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私の山紀行 第8回『厳冬期の安達太良山』

代表取締役社長 佐藤 正基
(RCCM 土質及び基礎)

 四季の中で山々が彩をはなち、いっせいに輝く秋!年間を通してこの時期がもっとも山を訪れる人々が多く、もっともにぎわう時です。この時が「あっ」という間に過ぎ去ると、頂は白い雪に覆われいよいよ冬山のシーズンとなります。にぎわった季節から一転して山本来の静寂さを取り戻すのが冬山です。登山を始めて最初の冬は、「冬山は経験を積んだベテラン登山者だけの隔絶した怖い世界」というイメージから、高い山を避け阿武隈低山を冬のフィールドとして山歩きをしていましたが、2001年3月にスノーシューを購入してから冬山デビューとなりました。フィールドを裏磐梯の湖沼巡りから徐々にスキー場を利用して登れる山を対象にして冬山登山を体験してきました。冬山の魅力は、澄み切った空間の中、白い頂から眺める広大で美しい風景と他の季節とまったく異なったコントラストが見られることです。そして歩行中に感じるのは、静寂さの中で聞こえる風の音・自分自身の息遣いに、なぜか心が安定し不思議な感覚になることです。
 今回は、安達太良山登山のメインコースであっても比較的入山が少ない2月、奥岳登山口から勢至平そして山頂を巡り薬師岳から五葉松平に下山をして、あだたら高原スキー場に至るルートを紹介します。

 2007年は全国的な暖冬傾向で福島県内も例年と比べると極端な雪不足となった。私自身、中途半端な積雪の雪山を意識的に避けていたせいか今シーズンはまだ本格的な冬山を体験していない。今回こそは「雪山三昧」とばかりに2月12日(月)にお気に入りの安達太良山への登山を計画した。前日の予報では「曇りのち晴れ」、深酒をしないよう万全に体調を整えはしたものの、まだまだ朝方は冷え込みなかなか布団から抜け出せず、結局7時に起床。目覚まし時計は6時だったけど、眠気と布団の暖かさの葛藤の中で時間通りに起きられなかった自分自身に腹が立つ。そんな私を見て「眠れるのは若い証拠」と相棒は励ましてくれるが、「お前こそちゃんと起きろよ!」と心の中でつぶやきながら、互いにあわてて準備をして自宅をスタートする。登山口となる奥岳駐車場(あだたらスキー場の駐車場)には8時30分ごろに到着。例年であれば満車状態の駐車場も雪不足のためか幾分少なめ。見上げる山頂付近は、まったくガスで見通しは利かないが午後からの快晴を信じてザックにスノーシューを取り付け、8時42分にスタートする。駐車場の標高が、約938mであることから本日は山頂までの比高が約762mとなる。積雪が少ないうえに寒暖の差が著しいため、融解と凍結を繰り返し雪は予想以上に締まっていて大変に歩きやすい。行けるところまでスノーシューを履かずに行くことに。スキー場北側のカラマツ林の緩やかな登りを進み、鳥川を渡るとくろがね小屋までジグザグに続く林道となる。この林道をショートカットしながら徐々に高度を上げていく、どこまで行っても雪は締まっていてスノーシューを履くタイミングがつかめない。歩き始めて51分で最終林道との合流地点となる勢至平の東端に出る。勢至平は、溶岩流台地で緩やかな傾斜となっているが境界面が急傾斜を形成している。この斜面が、今回のコースの中で唯一キツイ勾配であることから、斜面を利用して県外の山岳会10数名がアイゼンとピッケルを使用した滑落停止の雪上訓練を行っていた。「おはようゴザイマース。」と挨拶を交わし通り過ぎると、徐々に雲は薄くなり始め見通しが利くようになってきた。それでもまだまだ霞がかかって視界は良くないが、遠く北北東に福島盆地が見渡せる。勢至平から上部は、風の強い日は地吹雪となりやすく、例年であれば吹き溜まりとなってスノーシューでの歩行も困難となるが、今年は雪が少なく大変に歩きやすい。冬の安達太良山を訪れる多数の登山者は、スキー場のゴンドラを利用して薬師岳経由で山頂を目指す人が多いせいか、登りではほとんど人と会わない。たまに下山をしてくるパーティは、前日からくろがね小屋に宿泊をしていた人達だろう。林道から山頂に至る分岐を左側に折れ「峰の辻」を目指す、トレースははっきりしているが雪の重みが不足しているため、完全に木々の枝を押えきれず中途半端にかがんだりまたいだりしながらの登りでいつもより疲労感が増してくる。しかし、ここから見る風景は、安達太良本峰・鉄山・箕輪山と連なる安達太良連峰の全容を望むことができ、期待通りの雪景色に心が躍る。樹林帯を過ぎて峰の辻までの斜面はスケートリンク状に輝き、陽の光を浴び眩しいほどだ。途中、老夫婦がアイゼンを装着しているが、我々は平気とばかりに斜面に取り付くとツルツル滑って今にも転びそうになる。トレースとなっている階段状の雪道も氷状と化しているため一歩一歩慎重に、相棒は、「アイゼンは絶対に付けるべき」と、大声で私に訴えながら、ビクビクヨチヨチと私の後を着いてくる。登山口から、2時間23分の11時5分に「峰の辻」に辿り着く。ここはいくつかのコースの合流点でもあり、本峰から下山をしてきた人,これから本峰を目指す人で、このルートの中で最も賑やかな地点となっている。ここから眺める風景も圧巻で、目指す安達太良本峰の乳首に似た姿を間近に望むことができる。(表題写真参照)このためよほどの強風でない限り休憩ポイントになっている。我々も少し休みながらアイゼンを装着し、沼ノ平そして磐梯山を見たさに西側の牛の背に出て本峰を目指す。山頂付近は、映画「八甲田山」のロケ地にもなったほど、天候が悪化をすれば「烈風が吹きすさぶ」風景になるものの、今は烈風ほどではないが、風は結構強く汗にまみれた帽子がみるみる凍ってくる。それでも体感的な寒さよりワクワク感が勝り、気分最高とテンションは気温とは逆に上がる一方となってきた。ここ牛の背は、風が強いため積雪は少ないが、登山道はカチンコチンに凍っている。西からの強風に体制を整えつつ滑らないように十分にアイゼンを食込ませ一歩一歩山頂を目指すと、ほどなく山頂直下に出る。ゴツゴツした岩山を回り込み、一気に登りきれば「乳首」と呼ばれる最高点の本峰(標高1,700m)、登山口から登り始めて3時間9分の11時51分に到達する。頂上からの眺望は360度で、南に大きく和尚山,西に磐梯山,北には鉄山から箕輪山そしてかなたに吾妻連峰が見渡せる。厳冬期ならではの澄み切った「この風景」は、体感的な寒さと流した汗を完全に忘れさせて、また来たいという思いを強くさせてくれる。本来なら風景に浸りゆっくりしたいが、ザックに付けた温度計は氷点下7℃、動かないでいると結構風が強くそして冷たく感じる。ここでの食事を断念し、この風景を目に焼け付けて急ぎ薬師岳を目指すことにする。
 下山は、広い尾根筋をそりで一気に!
 仙女平との分岐を過ぎ、風をしのげる場所をさらにスコップで掘り下げベンチをこしらえる。昼食は、この時期の定番であるインスタントみそラーメンにキムチをたっぷり入れての熱々メニューで体の芯から温まる。約30分休んで、薬師岳そして五葉松平へ急降下。最後は、あだたらスキー場の脇を歩いて、午後1時53分に登山口へ戻る。本日の山行は5時間11分、冷たくなった体そして程よい疲れを癒すため温泉へ一直線。




 


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