山を見られるようになった環境に感謝しながら家路についた。
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