残雪の山は、真っ白い雪と真っ青な空が広がる中、稜線を歩く春の山ならではの登山です。ここ数年、ゴールデンウィークを利用して福島県内外の残雪の山々を訪れて、春山特有の新緑と残雪の山歩きを満喫しています。残雪の春山の魅力は、残雪と木々の枝に芽吹く鮮やかな新緑と蕾を膨らませた花々の風景に感動を覚えるからです。今年のGWは、天候も快晴の日が続くことから、2年ぶりとなる尾瀬国立公園の山々に行くことにして、初日に燧ガ岳に登る計画としました。燧ガ岳は標高2,356mで、東北地方以北での最高峰です。(秋の山行記事は、「土と水」46号に掲載) 最大の魅力は、双耳の頂上である柴安嵓(2,356m)と俎嵓(2,346m)から展望する風景です。複雑な火山地形で屹立する頂に立てば、胸のすく登頂感を味わうことができ、ここからの眺望は、箱庭のような尾瀬沼と尾瀬ヶ原そして至仏山など、雪に覆われた風景の中、尾瀬ヶ原を北から南に直線上に伸びる木道が、印象的な風景となっています。この時期だけに見ることができる厳しい冬から芽吹きの春へ、季節が変化する瞬間です。 今回は、残雪の燧ガ岳を御池から双耳の頂を目指す山行を紹介します。
★2015年5月3日(日) 快晴 今年のGWは、快晴の日が続くことから、予定通り桧枝岐村の民宿に滞在し、尾瀬周辺の山々を巡る山行を計画した。3日午前2時30分に起床、3時15分に御池に向けて自宅をスタートする。桧枝岐村の中心部を抜けると、朝の陽ざしに白く輝く燧ガ岳を望むことができ、今年も残雪たっぷりの山行にワクワク感を覚える。七入から御池までは1日に除雪を行い開通したばかりとあって、御池に至る国道352号線の道路脇には雪が壁として残っており、あらためて今年の豪雪を思い知る。除雪が6割ほど実施されたばかりの御池駐車場には、6時28分に到着する。春スキーのメッカとして知られている燧ガ岳、すでに多くの登山者やスキーヤーが山頂を目指している。はやる気持ちを抑えながら日焼け止め,行動食等の備品をチェックし、アイゼンを装着して7時5分に標高1,530mの御池をスタートする。無雪期ならば、駐車場西側の燧裏林道に続く登山道を行くものの、残雪期は駐車場南側の斜面から直接山に登ることになる。山頂に至るルートは雪面にトレースとなって無数にあり、なるべく急勾配とならないような登りやすい傾斜を選びながらの登攀となるが、夏道と違って残雪の上を山頂まで最短のルートで登るため、勾配は大きく緩むことなく、始めから悪戦苦闘の連続となる。気温は11℃、雪も程よく締まっており、アイゼンが雪面に食込み、シャキシャキと音をたて大変気持ちがよいスタートとなる。オオシラビソやダケカンバの林の中のルートは、夏であれば鬱蒼とした森の中を歩くことになるが、今は日差しも十分で雪面からの紫外線の反射に対処しながらの登りとなる。

歩き始めて10分さらに傾斜は増し、確実に三点支持を堅持しながら登ると7時40分(登り始めて35分)に、最初の湿原、広沢田代(標高1,756m)に到着する。広沢田代はこのルートで最初の平坦面であり、緊張した三点指示からも解放され余裕をもって風景を堪能することができる。気温は、13℃と汗ばむ暑さとなり10分ほど平坦から緩い斜面を登っていくと、次の熊沢田代に至る二つ目の大きな壁が迫ってくる。雲一つない青空の下、再度三点支持を堅持した緊張の登りとなる。山頂に焦点を合わせて見渡すと、数多くの人が山頂一点に向かって登っているのが見える。どれだけの人が登っているのだろうか、まるでアイスクリームに群がる蟻のように、すべての人が自由に様々なルートから山頂を目指しているのがわかる。とにかく自分のルートを一歩一歩登るだけ、これが残雪期の醍醐味となっている。二つ目の壁は、手強く手足をフル稼働させた状態での登りとなり、まさにこのまま天に登っていくような錯覚に陥り、ついにはオーバーハングになっているのではと、疑いたくなるような急斜面である。時折心配になり後に続く相棒を覗き見ると、三点支持を上回る完全な四つん這い歩行で登っている。その姿が滑稽であり、私にとって緊張を和らげるのに十分な効果となる。そのままの体勢で後方に目をやると、先に通過をした広沢田代が遠くに見え、高度を視覚的に確認することができる。相棒の努力に報いるため、「もうすぐだよ」と労いの声をかけると、8時18分にようやく三点支持から解放される斜面勾配となる。緊張が和らぎ絶景の風景を見ると、前方に燧ガ岳の全容、後方に大杉岳,会津駒ヶ岳を眺めることができ、いったん緩やかに下ると二つ目の湿原、熊沢田代(標高1,756m)に8時28分(登り始めて1時間23分)に到着する。熊沢田代周辺は、日当たりが良いのか所どころ雪どけし木道が表れており春の彩となっている。しかし、山頂はまだまだ遠く、急な壁となって立ちはだかっている。甘い行動食を取り連続した急登の緊張感から解放された相棒は、元気を取り戻しフルパワーでどんどん先に行ってしまい、今度は私が相棒の後をひたすら追うことになる。
森林限界を超え視野が広々となってくると、多くのスキーヤーが休憩または、再度山頂に向かっていることから山頂が近いことがわかる。斜面を振り返ると二つ目の湿原である熊沢田代が小さく見えてかなり高度を上げ、奥に見える会津駒ヶ岳と同じ高さに登ってきたことが実感できる。依然として斜面は急であり、ただひたすら登り続けると最初の岩峰である俎嵓(標高2,346m)に9時28分(登り始めて2時間23分)に到着する。尾瀬沼を中心とする俎嵓からの風景も絶景であるものの、今回のルートで最大急斜面となる柴安?への取りつきを急ぎ一度大きく高度を下げ、岩場で外したアイゼンを再び装着して急斜面にへばりつく。取りつく岩そして草木もないことから、雪面にしっかりアイゼンを食込ませ、四つん這いになって一歩一歩ただひたすら高みを目指す。ようやく岩峰に手が掛ると、9時54分(登り始めて2時間49分)で最高峰の柴安嵓に到着する。
四つん這いで冷たくなった両手を温めながら待つこと5分、相棒も「やったぁー」という表情で山頂を踏みしめる。感動でテンションがおかしくなってしまう感覚になりながらも、360度の絶景を堪能する。南東方向尾瀬沼の向うに日光白根山、左に男体山や女峰山などの日光連山が続き、遠く富士山を肉眼では確認することができる。(残念ながら、私の技術ではカメラで写すことはできなかった)西の展望は白く輝く尾瀬ヶ原の奥中央に至仏山、左に武尊山が見える。この二つの山の中央に薄らと浅間山が、さらに越後山脈、北には会津駒ケ岳などなど、快晴無風の中、何度も何度も相棒とぐるぐる山頂を回り絶景を楽しむことに、ここで暖かい味噌ラーメンとおにぎりそして最高の風景を堪能しつつ、大休止。俎嵓そして見晴新道から多くの登山者が登ってくるため、10時54分(大休止1時間)に柴安嵓の大展望地を後にする。柴安嵓の急傾斜地は下降する団体と登る人達で大渋滞、意を決し尻セードで鞍部へ下降。結局、俎嵓まで30分以上かかってしまった。まだまだ景色を眺めていたい、そんな衝動に駆られながらも、今年のGW「残雪の燧ガ岳」の風景を目に焼けつけ、11時50分俎嵓を後にする。夏道ならば大石ゴロゴロのがれ場そして樹林帯も、今は真っ白い雪原、アイゼンを外し大股で雪をしっかり蹴り込みながら、登りは急斜面で悪戦苦闘したものの下りは滑るように一気に下山、そして御池に13時2分(下り始めて1時間12分)気温19℃の中、無事御池に到着となる。まだ時間的に早いものの、明日の大杉岳への山行のためお世話になる「燧の湯」近くの民宿へ向かい、温泉とビールでゆっくり疲れを癒す。 (登り 2時間49分,下り 1時間12分)

※新協地水(株) 代表取締役
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