シリーズ

代表取締役社長 佐藤 正基
(RCCM 土質及び基礎)

 会津の名峰である磐梯山から西に延びる尾根上に、猫魔ヶ岳(1,404m)を最高峰とする猫魔火山群があります。この火山群に囲まれた雄国沼の高層湿原は、尾瀬に匹敵する高山植物の宝庫となっており、ニッコウキスゲが咲き誇る6月下旬そして紅葉の時期には多くのハイカーで賑わっています。今回の主役である厩岳山(1,261m)は、カルデラ湖「雄国沼」の外輪山を構成する峰の一つで、雄国沼から望むと南側に位置し、時代的には磐梯山より古い火山の一部で、基盤は輝石安山岩から成っています。厩岳山だけを見ると、周辺の磐梯山そして猫魔火山群の猫魔ヶ岳や雄国沼に圧倒され、地味であまり目立たない山容となっていますが、厩岳山そして磐梯山を中心としたこの山域が、会津地方全体の山岳信仰や仏教文化を育みました。厩岳山頂直下には、8世紀に「行基」によって開かれた馬頭観音堂が祀られ古くから会津地方の馬頭観音信仰の中心となっており、観音堂に至る参道には西国三十三観音が祀られています。会津盆地から一望でき山岳信仰の対象として地形的な条件が合致したことにより「徳一」がこの地に慧日寺を開創し、以後会津仏教文化発祥の地として栄えることになります。
 厩岳山に至る登山道は、磐梯町源橋地区の北堰登山口と雄国沼と八方台を結ぶルート上にある猫石分岐(正確には、猫石から東側),雄国沼金沢峠口があります。
 6月上旬に、道の駅ばんだい「徳一の里きらり」に立ち寄った折、『第17回 厩嶽山祭り・山開き』の案内に目が止まりました。数年前の夏以来「いざ、修行と信仰の山」ということで、北堰登山口からの山行を計画しました。


☆2016年7月10日(日) 晴れ
 梅雨本番の中、久しぶりの快晴予報、以前から計画していた厩岳山へ。数年前、夏真っ盛りに厩岳山登山途中で雷雨にあってしまってから、何となく敬遠をして雄国沼そして猫魔ヶ岳から眺めるだけの山になっていたが、本日は気合も十分で厩岳山登山口へ向かう。磐梯栄川酒造工場敷地の南側林道「北堰赤枝線」を西へ400〜450m進んだところに「厩岳山登山口」の案内板がある。林道幅が十分に確保できるところに車を停め、9時38分にスタート。スタート地点の標高が544mであることから、山頂までの比高は、717mとなる。付近には登山者の車はなく、本日も静かな山歩きとなる。若干曇りがちだった空も快晴、気温も急上昇するものの祓川の冷たい水面を渡る風は、大変涼しく軽快に歩を進めることができる。しかし、2016年は県内各地で熊の目撃情報が多数あることに加え、秋田県鹿角市では熊による甚大な被害が出たことから、「クマ出没注意」の立札に警戒を強め相棒とはあまり離れず、笛を吹きながら進むことに。整然とした杉林の中、緩やかに登る林道は準備運動にほどよく、10時10分(登り始めて32分)で、林道から分岐する厩岳山参道に入る。ここからは鬱蒼と茂った登山道となり、明るい林道からの光の変化は、何となく神々の住む山へ入っていく気持ちにさせられる。緑豊かな雑木林の中にある登山道は、踏跡もしっかりしていて長い信仰登山の歴史を直接肌で感じることができる。
 分岐から緩やかに登ること13分で第一番石仏観音に出会う。ここからは、様々な石仏観音に出会いながらの登山となる。それぞれの石仏には、本尊,御詠歌,宗派,創建などが記載された案内板が掲示してあり、大変興味深い。九十九折れとなる登山道は、信仰と修行(磐梯山そして吾妻山修行の道であった)を目的に、古から多くの参拝者や修験者が踏み固めたため、昨日までの雨が多量に浸み込んでも、泥濘もなくしっかりとした登山道となっている。この時期特有の強い陽射しも、ミズナラやブナの葉に遮られ大変すがすがしく、ほほを伝わる汗も気にせず歩くことができる。それぞれの石仏観音は、苔むしているとともに長い年月で風化が進み、観音像のはっきりしないものなども見受けられる。それにしても、1300年以上も前の奈良〜平安時代初期にこの東北会津の地に馬頭観音信仰が広がり西国から多くの石仏観音が寄進されたことは大きな驚きである。第一番観音を10時23分に第二十番観音を10時58分にそれぞれ通過をする。第二十三番観音から登山道の傾斜もきつくなるものの、木々の空間が開けてくると11時19分(登り始めて1時間41分)に観音堂に到着する。慎重に石仏観音を見てきたつもりであったが、五,十五,十六,二十三,三十番の案内板と石仏観音を確認することができなかった。観音堂は、明治時代に再建されたもので「農耕馬の無病息災と安全守護を祈って」建立されたものである。右に進むと行基清水があり、渇いたのどを潤しながら朽ちかけた観音堂にお参りをする。ここから山頂までが今回のルート上最大の傾斜となっている。滑りやすい岩石や木の根を跨ぎながら確実に歩を進めると、先ほどと同じように木々の空間が開け、11時38分(登り始めて2時間)で厩岳山頂1,261mに到着する。外輪山の一座である山頂は、雄国沼が眼下に広がり西に目を移せば会津盆地が一望できる。さらに、南は猪苗代湖と磐梯山、東は額取山から阿武隈の峰々といった雄大な眺望が堪能できる。2〜3週間前に、ニッコウキスゲが咲き誇り多くの人々が押し寄せた、雄国沼高層湿原の木道も今は人もまばらで閑散としている様だ。いつものように、マイブームであるホットサンドプレートでタマゴホットサンドを作りインスタントスープで大休止。まだ真夏には早いものの無数のトンボが飛びかっている初秋の風景にふと、「一年があっという間に過ぎてしまうなぁ。」と、そんなことを感じながら、ゆっくりと時間をかけて下山をする。
(登り 2時間,下り 1時間18分)






※新協地水(株) 代表取締役

 


[前ページへ] [次ページへ]