1.地震による地盤の破壊と建物被害
付図に示すように、敷地にほぼ南北方向に3列の大きな亀裂が生じ、最大開口幅30cm、落差30cmに達した。敷地に生じた亀裂は2棟の住宅を横断する形で延びている。亀裂の幅・段差とも北側の住宅(A棟)の方が南側の住宅(B棟)よりも大きかった。 A棟…木造2階建て、建坪100m²、床面積150m²、瓦葺屋根、平成14年建築 B棟…木造平屋、建坪50m²昭和59年建築、長尺鉄板葺
2.地盤破壊の状況
下図1及び2に示すように、地震による激しい振動で、盛土の中でせん断破壊が生じ、地盤が前面に移動して亀裂が生じ沈下したものと考えられる。亀裂は大きなものが3列、小さな割れ目をあわせると6〜7列生じた。沈下量はA棟側が最大60cmで、B棟では30cmであった。
![]() ![]()
3.対照的な被害を生み出した要因
地盤の破壊状況は、B棟の側で小さくA棟の側の方が大きいが、建物自体の被害は、A棟は軽微で、B棟の方は全壊であった。建築後の年数、建物の大きさ、使用した建材など、大きく異なっているので、単純に比較することは出来ないが、被害の差を生み出した最大の要因は、基礎構造の違いにあることは明らかである。B棟は地盤上に直接連続基礎が乗っているのに対し、A棟は鋼管グイの上にベタ基礎が乗っている。
このことは、杭先端が移動しない安定地盤に十分根入れされていたこと、鋼管の強度が、すべり面に働いたせん断力に耐えられたことを示している。
4.耐震効果を考慮した鋼管グイの活用
従来鋼管杭は直接基礎や柱状改良、コンクリート杭に比べると、格段の耐震効果を持つといわれていたが、ここに報告した事例はこのことを証明した例ということが出来る。直接基礎は、地盤が割れ沈下すると、破断したり傾いたりして建物が大きく損なわれてしまう。柱状改良やコンクリート杭は、横方向から働く力に抵抗する力が弱いため、地盤の土が動くと途中で折れてしまい、建物荷重を支えることが出来ない。これらに比べると、鋼管杭は材料の強度が大きいので、地盤が沈下しても多少土が動いても、杭自体が沈下したり折れたりしにくい。
(1)安定した地盤の中に十分根入れされていること。地山に到達しているだけでは不十分であり、移動する可能性のある土の厚さと同程度の根入れ新を確保する必要がある。
(2)盛土地盤では、鋼管杭の径・材質は、建物荷重を支えられるという条件のほかに、せん断力に耐えられる径・肉厚を考慮する必要がある。 (3)耐震性を考慮して基礎に鋼管杭を使用する場合は、事前に確りした地盤調査を実施し、地層状況を把握することが条件になる。スェーデン式サゥンディングなど、簡便な調査では不十分であることを指摘しなければならない。 東日本大震災では、盛土地盤の多くで地盤の破壊や移動・沈下が生じ、住宅の損壊が多数発生している。住宅用小口径鋼管杭を採用していれば、被害を最小限にとどめられた例は相当数に上ったのではないかと推測している。 |
[前ページへ] | [次ページへ] |