シリーズ

私の山紀行 静寂なる川桁山

代表取締役社長 佐藤 正基
(RCCM 土質及び基礎)

 福島県のほぼ中央部にある猪苗代湖の東側には、川桁山塊という比較的高い山地があります。この山塊は、東北地方を縦断し、関東地方北部まで約500kmにわたって連なる脊梁山脈・奥羽山脈の一部であり、川桁山(標高1,413m)を中心とした1,200m級の山々が連なっています。西側からは山全体が見渡されブナ林が多く比較的なだらかな山容ですが、東側は急峻な地形となっています。そして、脊梁山脈であることから、日本海側気候と太平洋側気候に分け隔てる山地であるとともに分水嶺でもあり、会津と中通りの境界となっている貴重な山地です。このように地形そして風土的にも貴重な川桁山ですが、周囲に安達太良山、吾妻山そして磐梯山といった福島県の名峰が鎮座しているせいか、登山シーズンであっても訪れる人は比較的少なく静かな登山を満喫することが出来ます。ブナの新緑と紅葉の季節もすばらしい風景を見せてくれますが、葉が芽吹く残雪の早春そして冬枯れとなる初冬の風景もまた格別です。
 今回は、まだ残る紅葉と冬枯れの明るいブナ林の風景を楽しみに、内野にある長瀬小学校脇の別荘地からのルートを紹介します。

 2008年11月3日(文化の日・月)、前日は安達太良山の強風に晒され今年一番の寒さを痛感した。その寒さを癒すため、下山をした後サウナと熱燗で体の芯から暖を取ったことが影響をしたのに加え天気も予報どおりの「曇り」、結局予定をしていた時間には起きることが出来なかった。8時ごろ起きてスタート、気ぜわしく準備を整え川桁山を目指す。国道49号線を西へ、中山峠を越えると日差しはなく薄曇りとなる。この天気の変化に不安がる相棒、雨の中の登山が大嫌いな相棒のためにも一日天候がもってくれればと願いつつ、内野の長瀬小学校脇の別荘地奥の登山口へ。
 登山口となる「山の神様」付近の駐車スペースには車が1台、その脇に駐車そして準備を整え、10時13分にスタートする。このころから、天候も若干回復をして時折日差しがさすようになり、整然と植林されたカラマツ林の葉を落とした木々の中に弱い日差しが満遍なく降り注ぐ。林道は枯葉で敷き詰められており、カサカサと音を立てながら緩やかに高度を上げていく。気温は、7℃と昨日の安達太良山牛の背とほぼ同じだが、風がまったくないことから、体感気温的には暖かさを通り越して暑さを感じてくる。準備運動としてはほどよい歩きが続き頬を伝わる汗を感じる。整備された林道状態の道から傾斜も一段ときつくなり、歩き始めて35分で踏み跡をたどる登山道へ明瞭に変化をする。ここからは三十八転び坂と呼ばれるこのコース最大の急登となるが、様々なガイドブックを見ても坂の名称の由来についての記述を見つけることができなかったが、その名の通り転びやすい急な坂ということだろう。この斜面には、体を支える太い枝も少なく、大量に水分を含んだ表層土壌を枯葉が覆っており大変滑りやすい、そのため手足そして体全体をフルに駆使した登りが21分程続く。この斜面と真剣に格闘していた最中には、周りの風景を堪能する余裕がなかったが植生はブナ林に変化をしており、この時期まだ落葉せず色づく木々を所々に見ることが出来る。残り少ない紅葉の木々であったが、最盛期のすばらしい紅葉絶景を連想させるには十分だと思いながら、登り始めて56分で山頂から西に延びる1,192mの尾根に到達する。ここで小休止をしながら、右手眼下の猪苗代湖、木々の間から望まれる冠雪の磐梯山、そしてこの時期特有の雰囲気となっている山枯れる寸前の風景に見入る。この尾根出会いからようやく山頂が見渡せるようになるものの、まだまだ山頂は遠く結構きつい登りが続くため、みかんを頬張りながら足早に山頂を目指すことにする。小休止をした場所から17分ほど行くと、「リステル側林道分岐」と書かれた真新しい道標が立てられていた。「いつかこのルートも歩きたいね」と相棒と話をしながら、尾根伝いに2回ほどアップダウンを繰り返し、最後の急坂に差し掛かると、先に山頂を踏んで休みを終え下山をする4人の女性パーティとすれ違う。「三十八転び坂は注意して」と言葉を交わして、一気に登ると、南北に細長く開けた山頂に、1時間50分(休憩を含め)で辿り着く。誰もいない静かな山頂で熱々のうどんを食べながら360度の展望を楽しむ。下山は、登ってきた道を本当に転がるように。
(登り1時間50分,下り57分)




 


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