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私の山紀行 第7回『晩秋の安達太良山』

代表取締役社長 佐藤 正基
(RCCM 土質及び基礎)

 高村光太郎の詩集「知恵子抄」によりその名が全国的に有名になった安達太良山は福島県を代表する名山です。中通りのほぼ中央、会津との境に位置し、4号国道を福島市より南下をすると郡山市まで穏やかな山容を西に望むことが出来ます。入社以来、15年間福島から郡山まで通勤をしていた私にとって、朝車窓から見る安達太良山の眺望により一日の天気を予測し、雄大な風景に四季を感じてきました。私自身が40歳のとき登山を始めたきっかけとなったのも安達太良山でした。何かの本で、深田100名山「ラクチンの山ベスト10」の10位にランクインをし、ゴンドラ駅から標高差350m,1時間10分という見出しに、気分転換で「ちょっと登ってくるかあー」といった、軽いノリで小学校の遠足以来約30年ぶりの2000年7月に訪れました。その時は、あだたらスキー場のゴンドラを利用してどうにか登頂することが出来ましたが、暑くて苦しい山行だっただけに達成感はひとしおで下山後の温泉とビールは至福のときを与えてくれました。その後、「山登り」は私にとって、ストレスを発散させることが出来る趣味を持つことの大切さを堪能させてくれています。3階の自宅玄関(郡山市内在)を開けると、晴れていれば北側に聳える安達太良山を大きく望むことが出来ます。いつもそこにある山で、1年で最も多く登る山として(2005年は、8回)、そして幼い子供たちと母と登った山であり、私にとって非常に身近な山です。



 安達太良山は、北から鬼面山,箕輪山,鉄山,矢筈ガ森,本峰,和尚山と続き、南北15km,東西12kmにおよぶ火山列を形成しています。その東側には、僧悟台,勢至平,仙女平などの溶岩流台地が広がっており、稜線の西側には直径1.2km,深さ150mの沼ノ平噴火口があります。眺望すれば穏やかな山容ですが、登ってみれば岩場や火口など変化にとんだ山となっています。さらに、樹林帯は山腹のみで、稜線は丈の低い灌木かハイマツだけのため、すばらしい展望を満喫しながら歩くことが出来ます。登山口は、奥岳登山口,塩沢温泉口,野地温泉口,横向温泉口,沼尻登山口,母成峠口,石筵口,表登山口と四方八方から頂上を目指す登山道があり、いずれにも温泉があるのも大きな魅力のひとつです。
 今回は、紅葉に彩られ混雑する安達太良山にあっても比較的人が少ない、沼尻登山口から火口壁に沿って周遊する「晩秋の沼ノ平周遊(安達太良)」ルートを紹介します。



 2005年10月下旬は週末になると曇りか雨。30日(日)は「なにがあっても山に行くぞぉー」と期待をしながら週末の予報を気にしていた。「曇り」で雨は降らないとの前日の予報から、晩秋のこの時期「紅葉と船明神山から観る沼ノ平の景観」に期待をして、沼尻登山口から鉄山山頂を目指し、火口壁を周遊するコースを企画。前日の会議の疲れからか早起きすることが出来ず、午前8時に自宅をスタート。猪苗代町付近で小雨になるものの、安達太良山周辺は明るい。国道115号線から沼尻温泉へ、その奥まで突き進みスキー場内の砂利道を上っていくと、3kmほどで広い駐車場に到着。



紅葉の白糸の滝を目当てに乗用車が多く入っている。あせる気持ちを抑え準備をして、午前9時50分にスタート。駐車場付近(標高 約1131m)から鉄山山頂(1709m)までの標高差は約578mとなる。登山口から白糸の滝展望台までは遊歩道として整備してあり、多くの観光客がカメラをかまえシャッターチャンスを覗っていた。ここから先は、登山道となり緩やかながらも徐々に高度を上げ登山口から40分で湯の華採取場分岐となる。ここからは、樹林帯の中の急登で、火口壁の障子ヶ岩の側壁に取り付くことになる。約50分ぬかるんだ道や木の枝に掴まり悪戦苦闘すると、向かって左側の斜面が大きく開けてくる。標高1610mの岩の縁にようやくたどり着く。牛の背から下山してきた老夫婦と言葉を交わすと、「稜線はものすごい風が吹いているので戻ってきた」とのこと。安達太良山は、強風の名所ともなっており我々も秋から冬にかけて何度となく体が吹き飛ばされそうな強風を体験している、とは言っても十分に注意をして。ここからは、沼ノ平を眼下に展望のよい尾根歩きが続き、アップダウンを繰り返せば小さな祠がある船明神山となる。樹林帯の中とは対照的な荒涼とした風景が広がっており、慎重にガレ場を進むことになる。思ったほど風は強くないが、動かないでいると寒さを感じるため、鉄山避難小屋を昼食場所とし先に進むことに。

登り始めて2時間55分で小屋に到着。ここは、風をさえぎればあまり寒さが気にならないため、外でビールとラーメンで昼食を取る。下山は小屋から西に向かい、プロペラが印象的な石楠花の塔の前を通り、火口壁の岩稜を進むことになる。8〜9月頃であればこのあたりは、オヤマリンドウが咲き、秋の山の重要な収穫物であるガンコウラン(コケモモ同様甘酸っぱい)の実がたくさん生っていて、観てよし,味わってよしと秋の山を満喫できるルートである。このため、登りのコースであれば相棒が夢中になり、なかなか先に進めない手ごわい関所と化してしまう。さらに先を進み、溶岩台地の亀裂の中に吸い込まれるように、胎内岩をくぐり一気にガレ場を急降下すると、沼ノ平から流れ出る硫黄川が造る谷状の凹地へ。しばらく沢に沿って歩くと、湯の華採取場跡地となる。

胎内岩とオヤマリンドウ
(2005年9月10日撮影)

ここは、川に温泉が流れ込んでいるので初夏〜初秋にかけては登山後の疲れを癒す天然露天風呂として、野湯を味わう人達でにぎわう秘湯エリアとなっている。今は晩秋。野湯に浸かりたい気分を押え、迫りくる冬の訪れを予感させる風景を楽しみながらのコーヒータイム。最後は、旧作業道を駐車場まで。

鉄山避難小屋まで 
登り 2時間55分 下り 1時間30分
(コヒータイム30分を除く)

 


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