シリーズ

私の山紀行  第3回『残雪の額取山(安積山)』
代表取締役社長 佐藤 正基
(RCCM 土質及び基礎)

 「安積山影さえ見ゆる山の井の浅き心を我が思いはなくに」これは、万葉集巻十六に記されている歌です。安積山は、正式には額取山といい郡山市街地の西方、会津地方との境界になかなか立派な山容を見せています。稜線上の最高峰は大将旗山であり額取山ともども山名は、現在放映されているNHK大河ドラマ「義経」からさかのぼること、四代前の八幡太郎義家に由来をしています。元服のときにこの山で額の髪を剃る儀式を行ったことから額取山そして大旗を掲げたことから大将旗山と命名されたそうです。福島県の中央に位置し、さえぎるもののない展望は手軽に登れる山としてまた、御霊櫃峠から額取山に至る縦走路は変化に富んだコースであり、春はコブシそして初夏にはツツジが咲き誇り、花の種類も豊富で年間を通して人気のある山です。私にとっても安積山と呼んだほうが親しみがあり、年間に幾度となく訪れる山です。そんな山紀行から今回は、3月残雪期の春探し山行を紹介します。



 2004年3月20日(土)、前日頭の痛い重要な会議だったことから早起きすることが出来ず、少し遅めの午前7時30分にスタート。天気は快晴とはいえないものの車を西に走らせ登山口となる御霊櫃峠に至る林道に入る。前回(2月22日)は、草倉沢の人家先までしか乗り入れすることが出来なかったが、今回は路面の雪解けが進みつづら折れ手前の草地まで入ることが出来た。残雪で行き止まりの路上にはすでに車が2台、邪魔にならないスペースに駐車をして登山開始となる。
 つづら折れの道路を横目に御霊櫃峠を目指し直登、固く締まった雪に軽アイゼンが食い込みシャキシャキという音を立てながら快適な登りが続く。無積雪期ならば巨大なパラボラアンテナの脇のトレイルを行くことになるが、今は道路脇の雑木林も雪に覆われている。最初のピーク(931m)は雑木林を覆った雪の上から直登で目指すことに。春の暖かい日差しを受けながらひと汗もふた汗もかくと稜線に立つことが出来る。稜線からの展望はいつ見ても飽きない風景で磐梯山そして猪苗代湖を西に望みながら先に進むことになる。ところどころ日当たりのよい部分では雪解けも進みトレイル脇の草花の芽が彩りを添えており、ガレた急坂を一気に登ると、約1時間40分で大将旗山頂(1056m)となる。山頂からの展望は南側に限られるが、春霞の中遠く南会津の山並を望むことが出来る。

 まだこれから先も結構長く残雪のトレイルが続くため、のんびり風景を楽しみたい気持ちを抑え早々に歩き始めることに。アップダウンを繰り返しながら先に進むと、額取山から来た青年とすれ違う。「気持ちいいですねぇ」と声をかけると、「本当に、まるで雲の上を歩いているようです。」と、残雪と霞の中といった組み合わせがなんとなく浮遊感を与えてくれるのだろうなどと思いながら、さらにアップダウンを繰り返し最後のガレた急坂を登ると約47分で額取山頂(1009m)となる。山頂は、東西20mほどの広さで360度のパノラマを楽しむことができる。特に磐梯山と猪苗代湖の風景は圧巻で、深田久弥作「日本百名山」の磐梯山の項で「私の得た最もみごとな眺望は、額取山から高旗山に続く丘陵山脈上からであった。その高所から猪苗代湖の一大円鏡を見おろし、その彼方にいさぎよい形で立った磐梯山を眺めたが、これほど気高く美しい磐梯山は初めてであった。」と記述されているほどである。そんな風景に浸りながら、特製おじやと缶ビールでのんびりと早春のひと時を満喫する。
 下山は、春の御裾分けということでお袋の大好きな“ふきのとう”を取りながら、のんびりと。(登り2時間27分,下り2時間43分)




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