福島県の湧水シリーズ金山町の湧水を訪ねて・・・「玉梨の十郎清水」
1.はじめに 今回は福島県大沼郡金山町の玉梨地区に湧水を訪ねました。 金山町は炭酸水の湧水が有名ですが他にも多数の湧水が存在します。その中の一つ、玉梨地区の「十郎清水」をご紹介します(写真-1)。 十郎清水については、「昔、十郎と言う侍が、山向こうから矢を討った所、矢を抜いたところから清水が湧いた」ことから名前が付けられたとの伝説があります。 また、この清水を飲んだ産後の女がよく乳が出るようになったとの謂れがあるそうです。
2.位置について 本湧水は福島県大沼郡金山町大字玉梨字新坂地内に位置します(図-1)。 金山町川口から国道400号を昭和村方向に南下し、玉梨温泉街に到着したら野尻川にかかる弁天橋を渡って直進し、坂道を道なりに約100m進むと右手に湧水が見えてきます。これが「十郎清水」です。 また、坂道の上がり口付近にも水場が設置された湧水が存在します(写真-2)。「十郎清水」との距離は約50mと近く、湧水の兄弟のような様相です。ここではこの湧水を「十郎清水」下の湧水と表記します。
3.二つの湧水の水質について 湧水を採水して実施したイオン分析結果を基に作成したトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを示します(図-2)(図-3)。 トリリニアダイヤグラムからは、どちらの湧水も重炭酸カルシウム型に分類されました。一般的な循環性地下水の性質を示しており、地下水が循環する深度も比較的浅いと予想されますが、「十郎清水」下の湧水は重炭酸ナトリウム型との中間型に近く、「十郎清水」よりやや停滞した性質の湧水のようです。 この微妙な違いはヘキサダイヤグラムの形からも読み取ることができます。「十郎清水」の方がCa2+、Mg2+が多く、陽イオン側にはりだしたグラフの形を示しています。
4.地質と湧出機構 湧水周辺部の地質分布を示します(図-4)。 本地域の周辺部では沼沢湖を形成する要因となった沼沢火山の活動に伴って噴出した砕屑物が溜まった火砕流堆積物が広く分布していますが、よく見ると、「十郎清水」下の湧水は火砕流堆積物ではなく、新規地すべり堆積物の岩屑部に位置するようです。 分布する地層状況の違いから、
・「十郎清水」は火砕流堆積物内または火砕流堆積部と表層土との境界部の浅い部分を流れる、表流水に近い性質の地下水の湧水。 ・「十郎清水」下の湧水は地すべり堆積物中のやや深い部分を流れてきた地下水の湧水。 であり、この違いが微妙な水質の違いとして表れているのではと考えられます。
5.さいごに 今回の「十郎清水」と「十郎清水」下の湧水は場所も近く、兄弟のイメージを持ちました。ただ兄弟でも性格が違うように、地層状況や湧水機構によって場所が近くても水質の特徴が異なることが今回の取材で興味深く感じられました。 金山町に足を運ぶ機会があれば、玉梨温泉に入ったあとに玉梨の湧水兄弟にも会いにいかれてみてはいかがでしょうか。
※1新協地水(株) 資源開発部