1.はじめに
1977年4月に大学の土質工学研究室に入って以来、今日まで足掛け40年にわたり地盤工学に関する研究および実務を行ってきた。これまでに地盤の動的問題、砂質土の動的性質、粘性土および礫質土の強度・変形特性に関する研究や東京国際空港の拡張、東京湾横断道路計画などの地盤調査解析業務、道路盛土・切土の調査・対策工に関する業務、地すべり調査・対策工に関する業務、道路施設・地すべり施設等の維持管理に関する業務などを行ってきた。また、宮城沖地震、長野西部地震、日本海中部地震、中越地震、岩手・宮城内陸地震、東北地方太平洋沖地震などの地震動による地盤災害の調査も行った。
特に、2011年3月11日14:46に発生した東北地方太平洋沖地震を契機として、東北地方や福島県を取り巻く社会情勢は、それ以前と以後においては、格段に変化してきている。この変化は、震災により企業の様々な経営資源や大事な情報が失われて、企業としての基盤が揺らいだことが企業の「事業継続の問題」としてクローズアップされた。つまり、東日本大震災の経験から「防災」や「緊急時におけるリスクマネジメント」の重要性が再認識されたことから、企業が「事業継続計画(BCP:Business Continuiting Plan)」の導入という形で、大規模災害時に直接被害で生じる影響に対して対応しようとしていることである。
福島県内には、多種多様な地形・地質が分布している。このため、地盤材料も多種多様であり、このような地盤材料の物理特性・力学特性を把握することが今後の性能設計に際しては、非常に重要なことである。地盤工学の一技術者としては、防災や緊急時だけではなく、平時においても地質リスクマネジメントを行っていくことの重要性から福島県の地盤に関わるデータをとりまとめておく必要があると判断した。何故なら、土質試験データは、地盤柱状図のようにデータ・ベース化されていないため特に重要である。このため、東日本大震災の被災を免れて残った6年間程度の室内土質試験データをまとめることとした。とりまとめた土質試験データは、主に、地盤から乱れの少ない方法で採取(シンウオールサンプリングやブロックサンプリング)した試料を用いて、物理試験の他に圧密試験や一軸圧縮試験および三軸圧縮試験などの力学試験を行ったデータである。
ここで、「地盤材料(Geomaterials)」とは、一般に土(粘土、砂、礫など)と岩(軟岩〜硬岩)をさすものであり、セメントや石灰による改良土なども含まれる。この地盤材料なる用語は比較的新しい用語である。これは、個々の設計において土と岩を同時に扱うことが多いためである。それまでは、土質材料と岩石材料とに分けて議論していた。これは、室内試験法、原位置調査法および設計体系が異なっているためと考えられる。しかし、この両者を別々に扱うことは学問的にも、また、実務においても不都合なことが多い。さらに、両者の境界は不連続ではなく、連続していて曖昧である。このため、これらをまとめて地盤材料とした。このことは、(公社)地盤工学会が平成21年(2009年)11月25日に発行した試験方法が、「地盤材料試験の方法と解説」1)となったことからも理解される。
ここでは、まずはじめに、福島県内の地盤材料の物理・力学特性のうちの「土質材料の物理特性」についてまとめたものを紹介する。
2.福島県の地形・地質概要
(1)地形概要2)
福島県は、東北地方の最南部に位置し、東は太平洋に面し、北は宮城県・山形県に接し、西は新潟県、南は群馬県・栃木県・茨城県に接している。福島県の位置する東北地方は、北上・阿武隈山地、奥羽山脈、出羽・飯豊山地の3つの地形区に区分される。このうち福島県には東側に北上・阿武隈山地の中の阿武隈山地(阿武隈山地北部および南部、磐城海岸、常磐海岸)が分布し、その西側には阿武隈低地帯(二本松丘陵、矢吹丘陵・白河丘陵、郡山台地・須賀川台地、福島盆地・伊達盆地・信夫盆地)が分布している。さらにその西側には、東北地方の背骨である奥羽山脈の最南部に位置する吾妻・磐梯山地(栗子山地、岩瀬山地、吾妻火山、安達太良火山、磐梯火山、猪苗代盆地)が分布し、最西部には出羽・飯豊山地の飯豊山地、西会津山地(西会津山地、守門・浅草岳、会津盆地)が分布している。
(2)地質概要3)
地形概要において示したように、福島県は、東側の磐城・常磐海岸、阿武隈山地、阿武隈低地帯、吾妻・磐梯山地、猪苗代盆地、会津盆地、飯豊山地、西会津山地など4つの平坦地と3つの大きな山地からなっている。このため、堆積物や岩石は様々なものが分布している。
まず、堆積物としては、沖積・洪積の粘性土、砂質土、礫質土があり、有機質土の分布も見られ、山地斜面には崖錐性堆積物が見られる。
また、岩が風化して土砂化した風化残積土(とくに花崗岩地帯のまさ土)も広く分布する。
さらに、岩石は、表-2.14)に示す火成岩、堆積岩、変成岩等の大半の岩種が確認される。

3.試験試料と試験項目
2007年から2012年の間の室内土質試験データ、岩石試験データをとりまとめた。2007年から2010年の4年間のデータは、震災による喪失を免れたものである。また、2011年と2012年のデータは、災害調査や震災復興事業において実施したものである。
表-3.2には、採取場所、地形・地質、試料No.および試験項目を土質試料と岩石試料に分けて示した。
表-3.2の土質試料は、粘性土、砂質土、礫質土の3種と特殊土に分類される有機質土、火山灰質粘性土、まさ土の3種に分けて示した。粘性土は12地域16試料、砂質土は7地域10試料、礫質土は2地域3試料、有機質土は5地域8試料、火山灰質粘性土は4地域7試料、まさ土は3地域7試料であり、合計50試料である。
試験項目は、表-3.1に示す土粒子の密度試験、土の含水比試験、土の粒度試験、土の液性限界・塑性限界試験などの物理試験の他に土の水素イオン濃度試験、強熱減量試験、有機物含有量試験、保水性試験などを行った試料もある。力学試験は、土の圧密試験、一軸圧縮試験、三軸圧縮試験、繰返し三軸試験などである。

4.土質試料の物理試験結果
室内土質試験を行って得られた各物理特性について粘性土、砂質土、礫質土、泥炭・有機質土、火山灰質粘性土(ローム)、まさ土(花崗岩の風化残積土)に分けて示した。
(1)土粒子の密度(ρs)
土粒子の密度は、ρs=1.512〜2.727(g/cm3)と広範囲であるが、表-4.1の主な鉱物と土粒子の密度1)の中の豊浦砂〜黒ぼくに示す密度の範囲内にある。これらの密度を土質分類ごとに示すと以下のようであり、 砂質土で湖堆積物のρs=2.286(g/cm3)と有機質土の ρs=1.512〜2.549(g/cm3)を除くとρs=2.489〜2.727(g/cm3)の範囲である。
(2)土の含水比(wn)
土の含水比は、wn=13.5〜769.2(%)と広範囲である。これらの含水比を土質分類ごとに示すと以下のようであり、砂質土で湖堆積物のwn=149.6(%)と有機質土のwn=60.2〜769.2(%)を除くと含水比の範囲は、wn=13.5〜119.9(%)となる。 図-4.1には、土粒子の密度ρsと土の自然含水比wnの関係を示した。土の自然含水比がwn=100(%)以下においては、土粒子の密度はρs=2.5〜2.7(g/cm3)の範囲であるが、土の自然含水比がwn=100(%)以上のものは、土粒子の密度がρs=1.5〜2.5(g/cm3)と小さくなる傾向が見られ、有機質土あるいは有機物が多く混入したものである。
(3)粒度特性
図-4.4に土質分類毎の粒径加積曲線を示した。また、各土質分類毎の粗粒分(砂分+礫分)含有率CCを以下に示す。
また、土質分類毎の最大粒径Dmaxは、以下に示すように、一部を除き、粘性土、有機質土、火山灰質粘性土では小さく、砂質土、礫質土、まさ土では大きい。
図-4.2に示した土粒子の密度と粗粒分(砂分+礫分)含有率の関係から、土粒子の密度は、有機質土や有機質分を多く含む試料においては、ρs=2.5(g/cm3)以下となるものの、その他の試料は ρs=2.5〜2.7(g/cm3)の範囲である。
図-4.3に示した自然含水比と粗粒分含有率の関係から、粗粒分含有率が多くなるに従い、含水比が少なくなる傾向が見られる。これは、細粒分(シルト分、粘土分)において土粒子間に電位的に水分が吸着するためと判断される。
図-4.4には、粒径加積曲線群を土質分類毎に示した。これらの図によると、有機質土、火山灰質粘性土の粒径加積曲線は、粘性土の粒径加積曲線群に近く、まさ土の粒径加積曲線は、砂質土の粒径加積曲線に近い。礫質土の粒径加積曲線は、ゆるく傾斜しており、均等係数がUc=(D60/D10)=480〜3130と非常に大きい。粘性土・有機質土・火山灰質粘性土は、細粒分が多いため、均等係数がほとんど算出されない。砂質土とまさ土の均等係数は、Uc=4.66〜146の範囲である。また、粘性土においては、0.075mm以上の粗粒分を30(%)以上含有するものも多く見られ、逆に、砂質土においても0.075mm以下の細粒分を30(%)以上含有するものも多く見られる。
(4)コンシステンシー特性
液性限界試験、塑性限界試験から得られた土質区分毎の液性限界wL、塑性限界wp、塑性指数Ipを表-4.2に示す。また、図-4.5には塑性指数と液性限界の関係(塑性図)を示した。これらの土質の中で、まさ土は、非塑性(NP)である。その他の土質は、粘性土、砂質土の中には、非塑性(NP)を示すものも見られるが、塑性の特性を持っている。表-4.3には土の種類による液性限界と塑性限界の範囲1)を示した。これらの粘性土の液性限界、塑性限界の範囲と表-4.2に示す有機質土を除く、粘性土、砂質土、礫質土および火山灰質粘性土の液性限界、塑性限界の範囲は概ね同程度の範囲であることがわかる。
図-4.5に示す塑性指数と液性限界の関係から粘性土、砂質土、礫質土は、液性限界、塑性指数ともに同程度の値の範囲にある。また、これらの土質よりも火山灰質粘性土、有機質土の順に塑性指数が大きくなる傾向が見られる。 図-4.6には液性限界と自然含水比の関係を示した。この図によると有機質土の液性限界wL=125.0(%)、自然含水比wn=545.1(%)を除いたその他の試料は、液性限界と自然含水比が同程度か液性限界が自然含水比よりも大きい傾向が見られる。
(5)湿潤密度(ρt)
現地盤からシンウオールサンプリングやブロックサンプリングによって採取した乱れの少ない試料の湿潤密度を測定した。土質分類毎の湿潤密度を以下に示す。
粘性土、砂質土、礫質土は、一部の有機分を多く含む試料を除くとρt=1.586〜1.896(g/cm3)の範囲である。なお、礫質土のρt=1.587(g/cm3)は、斜面表層の崖錐性堆積物である。有機質土の湿潤密度は、小さくρt=0.926〜1.602(g/cm3)の範囲である。火山灰質粘性土の湿潤密度も比較的小さくρt=1.369〜1.784(g/cm3)の範囲である。一方、花崗岩の風化残積土であるまさ土の湿潤密度は大きくρt=1.706〜2.002(g/cm3)の範囲である。
図-4.7に示した湿潤密度と土粒子の密度の関係から土粒子の密度が大きいと湿潤密度も大きい傾向が見られる。また、図-4.8に示した湿潤密度と自然含水比の関係は、自然含水比が多くなると湿潤密度が小さくなる傾向が顕著である。図-4.9に示した湿潤密度と粗粒分含有率の関係は、一部の有機質土を除くと粗粒分含有率が多くなると湿潤密度も大きくなる傾向が見られる。
(6)土のpH
土の水素イオン濃度pHは、杭基礎を採用する地盤において測定する場合が多い。資料収集した50試料のうちpH試験を行った試料は、以下に示す3試料のみであった。
これらの試料の水素イオン濃度は、pH=5.5〜6.4であり、中性から若干の酸性を示す値である。
(7)強熱減量と有機物含有量
強熱減量試験と有機物含有量試験は、有機質土AY-1とAY-3で実施した。
強熱減量は、自然含水比wn=545.1(%)、土粒子の密度ρs=2.261(g/cm3)、湿潤密度ρt=0.968(g/cm3)のAY-1試料で実施し、強熱減量がLi=93.1(%)と大半が減量してしまう試料であることが判明した。
有機物含有量は、自然含水比wn=769.2(%)、土粒子の密度ρs=1.512(g/cm3)、湿潤密度 ρt=0.926(g/cm3)のAY-3試料で実施し、有機物含有量が47.1(%)と試料の半分近くが有機物であることが判明した。
(8)土の保水性
土の保水性試験は、崖錐性堆積物が分布する斜面の豪雨時安定性を検討する目的でSD-1、SD-2の試料で実施した。
SD-1試料とSD-2試料は、ともに同じ斜面に分布する崖錐性堆積物であり、地盤材料の分類は、ともに砂まじり細粒分質礫(GF-S)に分類されるが、土粒子の密度、自然含水比、湿潤密度は、表-4.4に示すように異なっている。
また、図-4.10と図-4.11に示すSD-1試料とSD-2試料の水分特性曲線も異なっており、堆積環境が通常の沖積層や洪積層と違って、同一斜面に分布する試料においても物理特性が異なった場合には、水分特性曲線も異なることを考慮して土の保水性試験を実施し、豪雨時の安定検討に用いる必要がある。
5.土質試験試料の物理試験結果の特徴と問題点
(1)中間土的性質
粘性土16試料、砂質土10試料、礫質土3試料の計29試料のうち、粗粒分を30%以上含有する粘性土が10試料、塑性指数IpがNP〜25以下の粘性土が9試料見られる。また、細粒分を30%以上含有する砂質土が6試料、塑性指数Ipが25以上の砂質土が3試料見られる。さらに、細粒分を30%以上含有する礫質土が2試料、塑性指数Ipが25以上の礫質土が1試料見られる。このことから、表-5.1に示す中間土の判断基準5)とは合致しないまでも、粘性土、砂質土、礫質土においては、中間土的分類に入る試料が多い。
このことは、粘性土が低地堆積物、河川堆積物、湖堆積物、段丘堆積物などであるため、均質な堆積環境ではないことが考えられる。砂質土、礫質土も、低地堆積物、河川積物、湖堆積物、段丘堆積物に加えて崖錐性堆積物からなるため、粘性土と同様に均質な堆積環境にないことが考えられる。
このため、地盤調査時には、室内土質試験を実施して物理特性だけではなく力学特性を把握する必要がある。
(2)試料数と統計処理
とりまとめた試料数は、表-3.2および以下に示すように全体で50試料と非常に少ないため、統計的手法を用いて解析するまでには至っていない。しかし、各土質試料の特性は,明確に現された。このことを踏まえ、今後も、データ収集を行っていく所存である。
<参考文献>
1)地盤工学会編:地盤材料試験の方法と解説、2009年11月25日
2)小池・田村・鎮西・宮城編:日本の地形3東北、東京大学出版会、2006年7月31日
3)東北建設協会編:建設技術者のための東北地方の地質,2006年
4)岩盤分類基準化委員会:新制定地盤工学会基準・同解説
岩盤の工学的分類方法(JGS3811-2004)、2004
5)地盤工学会編:ジオテクノート?中間土砂か粘土か、2007年6月15日
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