東日本大震災現場からの報告〜小口径鋼管杭の耐震効果




1.地震による地盤の破壊と建物被害

 付図に示すように、敷地にほぼ南北方向に3列の大きな亀裂が生じ、最大開口幅30cm、落差30cmに達した。敷地に生じた亀裂は2棟の住宅を横断する形で延びている。亀裂の幅・段差とも北側の住宅(A棟)の方が南側の住宅(B棟)よりも大きかった。
 敷地の東側は土手になっており、高さ1.5mの擁壁の上に1.8割の法勾配で高さ5mの盛土が成されている。擁壁はわずかに倒れ、数cm前面に移動しているが大きな変形はなく、その上の盛土部分に孕み出しが生じていた。
 敷地の地盤は、東側ほど大きく沈下し、沈下量は最大60cmに達していた。また、敷地と土手の境界に設置されていたU字溝は、50cmほど前面に押し出されていた。

A棟…木造2階建て、建坪100m²、床面積150m²、瓦葺屋根、平成14年建築
基礎…鋼管杭(φ139.8mm*8.15m)32本
建物の被害…基礎、外壁、屋根に異常なし、建物の傾きはほとんど無し、内装の一部に軽度のひび割れ、建具と柱の間にわずかな隙間、外溝は南及び東の犬走りが大きく傾き、北及び東のU字溝は破断、移動、変形を生じた。基礎の下の地盤は西側で10〜20cm、東側で50〜60cm沈下し、床下に大きな空洞を生じた。

B棟…木造平屋、建坪50m²昭和59年建築、長尺鉄板葺
基礎…割栗石の上に幅400mmの連続基礎
建物の被害…基礎が4箇所で大きく破断、最大開口幅100mm、他に数箇所の破断がある。サイディング外壁は北側の基礎の破断箇所近傍の2箇所で幅50mm程度開口、床面も2箇所で開口し食い違いを生じた。西側の外壁は5度東側に、東側の外壁は2度東側に倒れる。住宅は全体にひし形にひしゃげ、畳と敷居の間に三角の隙間、畳の縁同士の食い違いが生じた。


2.地盤破壊の状況

 下図1及び2に示すように、地震による激しい振動で、盛土の中でせん断破壊が生じ、地盤が前面に移動して亀裂が生じ沈下したものと考えられる。亀裂は大きなものが3列、小さな割れ目をあわせると6〜7列生じた。沈下量はA棟側が最大60cmで、B棟では30cmであった。





3.対照的な被害を生み出した要因

 地盤の破壊状況は、B棟の側で小さくA棟の側の方が大きいが、建物自体の被害は、A棟は軽微で、B棟の方は全壊であった。建築後の年数、建物の大きさ、使用した建材など、大きく異なっているので、単純に比較することは出来ないが、被害の差を生み出した最大の要因は、基礎構造の違いにあることは明らかである。B棟は地盤上に直接連続基礎が乗っているのに対し、A棟は鋼管グイの上にベタ基礎が乗っている。
 基礎の状態を見ると、B棟では、地盤が割れて開口し片側が沈下しているところで基礎コンクリートが割れていて、開口幅が大きいと外壁や床材まで割れて開口している。また、東側がより大きく沈下しているため、建物は東側に傾いている。
 これに対してA棟では、地盤が移動沈下しても杭が沈下しなかったため、建物は水平を保ち、基礎には全く亀裂を生じなかった。基礎底面と地盤表面の間に20cm〜60cmの空洞が生じ、建物は少し東側に移動したが、地盤の土の移動量に比べてわずかなものである。

 このことは、杭先端が移動しない安定地盤に十分根入れされていたこと、鋼管の強度が、すべり面に働いたせん断力に耐えられたことを示している。
 地震による土の移動は、大部分上部3〜4mの間に発生しており、それ以下の土はほとんど移動していないと考えられる。一方、施工記録によれば、鋼管グイの先端はGL−8.15mまで打ち込まれている。

4.耐震効果を考慮した鋼管グイの活用

 従来鋼管杭は直接基礎や柱状改良、コンクリート杭に比べると、格段の耐震効果を持つといわれていたが、ここに報告した事例はこのことを証明した例ということが出来る。直接基礎は、地盤が割れ沈下すると、破断したり傾いたりして建物が大きく損なわれてしまう。柱状改良やコンクリート杭は、横方向から働く力に抵抗する力が弱いため、地盤の土が動くと途中で折れてしまい、建物荷重を支えることが出来ない。これらに比べると、鋼管杭は材料の強度が大きいので、地盤が沈下しても多少土が動いても、杭自体が沈下したり折れたりしにくい。
 しかし、鋼管杭であれば、どんな条件でも耐震に効果的であることを示すものではない。この事例から、盛土地盤の移動・沈下に耐えられるためには次のような条件が必要であると見ることができる。

(1)安定した地盤の中に十分根入れされていること。地山に到達しているだけでは不十分であり、移動する可能性のある土の厚さと同程度の根入れ新を確保する必要がある。
(2)盛土地盤では、鋼管杭の径・材質は、建物荷重を支えられるという条件のほかに、せん断力に耐えられる径・肉厚を考慮する必要がある。
(3)耐震性を考慮して基礎に鋼管杭を使用する場合は、事前に確りした地盤調査を実施し、地層状況を把握することが条件になる。スェーデン式サゥンディングなど、簡便な調査では不十分であることを指摘しなければならない。

 東日本大震災では、盛土地盤の多くで地盤の破壊や移動・沈下が生じ、住宅の損壊が多数発生している。住宅用小口径鋼管杭を採用していれば、被害を最小限にとどめられた例は相当数に上ったのではないかと推測している。
また、地盤の液状化による被害も多く報告されている。住宅用小口径鋼管杭は大部分が先端閉塞型で、回転しながら押込む過程で、杭周辺の土を締め固める効果を伴っている。液状化は緩い砂地盤で生じやすいが、鋼管杭の設置は砂地盤を締め固めるので、液状化に対する抵抗力を強化する働きも期待することが出来る。
 地震による盛土崩壊や液状化などの地盤変状に対して、住宅用小口径鋼管杭は大きな効果を持っており、耐震を考慮した住宅建設への活用が今後飛躍的に広がると思われる。



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