福島県の湧水シリーズ |
谷藤允彦※
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岩瀬郡天栄村は、阿武隈川水系と阿賀野川水系という2つの大河の流域にまたがって東西に細長い村域を持っている。奥羽山脈の鳳坂峠を境に、東側に降った雨は、釈迦堂川から阿武隈川に合流し太平洋に流れ下る。西側の雨水は鶴沼川に流れ込み、阿賀川、阿賀野川を経て日本海に到達する。
太平洋に流れる水系と日本海に流れる水系の両方にまたがる行政区域を持つ市町村は珍しい。東北地方では、天栄村の他には、太平洋に流れる馬渕川と日本海に流れる米代川にまたがる、岩手県八幡平市しかないのではなかろうか。 天栄村のほぼ中央に、後藤の清水と呼ばれる湧水があり、福島県中通南部ではおいしい湧水として知られている。 (後藤の清水については本誌第23号-1998年9月-に簡単に取り上げている)
1.後藤の清水への案内
2.湧水の状況
後藤の清水は、谷底の平坦地より5m程度上がった崖の中段から湧出している。湧出口は直径30cmほどの広葉樹の根元にあり、1箇所から毎分40〜50L程度の水量が湧き出している。湧き出した水は、70度ほどの勾配の崖の表面を浅く削りこみながら3m流れくだり、崖下に設けられた受水桝に落下している。受水桝は崖の凝灰岩と一体のものであり、水の落下地点を中心に直径30cm、深さ10cmほどが人工的に削られて桝になっている。水はこの受水桝から竹製のパイプを伝って水汲み場に誘導されている。
3.湧出機構
4.水質
溶存イオン量は非常に少ないが、その中では炭酸水素イオン濃度が相対的に高いことが特徴である。汚染指標である硝酸・亜硝酸イオンも少ないので非常にきれいな水ということが出来よう。トリリニアダイアグラムでは、循環性地下水を示すIの領域にプロットされるが、停滞性地下水を示すIIの領域の境界に近い。循環型の地下水ではあっても、裂罅型の地下水に比べると流動速度の遅い地下水であることを示唆する。非熔結凝灰岩の中をゆっくり浸透しながら流動しているものであろう。
5.湧水を守る努力
後藤の清水を守るように、傍らに東藤不動尊の祠が設置されている。白河層の主体をなす石英安山岩質熔結凝灰岩を加工したものであり、木造のお堂とも、平成11年に近隣に住む大工さんが寄贈したものであることが記されている。
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