地盤品質判定士について
技術部 石幡和也・原 勝重


1.はじめに

 弊社では、東日本大震災以降、数多くの災害復旧関連事業に携わってきました。その中で、某住宅会社から造成団地内の戸建住宅で生じた不同沈下の原因調査の依頼がありました。調査の結果、不同沈下の原因は、住宅会社による戸建住宅基礎選定および工事の不備ではなく、震災後特にクローズアップされている谷埋め盛土が原因の大規模なすべりによるものでありました。
 本来であれば、被害にあった住宅団地の開発会社が補償を行うべき事例ですが、当該団地の開発を行なった会社は震災以前に倒産しており、現在は団地内の区割りを複数の不動産会社がランダムに所有している形態をとっていました。そのため、責任の所在が不明確であり、建主は泣き寝入りをせざる得ない状態でした。
 当該住宅団地が谷埋め盛り土であることは国土地理院のHPで閲覧できる空中写真(1973〜75年)でも一目瞭然であり、土地購入の際、事前にそのことを認知していれば、購入を控えることができ、被害に遭うこともなかったかもしれないと思うと地盤調査業務に携わるものとして、非常に歯がゆい思いをした事例でした。
 しかし、 現状、戸建住宅の土地の売買は景観や利便性のみで価値が決まり、地盤災害の起こりうるリスクなどに対する情報の開示などは皆無に等しく、地盤調査についても安価なスウェーデン式サウンディング試験などによる最低限の調査(支持地盤の判定程度)のみに評価されている状態です。
 そういったことから、その土地のもつ多様な地盤リスクを評価し、購入希望者に事前に周知する権限をもつ資格者や公的な制度があれば、前述したような被害の大半はなくなると技術部内で意見を交わしていました。それと期を同じくして、(公社)地盤工学会でも全国各地で生じている同様な被害や問題に対して解決の方策を検討していました。地盤工学会は方策として、 地盤の評価を行う地盤品質判定士資格の制度を作り、2013年に第1回の資格試験を行ないました。当社では、3名が資格を取得いたしました(2013年度1474名中合格者384名、全体の約30%)。
 本報文では、地盤品質判定士の担う役割、協議会・関係諸団体の動向および今後期待される役割について簡単にお話させて頂きます。

2.地盤品質判定士とは1)

(1)資格の概要
 2011年の東日本大震災をはじめ、これまでの地震によって発生した住宅や宅地の被害を教訓(表-1参照)として、公益社団法人地盤工学会を代表に、一般社団法人日本建築学会・一般社団法人全国地質調査業協会連合会が発起人となり、多くの住宅や宅地の関係諸団体の参画により2013年2月に「地盤品質判定士協議会」が発足しました。協議会では、建築学・土木工学分野や不動産・住宅関連産業等に従事する地盤技術者を対象に、「地盤品質判定士」の資格制度を創設しました。
 地盤品質判定士は、宅地の販売者と宅地の取得者(購入者)の間に立ち、地盤の評価(品質判定)に関わる調査・試験の立案、調査結果に基づく適切な評価と対策工の提案を行ない、広く社会に貢献することを目的としています。
 図-1に示すようにこの資格制度では、2種類の資格(「地盤品質判定士」と、「地盤品質判定士補」)があり、受験には、原則として、協議会が定める資格の保有者であることが必要となります。


(2)地盤品質判定士に求められる能力1)
 地盤品質判定士には以下に示す基礎知識、技術・経験が求められます。



(3)求められる倫理観1)
 地盤品質判定士には以下に示すI〜IXに示す倫理観が必要です。



(4)期待される役割(業務)について1)
 地盤品質判定士の業務は、地盤の評価(品質判定)に関わる調査・試験の立案、調査結果に基づく適切な評価と対策工の提案等を行い、宅地の造成業者、不動産業者、住宅メーカー等と住宅及び宅地取得者の間に立ち、関係者が地盤の評価(品質判定)を正しく理解出来るように評価書を作成します。判定士または、宅地所得者は、地盤品質評価書を基に宅地の防災性能を把握し、購入・売却や追加調査あるいは地盤改良等の必要性を判断します。
 造成宅地、引渡し時の地盤品質証明、既往建物地盤のリスク判断等と今後、判定士に想定される業務は多様なものになると考えます(以下参考)。




3.協議会の動向・活動2)

 協議会は、発足から3年目で、以下に示す活動を行なっています。
・H27年度9月に第3回資格試験を実施
・地盤品質判定士会の発足(社会貢献を目的として地盤に係わる相談受付・判定業務の実施等)
・当社、原技術部長が2015〜2016年度の判定士会幹事に選出(技術委員)。
・福島県内の判定士は、当社の3名を含む、10名が登録されている(2015年10月現在)。
・平成27年10月のマンション傾き問題では、地盤品質判定士協議会および判定士幹事会では、自治体への協力をするとともにマスコミの取材も多数受けている。



4.関連団体および省庁とその動向2)

 関連団体、省庁は以下の通りです。


 関連団体とは、情報交換会を定期的に実施し、意見を集約しています。
 国土交通省が社会資本整備審議会で、インフラの点検・診断に関する資格制度の確立に向け議論を進めています。同省は資格制度について、評価認証機関を設置し、技術水準を満たす民間資格を評価・認定するイメージを提示しています。また、2015年以降に業務発注の資格要件として活用するとともに、将来的に義務化を目指す考えを明らかにしました。地方公共団体の支援方策なども含め、近年中に検討結果をまとめる方針です。
 参院国土交通委員会では公共工事の品質確保の促進に関する法律の改正案と、建設業法などの改正案が採決され、全会一致で可決されました。国は、公共工事に関する調査・設計の品質確保に向け、資格などの評価のあり方を検討することを求めています。

5.最近の地盤に関する問題

 平成26年8月に広島で大規模土砂災害が発生しました。最も被害の大きかった箇所は、「安佐南区八木3丁目」でしたがかつての地名は「八木蛇落地悪谷(じゃらくじあしだに)」という地名であったことがTVで紹介されていました。危険性が一目瞭然な地名で、旧来から土砂崩れの多いことを由来とした地名だそうです。先人は災害の危険を地名で残し危険性を最もわかりやすい形で提示していましたが、不動産価値の問題から地名が変更され、次第に土砂崩れの教訓も忘れられることとなりました。このように現在は、不動産価値を上げるために災害の危険性を無視した土地の改変・売買が行われており、広島に限らず、同様な災害の恐れのある地域が全国に点在します。地盤の品質を的確に評価し、対策していれば、回避が可能であったと考えます。
 平成27年9月には、常総市で豪雨災害が発生しました。被害地域では、多くの住宅が床上浸水等の被害にあっていますが、中には、洪水により基礎地盤が流出し、家屋流出または家屋が傾斜する等の被害が見られました。一方、古い住宅地は、旧河川堤防を巧みに利用し、被害があまり見られなかったことから、地盤の硬さや軟らかさ以外にも地盤にはリスクがあることが分かります。
 平成27年10月の横浜のマンション傾斜問題で取り上げられるように一般の方が地盤の良し悪しを判断するのは、非常に難しいことです。そのため、判定士等の専門家が住宅購入希望者と不動産や住宅会社の間に立ち、地盤に関することを分かりやすく説明することが必要と考えます。
 私たちの住む福島県中通り東側は広島の安佐南区と同様なまさ土が広く分布する地域である。また、平成27年9月10日に発生した南会津町を中心とした豪雨災害など、洪水の常襲地域も多く、昨今では、高層ビルも多く建築されています。近年の出来事は、他人事ではなく、的確な地盤の評価と対策の働きかけが必要です。当社では、住宅購入者の良き相談相手となり地域社会に貢献できればと考えております。

参考文献
1)地盤品質判定士協議会HPおよびリーフレット
2)第1回地盤品質判定士情報交換会配布資料



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