ボリビア便り第2号 「真夏のサンタさん」



 会津盆地の東縁地区には、自然湧出している東山温泉を始めいくつかの温泉深井戸により「温泉」が利用されています。この地区の「温泉」は火山活動に伴う地熱帯から供給されたものではなく、地下深部に貯留された温水溜りから汲み出されているものでもありません。この付近の「温泉」はいずれも岩盤の割れ目から湧出する、裂罅(れっか:裂けてできた隙間、裂け目、割れ目。)型温泉であることが共通しています。
 「温泉」とは、地中から湯が湧き出す現象や湯となっている状態、またはその場所を示す言葉ですが、温泉法及び環境省鉱泉分析法指針等によれば、温泉法第2条で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものとされ、別表には、温泉源から採取されるときの温度が25℃以上、または、別表に掲げられている物質のうち、1つ以上物質が存在すると「温泉」であると定義されています。

会津盆地東縁断層帯
 会津盆地の東端に沿って南北に伸びる断層で、北は北塩原村付近から喜多方市、磐梯町、会津若松市一箕町付近、会津若松市大戸町付近を経て下郷町に至る長さ49kmの断層帯です。ほぼ南北方向に延びており、断層の東側が西側に対して相対的に隆起する逆断層になります。政府の地震調査委員会では、会津盆地東縁断層帯でマグニチュード7.7の地震が30年以内に発生する確率をほぼ0〜0.02%とする長期評価を公表しました。直近の活動は3,000年〜2,600年前で、平均活動間隔は6,300〜9,300年としています。断層帯が全体に動くとM7.7の地震が起き、猪苗代湖周辺や会津盆地などで震度6強以上になり、最大で地表に3m程度の段差ができると予測しています。


「温泉」は、大きく分けて次のように分けることができます。

1.火山性温泉
火山地帯のマグマに熱せられた地下水が地表に出て温泉となります。
2.非火山性温泉
(1)深層地下水型温泉
 地熱で温められた地下水が地表に出て温泉となります。
(2)化石海水型温泉
 地殻変動などにより海水が地下に閉じ込められて地熱により温められ地表に出て温泉となります。
(3)その他
 温度が25℃以下でも規定以上の成分を含めば温泉となります。

 都市部にある日帰り型の温泉施設のほとんどが(1)の深層地下水型温泉です。地下内部の温度は、地域ごとにおおまかな地中の温度分布が調べられており、平均して100m深くなるごとに2.5℃〜3.5℃上昇するとされ、地下に深く掘り進めることで温かい地下水が期待できます。この点、東北地方はグリーンタフ地域と呼ばれる、奥羽山脈以西の広範な地域で地下増温率(深度100m当りの地温の上昇率。)が高いことが知られており、場所によって多少の差はありますが、平均的に100m深くなるごとに3.0℃〜3.5℃程度上昇するとされます。今回の温泉開発では、掘削計画が1,500mまでですので、地表の温度が0℃でも単純に約45℃〜52.5℃の地下水が出る計算になり、温泉法でいう25℃以上をクリアし「温泉」となります。しかし、計画通りに地下深くに水脈を見つけることはとても難しく、また、温泉掘削には多額の費用がかかるため、温泉源をできるだけ正確に見極める調査が大切になります。

1.地下探査

 松長団地地区で裂罅型温泉を開発するために、深度に流動する地下水の流路となる開口した岩盤の割れ目(亀裂帯や破砕帯)が形成されている地点を物理的な地下探査法により推測します。これまでの研究成果や文献を基に、本地域の地下地質の構成は、上部は磐梯山の火山活動に伴う岩屑崩堆積物、中間には湯野上温泉付近を噴出源とする火砕流堆積物(背あぶり山層)、下部には海底火山噴出物からなる火山砕屑岩類(東尾俣層)で構成されていると考えられます。このうち、東尾俣層の中に形成されている開口した岩盤の割れ目が有望な温泉源と思われます。平成15年にCSAMT法電磁探査を実施した結果においては、掘削地点付近に東西に伸びる断層帯の存在が確認されています。この断層帯の中に、開口した岩盤の割れ目が形成されている可能性があり、また、深度1,500m付近には、それ以下には水が浸透しない基盤岩があると推定されました。
 ※CSAMT法:電磁探査とは、波数領域の電波を用いた電磁法探査で、電場と磁場の強度を測定して、地下深部の比抵抗分布を知ることにより、地盤の構造や地下水の状況等を推定する探査法で、電気探査(比抵抗法)と同様ですが、より深部まで探査することができ、また電線を布設する必要がないため作業効率に優れます。
 CSAMT法電磁探査により存在が推定された断層帯は、東側が隆起し西側が沈降する逆断層と考えられ、東側の古い地層が西側の新しい地層の上に乗り上げる形の断層であり、断層面は垂直から東側に傾いていると推定されます。
 掘削中にも300m〜400m掘り進んだ段階で、2極法による孔内電気検層を行い、乗率によって1,500mまでの地下状況を調査し推定します。基本的には、調査により地層構成は概ねわかりますが、断層の中心位置の精度や、断層の傾き、破砕されている範囲が明確ではないことなど不確定要素を排除できず、掘削位置が破砕帯の中心部に近すぎたり破砕帯の傾斜角が想定よりも小さかったりした場合に、地温が十分な温度になる前に地下水の流動する範囲を突き抜けてしまう危険があり、また、破砕帯の岩盤割れ目が粘土化作用により密着され開口していない可能性があるため、最終的に精確な温泉源は掘ってみなければわからなく、掘削人の経験と勘に頼らなければならないのが現実のようです。

2.本堀り

 掘削地点が決まると、その地点に櫓を建て掘削を開始します。掘削工法には、ロータリー式工法(ビットでの回転掘削)、パーカッション式工法(円柱ビットの打撃掘削)、ダウンザホールハンマ式工法(ハンマビットでの打撃掘削)、回転高振動式工法(ビットでの回転・振動掘削)などがあります。それぞれの工法が、掘削すべき地層への適応性、井戸の口径と深度、掘削地点の立地条件、環境衛生上の問題点、作業工程と経済性などの諸点において長所と短所が存在します。
 今回の温泉開発では、温度45℃、毎分100Lと設定し、設置する温泉井戸管(ケーシング管)の太さは深度500mまでがφ200mm、1,000mまでがφ150mmとし、1,000m〜1,500mまでには、取水のためφ100mmのスクリーン管を埋設する等々の仕様として、ロータリー式工法による掘削が採用されました。
 ロータリー式工法は、先端にビット(ドリル)を接続したロット(掘管)を回転させてビットで地層を破砕しながら、ロット内にポンプで送り込んだ泥水をビットから噴出させて、ビットを洗浄しながら連続的に掘削くずを地上に搬出する工法です。掘削径(ビットの大きさ)は段階に応じてφ311mm〜φ143mmで掘り進みます。
 水の比重1.0より重い1.8程度に調整された泥水によって、掘削くずのみを地上に上げることができ、また、ビット刃先の冷却とともに、掘り進んだ縦穴の壁面にマッドケーキと呼ばれる薄い丈夫な泥壁を造ります。泥壁には、縦穴壁面の崩壊、逸水、湧水を防止する役割があります。送りこんだ泥水は地上にあがりマッドスクリーン(ふるい)により掘削くずだけが取り除かれ、縦穴へ再循環されます。
 掘削中、帯水層にあたると泥水が引き込まれ(逸水)、泥水がなかなか戻らなくなります。そこで地下水の存在を確認することができます。

3.温泉仕上げ

 掘削の完了後、孔内電気検層の結果と本堀りの結果を基に、温泉井戸管(ケーシング)を埋設していきます。ケーシングのうち帯水層にあたる部分にはスクリーンと呼ばれる、地下水を取水するための孔やスリットが配置された管を埋設します。
 その後、温泉井戸内部の洗浄を行います。洗浄によってマッドケーキを破壊しスクリーンから地下水が流入するようにします。
 温泉井戸管と掘削した縦穴との間には、すきまができますが、地下へ10m掘り進むごとに約1kg圧力が増すため、自然に埋まっていきます。この圧力のおかげで、地下水も自然に温泉井戸管内に浸みだしてきます。
 洗浄し温泉井戸の仕上げが終了すると温泉井戸の評価試験をします。一時的に揚水機を温泉井戸孔内に入れ、段階揚水試験、連続揚水試験、水位回復試験などを行います。また、汲み上げた温泉水は温泉成分の有無を調査し、保健所等関係機関に報告します。福島県への動力申請の許可後ポンプを設置し完成となります。
 平成24年7月11日から始まった温泉掘削工事は、1日平均25m程度ずつ、順調に掘り進んでいます。11月半ばまで掘る予定で2月までには完了の見込みです。
 ※帯水層:地下水が蓄えられている地層。通常は、粘土などの不透水層(水が流れにくい地層)にはさまれた、砂や礫(れき)からなる多孔質浸透性の地層をさす。実際には、この帯水層が何層にも重なっている場合もある。
 ありがとうございました。
 新協地水株式会社橋本清一部長、山家久雄マネージャー、平善照部長にお話しを伺いました。

◆引用先:(財)温知会 会津中央病院 院内広報誌『栞』2012年8月号から引用




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