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地盤工学古書独白 第25回 戦後期(1946〜1960年)編(その13) |
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土質調査と土質試験の初の専門書 土質調査と土質試験を抱き合わせに、地盤調査が急速に発展したのは、わが国が、戦後ようやく高度成長に突入した背景がある。このため、わが国は欧米諸国の地盤調査に関する技術の多くを導入した。 土質試験方法については、Lambeの「Soil Testing for Engineers」(Jon Wiley, 1951)をバイブルにして実務を実施していた時代である。著者もこの本を参考出版物の一つに上げている。その意味では、わが国における初の「土質調査と土質試験」の単行本としての専門書であると評価されるべき著書だと思う。 著書の構成と内容 この本の構成は、本の題名どおり大きく二つに分かれる。第1は「土質調査」であり、第2は「土質試験」である。 著者は高校生を含む学生たちにも分るようにやさしく解説しようとした意図があって、大変懇切丁寧である。それでいて、当時の新しい問題について、研究成果を大胆に取り入れて記述されている。当時、われわれが「不撹乱試料」を採取するとき、最大の悩みはどうしたら「土を乱すことなく採取できるか」であった。この問題に因んで、おそらくHvorslevらの精力的な研究成果を土台にしたものであろうが、乱れの原因と対策について詳細に記述されている。土を採取するときの乱れの原因については、ボーリング作業による乱れ、サンプラーの構造および操作による乱れを上げ、サンプラーの設計、押し込み速度、採取した土の取り扱いの注意に至るまで、詳細に述べられている。 土質試験の中では、「現場透水試験」について1項目を設け、3ページ半程度であるが、揚水試験方法、オーガー法などについて、紹介している点も先進的である。 思い出を重ねて 著書に、福岡正巳氏が「土と基礎」(Vol,2.No.6,1954)に掲載した「スウエーデン土質力学研究所」の記事で紹介した「フォイルサンプラー(Foil Sampler)」を取り上げている。こうしたトピックスをいち早く取り入れる著者の意欲に感銘する。確か、この本が出版された5月に「土木研究所」でフォイルサンプラーの実施現場の見学会に参加したことを思い出し、懐かしくも思う。 土質試験では、「三軸圧縮試験」について多くの紙面を費やして記述している。昭和32年春、深田地質研究所に就職して土質試験室を設計するに当たって、著者が助教授だった東大の「土質試験室」にある三軸圧縮試験機を見学させてもらったことがある。これを一つのヒントにして、独自の三軸圧縮試験機を試作した思い出がある。
標準土木工学講座の1冊
土木界に大きな影響をもたらした1冊 地質学や物理探査法が土木構造物の設計、施工に大きな役割を果たす技術であるとことを知りつつも、その技術を取り入れることに躊躇するか、全く無関心、無知であるために、思わぬ大事故に遭遇する苦い経験を重ねてきた。なかなか土木と地質、物理探査の境界を埋め尽くすことに必ずしも成功していた時期ではなかった。 こういう時期に、414ページの「物理探鉱」なる本が出版された。この本は、物理探鉱技術協会が昭和23年5月に創立して以来、毎年4回出版してきた機関紙の、第11巻 第4号(通し番号38)として発行された「協会10周年特別号」である。 この本が、地盤を扱う技術者にどれだけ多く普及したかは、知ることはできないが、地盤工学の一技術者の私にとっては、画期的な本であった。 本の価値 本は「基礎技術編」と、「応用編」に分けて編集されている。 基礎技術編は、I 地震探鉱、II 重力探鉱、III 電気探鉱、IV 磁気探鉱、V 放射能探鉱、VI 地温探鉱から成る。「探査」ではなく「探鉱」といわれていたことからも、これらの探査技術は「地下資源」を探査する方法として生成発展した技術であることが容易に想像できる。 これらの事情は、応用編の構成、VII 石油の探鉱、VIII 石炭の探鉱、IX 鉱山の探鉱からも分る。そして、X 土木の探査、XI 地下水の探査、XII 地熱・温泉の探査と続く。 土木、地下水、地熱・温泉に対する応用では、明確に「探査」という用語を使用して明確に区別している。この分野の記述は、全414ページのうち、たった26ページに過ぎないが、物理探鉱協会の機関紙に土木や地盤工学に関わる技術として紹介されたこと自体、画期的な出来事であるというのは、過大評価であろうか。この本の価値はここにあるといえる。 今でも光を失わない基礎技術編 基礎技術編は、一章ごとに単行本に匹敵する重厚な内容を持っている。特に、各「探査法」の原理を理解するには、立派な教科書である。これが今から50年前に書かれていた事実にはただ驚きを感じるだけである。
著者のこと 著者の天埜良吉氏については、本の表紙に「工学博士、元港湾局長」と記されているだけで、略歴すら紹介されていない。記憶違いかも知れないが、確か国会議員になられた人だと思う。これ以上のことは、私には分らない。 著書について この本は、B5版のやや大型な装丁であるが、101ページという極めて少ないページ数である。こういう形で学位請求論文を出版される例が多くあったが、この本はこの類に該当するかどうか認知していない。 本の特徴を一つだけ挙げるならば、大型の岸壁の構築が次第に多くなったことと、土質工学が急激に発展した時代的な背景を背負いながら、岸壁の安定設計の理念を確立しようとした意図が色濃くにじませている点である。 このことは、「緒言」によっても明らかである。「重力式、矢板式、桟橋式の区別は、むしろ、材料および施工方法などに主眼をおいた構造的問題として処理され、その岸壁が全体的に安全を成立しうるか否かの問題は、地盤上の安定問題に帰着されるという見方が可能になった。以上のような態度を主眼として、新しい設計の理念を体系的に取りまとめたのが本書である。」 本の構成は、第1章 岸壁に働く地震力、第2章 岸壁の耐震設計の基本条件の解説、第3章 岸壁の耐震設計法、の3章からなっている。
著者の略歴 本の裏書に簡単に紹介されている著者の略歴は、次のとおりである。 昭和 7年 東京帝国大学工学部航空学科卒 昭和 7年 海軍航空技術廠勤務 昭和18年 東京帝国大学助教授 昭和34年現在 清水建設株式会社研究部 本の「はしがき」に、ユニークな表現で当時の基礎振動問題の事情を的確に書いている。 「機械の据付工事は一つの盲点であり、振動問題が起きた場合、機械製造者は、動かざる基礎を要求し、基礎の設計者は機械を非難するという状態が続いていた。動かざる基礎はありえないが、実用上動かざる基礎を設計するための「考え方の基礎」が確立されていなかったのである。」「しかし、この面は全然置き忘れられていたわけではなく、一見機械の据付とは縁のなさそうに見える航空工業方面で振動絶縁の方法は研究が進みつつあったのである。戦後、1950年ころから、当時流行の停電と共に問題の中心であったデイーゼル発電機の振動絶縁の解決から初めて、ようやく1956年の頃にはほぼ振動を発する機械の基礎の設計技術が体系化されるに至った。・・振動を発する基礎に関する参考書が、わずかにアメリカのC.E.Crede氏が比較的まとまった著述をした以外に絶無であったのはこのような事情による。」 振動に無知な私ですら興味を持つ内容 まず、順序として目次構成から紹介する。第1章 振動障害、第2章 防振の一般理論、基礎の設計法、第4章 基礎の設計例の組み立てで全162ページの本である。 著者は、実務経験の豊富な方のようで、実際に困った振動障害の事例を多く示して、解説している。そして最小限度必要とする振動に関する「理論」を解説して、基礎の設計方法を述べる。最後に、基礎の設計事例について数値計算を示しながら説明する。入門書としての優れたパタンであると、共感するものである。 もし、地盤工学の入門書を書く場合には、多くの点で学ぶ必要があると、感じいった次第である。 ---以下次号へ--- ※ ●生年月日/昭和9年9月24日 ●現在/・アートスペース工学株式会社代表取締役 ・NPO法人建築ネットワークセンター理事長 ・首都圏基礎対策事業協同組合理事長 ・工学博士 【略歴】
平成22年5月、小松田精吉さんが地盤工学とそれに関した建設事業の発展に特に功労・功績が顕著であったとして地盤工学会の名誉会員となられました。
略歴とあわせて皆様にお知らせいたします。 おめでとうございます。 |
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