シリーズ

私の山紀行 第16回『彩秋の流石山〜三倉山』

代表取締役社長 佐藤 正基
(RCCM 土質及び基礎)

 流石山(1,812m),大倉山(1,885m),三倉山(1,888m)と連なる山塊は、福島県と栃木県の県境にあり三本槍岳の西側に大きく鎮座をしています。那須側から三本槍岳への登山道を山頂に向かうと「裏那須」と呼ばれる流石山,大倉山,三倉山の県境稜線の雄大な山塊を徐々に眺望することができます。三本槍岳山頂から望むこの稜線は、どっしりとした風格であり那須連邦の主峰である茶臼岳,朝日岳,三本槍岳などと遜色のない山並みとなっています。ロープウェイがあり観光地化されている東側(一般的に総称して那須岳)と比べると、訪れる観光客は少ないものの、登山では人気の縦走コースです。はじめてこの風景を目にしたとき、「あの稜線を歩いてみたい。」と即決をし、7月中旬に開催される山開きに参加をしました。山開きが開催される時期の流石山の斜面一面はニッコウキスゲの群落で黄色に染まり、まるで雲上のお花畑を連想させてくれます。ニッコウキスゲは湿原に咲く花というイメージが強かった私にとって、驚きと感動の風景でした。後で地元の人から、話を伺うと豪雪そして霧と雨が多い大峠だからこそ咲くことができるということです。その後幾度となく訪れた山域ですが、気軽に訪れることができる那須岳とは違った趣の、この山塊には、それなりの気合がないとなかなか行けないというのが私にとってのこの山域です。今回は山の秋も深まった10月の山行を紹介します。

☆2012年10月20日(土) 快晴
 今年はなかなか南会津の山を訪れる機会が少なかったことから、快晴となるこの日に合わせて久しぶりに下郷町の大峠から流石山,大倉山,三倉山を縦走する山行を計画した。幾度となく山開きに参加をし、秋の草紅葉の稜線を楽しんだこのコースも、過去の山日記を調べてみると2008年7月以来となる。この時期、いつも満車状態の駐車場のことを気にかけながらも、観音沼森林公園脇を通り林道「大峠線」に至る。ここから流石山から三倉山の展望が素晴らしいが、これからの悪路に備え景色を見る余裕はまったくない。「日暮の滝」の駐車スペースもすでに満車状態さらには、「危険通行止め」(下郷町が安全喚起を目的として設置)の看板が安全を意識して設置してあり心の焦りとなる。ここから歩いたのでは大倉山にさえ到達できないと考え、自己責任で林道を奥へ。未舗装となると凸凹はひどく、慎重に運転を続け林道終点手前の駐車場へ、ここもすでに満車状態であったが、どうにか一台が駐車できるスペースを確保して、早々に準備をして9時34分にスタート。我々が最終かと思っていたら、まだまだ快晴の秋空の下、天空の縦走を求めて2〜3台の車が林道を登ってくる。13分ほど歩いた林道の終点が登山口となっており、ここもすでに満車、登山口を過ぎると「松川林道」と書かれた石碑そして落葉松の中の少々ザレタ広い道を行く、紅葉も見頃で日差しを浴び赤・黄そして中間色と見事な色合いとなっている。古びた石畳のこの道はガイドブックによれば旧会津中街道であったそうだ。道は程なく登山道らしくなり一気に急斜面を登ると、10時11分にケルンと地蔵が置かれた大峠に着く。ここから眺める流石山は、急斜面が果てしなく続く感じで山頂は確認できない。大峠を直進すると三斗小屋温泉、左は三本槍岳へと続く。時間が早ければ、休憩をしている人が多数いるはずであるが、今は誰もいない。流石山までの急登はジグザクを繰り返し、汗がびっしり絞られる。いくら登っても頂は見えない感覚となるものの、時折振り向くと三本槍岳がどんどん迫ってくる。前方そして後方を確認しながらの登山となるが、一歩一歩ごとに風景が変化をして高度が上がっていることを体感する。大峠からの辛い斜面から開放され、きらきら金色に輝く草紅葉の稜線が間近に迫ると、大峠から52分(11時3分)で流石山の山頂となる。はるか前方を歩いていた二人組みのパーティーが昼食中、軽く挨拶をして行動食にみかんをほおばりながら、次の頂、大倉山を目指す。ここからは秋の澄んだ空気の中、草紅葉の稜線をアップダウンしながら進むことになる。目前に美しい山容を見ながらの稜線歩きは、山歩きの醍醐味十分であり、前方には、一段と高く三角錐のような形をした三倉山が見え隠れしながらも、少しずつ近づいてくる。この時期、稜線を吹く風は冷たく汗ばんだ体を適度に冷やし、草紅葉と360度の風景に魅了されつつ軽快に歩を進めると、「キスゲ小沼」そして「五葉の泉」といった二つの小さな地塘脇を通り、流石山から45分の11時48分に大倉山山頂に到達する。山頂には1,885mの朽ち果てた柱標が2本あり、一方には「至ル 三倉山 一時間」と記載をされている。ここからの三倉山の眺めは見事であり、紅葉の木々の中に一本筋となった尾根に取り付くキツイ登山道を確認することができる。丁度下山をしてきた60歳代の男性から「一度下っての登りは、きついよ!」とのエールを受け気合で、最後の急登へ。三倉山へは、少し下ってやせた尾根を登り返す。草木そして枝にしがみついての一歩一歩の登りとなるものの、風景が体を押し上げてくれる。大倉山から遠く感じた三倉山も、急な尾根を一気に登り、緩やかになると山頂間近である。大倉山から24分の12時12分に1,888mの山頂に到達し、4年3ヶ月ぶりの山頂に自然とうれしさがこみ上げてくる。夏山シーズンであれば休憩場所の確保に必死にならなくてはならない山頂もこの時期,この時間は二人きり。山頂の立派な祠(「山開き実行委員会」が2008年7月に設置)に参拝した後、遅れてくる相棒を待つ間360度の風景を楽しむことに。山頂からの眺望は、大変素晴らしく小野岳や大戸岳といった会津の名峰そして、飯豊連邦,吾妻連邦,安達太良山など名だたる名峰を目の当たりにすることができる。そして南東側には、茶臼岳をバックに今歩いてきた稜線を望むことができる。遅れること5分で合流した相棒とともに、ラーメンとおにぎりで至福の昼食タイムとなり、風もなく穏やかな晩秋の風景を堪能する。ついついのんびりしすぎてしまい、45分後の12時57分に山頂を後にする。
(登り2時間38分,下り2時間11分)

 


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