シリーズ

第15回 私の山紀行
『晩秋の五色沼(吾妻山)』

代表取締役社長 佐藤 正基
(RCCM 土質及び基礎)

 福島市内から眺望する吾妻連邦の最東部には、早春のころになると山肌の残雪がウサギのように見える吾妻小富士(1,705m)を見ることが出来る。吾妻山をこの吾妻小富士を中心として想像すると、尾根伝いに南に位置する安達太良山と比べて似たような風格をもつ峰々だが、吾妻連峰の山域は福島県北西部から山形県南西部にかけて、東西20km,南北10kmと広大で穏やかに連なる火山活動によって形成された山々である。福島市側から見ると、吾妻小富士の奥に東吾妻山(1,975m),北側に一切経山(1,949m)を見渡すことが出来るが、その他2,000m級の峰々そして最高峰の西吾妻山(2,035m)を直接望むことはできない。深田久弥著「日本百名山」にも「一口に吾妻山と呼んでも、これほど茫漠としてつかみどころのない山もあるまい。福島と山形にまたがる大きな山群で、人はよく吾妻山に行ってきたというが、それは大ていこの山群の一部に過ぎない。」と綴られている。私も何度も何度もこの山域に行き、春夏秋冬を問わず風景を堪能してるが、いまだに全ての登山道は走破できていない。地形図上に自分が歩いた登山道を塗りつぶして眺めているものの、まだまだ時間がかかることに、ある楽しみを覚えながら、いつの日かきっと完全走破をすることを夢に見ている。吾妻山には様々なルートがあるものの、今回は不動沢から家形山を目指す静かなルートを紹介しよう。


★2011年10月16日(日)雨のち晴れ
 朝早くから行動することが、健全な登山であり、行動範囲が格段に広がることにつながる。時間の余裕しいては心のゆとりにつながり、素晴らしい山歩きが出来るということが十分にわかっていても、なかなか早起きすることが出来ない。いつもそんな自分に腹が立ち、行き場のない苛立ちが、相棒に対する苦言となってしまう。福島県では、震災の復興のために、観光客の誘致を目的として、有料道路の無料開放を行っていた。本日は、その恩恵を受けようと、不動沢登山口から家形山を目指すことに。この年の10月は、休日になると小雨という天気が続いていたため、入念に天気予報をチェック。予報では、午前中は雨が降りやすいが昼過ぎには北部から陽射しが戻るという天気概況であった。スカイラインの土湯側ゲートに着くころには、青空となり陽射しが車窓を通して暖かく感じられるが、木々が猛烈な勢いでなびいていることからも、相当風が強いことがわかる。登山口となる不動沢駐車場は、紅葉の名所である、つばくろの谷(吾妻八景)にある。そのため、観光客が多く訪れ、なかなか駐車をすることが出来ず、あらためて今回も早起きすることができなかった自分に腹が立ってしまう。待つこと10分ほどで駐車し、早々と準備をして北側登山口から10時14分にスタート。以前3度、高湯ゲート近くの登山口からこの道を歩いているが不動沢駐車場を起点とするのは、今回が初めてとなる。

空の下、ジェット気流のような強い風の音はするが、森の木々に囲まれた登山道は冷たい風をさえぎってくれる。10分程なだらかな粘土質ロームの滑りやすい道を行くと、高湯ゲートスタートであれば最初の小休止の場所となる登山道を塞ぐような大岩が出現する。前回のデータを参考にすると約1時間歩いて小休止をしていたことから、時間的に50分ほど短縮できたことになる。道はさらに緩やかに登り、周囲の紅葉も白い白樺の木々と混じり合い見事な色合いを放っている。やや抉れた粘土質の道は、連日の雨で沢状と化し大変に歩きにくい。なるべく滑らないように点在する石の上を大股で渡りながらの登山となる。賽ノ河原を過ぎると、さらに道は平坦となり散策をしているような感覚で、登山としては少し物足りなさを感じるがこれもまたよし。

山鳥山、湯ノ平を過ぎ、足場パイプで出来た簡易の橋を渡ると、枝沢の流れがある井戸溝に着く。このあたりの雑木林は見事に赤黄七色、十色に彩られている。その先も抉れて滑りやすい粘土質の道が続き、少しでも周辺の木々の紅葉に目を奪われ体の軸が傾くと転倒してしまう。本日は、この軟らかく水分を多量に含んだ粘土質ロームに、3回ほど足を取られ、ズボンもザックも泥だらけになってしまった。そんな姿を見て相棒は呆れ顔。若干登りが急となり大きな石がごろごろしてくると、1時間16分で慶応吾妻山荘入り口に出会う。ここからは正面に家形山から東に続く尾根を見ながらの本格的な登りとなる。右に家山形避難小屋への分岐を見送り、さらに登っていくと大根森と呼ばれるガレ場につく。このガレ場は大変に展望がよく南に家形山が大きく迫っている。展望が良い分風の通りもよく、いつの間にかものすごい風となり、体感気温も一気に低下をして寒さが増してくる。万が一と考え用意してきた厚手の帽子と防寒着そして手袋を着用して、南側の最後の急斜面を登りきると1時間50分で五色沼の縁となる尾根の大石にたどり着く。相棒と強風から身を守るように体制を整え、その場にしっかり手足を踏ん張り固定しつつ景色を堪能することに、魔女の瞳(五色沼の俗称)は本日は機嫌が良くコバルトブルーの湖面を見せてくれる。それにしても一切経山から吹き付ける強風には、一瞬でも気を抜けば体が飛ばされそうな感覚となる。

本来であれば、家形山の山頂を目指すところであるが、このままでは完全に体は冷えてしまう、身の危険を感じるほどの強風に山頂を諦め、魔女の瞳が見渡せる尾根を約7分で撤退をして風が凌げる樹林帯まで下山、そして大休止とする。冷え切った体を温かいうどんとコーヒーでゆっくり温め、30分ほどで下山。登りのコースでは誰とも出会わなかったが、慶応吾妻山荘分岐にて10数名の老若男女のパーティーに出会う、やはり山頂付近が強風のため早めに下山をして山荘でコーヒーを飲み談笑をしていたとか。挨拶をして一気に抜き去るものの、下山も慎重に周辺の紅葉を堪能しながら不動沢駐車場へ。
(登り1時間50分,下り1時間34分)




※新協地水(株) 代表取締役

 


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