アルファウイングパイル工法の技術的特長について

1.はじめに


 「地盤材料(Geomaterials)」とは, 一般に土(粘土,砂,礫など)と岩(軟岩〜硬岩)をさすものであり, セメントや石灰による改良土なども含まれる。この地盤材料なる用語は比較的新しい用語である。これは,個々の設計において土と岩を同時に扱うことが多いためである。それまでは, 土質材料と岩石材料とに分けて議論していた。これは, 室内試験法, 原位置調査法および設計体系が異なっているためと考えられる。
 この両者を別々に扱うことは学問的にも, また, 実務においても不都合なことが多い。両者の境界は不連続ではなく, 連続していて曖昧である。しかし, 筆者がこれまで主に取り扱ってきた地盤材料は, いわゆる土質材料である。これは, 筆者が直面した地盤工学的問題が圧密沈下, すべり破壊,液状化などであったからである。
 地盤材料の強度定数つまり地盤材料の変形・強度特性(粘着力c, 内部摩擦角φ,変形係数Eなど)を求める場合には,せん断試験を行うことが一般的である。これは, 表-1に示すようにせん断試験法と各種条件および地盤材料の種類によって強度特性が異なるためである。つまり, 設計するための強度定数として一部指針等に掲載されている数値を用いたり,標準貫入試験のN値から経験式によって決定することは, 強度定数が地盤材料の状態(密度の大小, 排水条件, 拘束圧の大小, 圧密の状態等), 地盤材料の種類およびせん断試験の方法等によって固有の値とはならないため不合理である。
 したがって, N値が変形・強度特性を代表している指標となっている保証は無い。例えば, 図-1に示すような箇所にある地盤材料の要素(A,B,C)は, せん断される方向が異なるため, 得られる変形・強度特性も異なる。また, 潜在すべり面に沿ってピーク強度が同時に発揮される保証も無い 1)。
 また, 地盤材料は, 表-1に示した状態の他にダイレイタンシー, インターロッキング, 粒子形状, クリープ, セメンテーション, エイジングなどの地盤材料固有の性質も考慮する必要がある。
 さらに, 地盤材料は, 有効応力の原理に支配されていることも事実であるが, 実務的には地盤材料の材料力学的解釈による土の破壊基準として, 二次元応力状態のモールの応力円, クーロンの破壊基準, モール・クーロンの破壊基準などを用いている。今後は、各種解析手法の三次元化に伴い, 三次元応力状態での破壊基準も考慮する必要が生じてきている。
 ここでは, 筆者がこれまで実務的に行ってきた地盤材料のせん断試験についての若干の知見を示すものである。まず, はじめに, 地震時の飽和砂の液状化現象について液状化してゆく過程を追求した結果について示す。つぎに, 原位置の粘性土の非排水せん断時の変形強度特性の異方性について示す。また, これらのせん断試験を行うに際し, 作製した試験装置についても示す。


2.非排水繰返しせん断時の応力・ひずみ関係 3)

 地震時には,水平方向のせん断波(SH波)が卓越する。この時の水平地盤内の応力状態は, 単純せん断変形に近いと考えられ, これらの応力は交番する。この単純せん断変形を再現する試験として中空円筒型供試体を用いるねじりせん断試験を行った。
ねじりせん断試験における応力状態を図-2に示す。
 地震時の液状化強度特性を把握するためには,何回繰返し荷重を与えたら飽和砂の供試体が液状化するかを調べ「疲労曲線」を求める現象論的な繰返し非排水三軸試験(JGS 0541-2000)が行われる。
 しかし, 地震時の砂地盤の液状化現象を数値解析するためには, 液状化する過程での砂の詳細な応力〜ひずみ関係が必要である。このために, 試験装置を改良した。

  1. 三軸セル, 載荷装置を簡明にし, 精度が出るようにした 4)
  2. 三軸セル内で軸力とトルクを相互干渉が少なく精度よく測定できる小型ロードセルを谷ら5)の方法に基づいて制作した(図-3 6)、図-4 8))。
  3. 有効拘束圧=全拘束圧−間隙水圧を差圧計7)を用いて測定した。

 試験は, 豊浦砂を空中落下法で中空円筒供試体(高さ10cm, 外径10cm, 内径6cm)を作成し, 飽和させた後に, 水平地盤内と同様に異方圧密する。次に, 供試体を非排水(等体積)および高さ一定の状態にしてせん断ひずみγat=0.5%/minの定ひずみ速度で繰返しせん断を行った。このようにすると供試体の断面積は常に一定であり, 単純せん断変形状態とほぼ似た状態となる。
 図-5には, 有効応力経路(τat〜σa′)を示した。繰返し回数(τatの交番)の増加とともに軸方向有効応力(σa′)が減少していくことがわかり, 繰り返し回数10回目(図中の10M)で有効応力が0に近くなることがわかる。
 図-6にはせん断応力(τat)〜せん断ひずみ(γat)関係を示した。この関係は, 一般的な応力〜ひずみ曲線とは異なっており, せん断応力(τat)が小さい時にせん断ひずみ(γat)が進行する。このせん断ひずみが進行する時には, 図-5に示す軸方向有効応力(σa′)が小さくなった時であることが分かる。これは言うまでもなく「液状化」している状態である。
 この特異な形状の応力〜ひずみ曲線は複雑であり, 応力〜ひずみ関係の定式化(モデル化)には向いていない。

このため, せん断応力(τat)を軸方向有効拘束圧(σa′)で除した応力比(τata′)とせん断ひずみ(γat)の関係を見たものが図-7である。この図に示すように応力比〜せん断ひずみ関係は, なめらかな双曲線型の履歴曲線となっており, 単純な法則に従っていることが判明した。この関係は, 密づめ砂においても同様である。このことは, 応力〜ひずみ関係の定式化の基本となる。また, 応力比(τata′)〜せん断ひずみ(γat)の関係から見ると図-5に示す有効応力経路が繰返しせん断するごとにせん断応力(τat)のピーク状態で図-7に示す(τata′)の値が増加してゆくことがわかる。

3.原位置粘性土の非排水せん断時の変形強度特性の異方性 9)

 図-1に示す要素A,B,Cの強度は, 実際にどれほど異なるのかを検討するために, 東京湾の海底地盤から採取した乱れの少ない試料を用いて圧密非排水せん断試験を行った。土要素のせん断変形パターンとせん断試験方法を図-8に示す。まず, 要素Aのせん断強度を求めるために行ったせん断試験は、三軸圧縮試験であり, 要素Cにおいては, 三軸伸張試験を行った。試体寸法は, 乱れの少ないシンウォールサンプリング試料を用いたため, 直径5cm, 高さ10cmの円柱型であり, 原位置の異方応力状態で圧密したのちに軸ひずみ速度0.1%/minでせん断を行った。要素Bは, 単純せん断変形であることから非排水繰返しせん断の応力〜ひずみ関係で用いた中空円筒型供試体を用いたねじり単純せん断試験機を若干改良して行った。供試体寸法は, 外径7cm, 内径3cm, 高さ10cmとした。
 図-9にその供試体形状と定義したせん断ひずみを示した。このねじり単純せん断試験(TSS)は, 単純せん断時の応力・ひずみ条件を満足できること, 3主応力(σ'1、σ'2、σ'3)の大きさと方向が求まることである。圧密は, 三軸圧縮試験(TC), 三軸伸張試験(TE)と同様に原位置の異方応力状態で行ったのちにせん断ひずみ速度0.15%/minで非排水せん断を行った。
 図-10には, 要素A,B,Cに対応する非排水せん断強度の深度分布を示した。この図によると, 要素A,B, Cの順序で非排水せん断強度が大きいことがわかる。
 図-11には, 要素A, B, Cの「非排水せん断強度τmax=(σ'1-σ'3)/2を原位置の有効上載圧σ'v0で除した値」と「有効主応力σ'1方向が水平方向となす角度δ」の関係を示した。この図によっても非排水せん断強度が要素A, B, Cの順で大きいことがわかる。
 これらのことは, 「非排水せん断強度の異方性」を示すものであり, ダム基礎地盤の乱れの少ないブロックサンプリング試料を用いて切り出し角度を変えて行った三軸圧縮試験結果においても確認できる(図-12)。






4.あとがき

 一見複雑に見える地震時の砂質地盤材料の応力・ひずみ関係でも応力比(τata′)とせん断ひずみ(γat)により双曲線関係が導かれることがわかった。
 一方, 同一深度における地盤材料のせん断強度は,強度の異方性を持っていることが分かった。このことは, 地盤材料の強度定数を求めるためには, 現場の状況に応じてせん断試験方法を吟味して使い分けていく必要があることを示すものである。
 本稿に使用した試験結果については, 龍岡文夫先生(前(社)地盤工学会会長, 東京理科大教授)のご指導の下, 龍岡先生が以前在席されていた東京大学生産技術研究所において行ったものである。
 改めて謝意を表します。

<参考文献>
  1. 龍岡文夫, 菊池善昭:基礎の設計−やさしい基礎知識−第1回, 基礎工, 2002年1月号, pp.84〜87, 2002.
  2. 龍岡文夫, 菊池善昭:基礎の設計−やさしい基礎知識−第11回, 基礎工, 2002年12月号, pp.83〜86, 2002.
  3. 龍岡文夫, 原勝重, プラダン テージ, B.S.:飽和砂の非排水繰返し単純せん断時の応力・ひずみ関係, 生産研究, 第38巻, 9号, pp.28〜31, 1986.
  4. 龍岡文夫, 佐藤剛司, 村松正重, 山田真一, 原勝重:土質せん断試験機の設計と製作-応力・荷重の制御と測定2-, 地質と調査, 1983,4.
  5. Tani,Y.,Hatanaka,Y.and Nagao,T., ”Development of small three component dynamometer for cutting force measurement,”Bulletin of Japanese Society of Mech.Eng., Vol.26, No.214,April,pp.650〜658,1983.
  6. Tatsuoka,F.,Sonoda,S.,Hara,K.,Fukushima,S.and Pradhan T.B.S.,”Failure and deformation of sand in torsionalshear,”SoilsandFoundations,Vol.26,No.4,1986.
  7. 龍岡文夫, 大河内保彦:土質せん断試験機の設計と製作-応力・荷重の制御と測定4-, 地質と調査, 1984,2.
  8. 龍岡文夫, 原勝重, 山田真一:土質せん断試験機の設計と製作-応力・荷重の制御と測定6-,地質と調査, 1984,4.
  9. Tatsuoka,F.and Hara,K.:Undrained shear strength of clay by torsional shear test, Proc.of the 8th Asian Regional Conf. on SMFE,Vol.8,No.1,pp.109〜112,1987.
  10. 梅村順, 森芳信, 原勝重:現地発生礫質土への一面せん断試験の適用, 直接型せん断試験の方法と適用に関するシンポジウム,(社)土質工学会,pp.233〜238,1995.

 



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