福島県内に分布する地盤材料の物理・力学特性について(1) 〜土質材料の物理特性〜

1.はじめに

 今回は阿武隈山地南部の三か所の湧水を尋ねました。阿武隈山地北部は広く花崗岩が分布するのに対して、南部では変成岩が広く分布しています。今回の湧水はこの変成岩からもたらされたものです。変成岩は阿武隈変成岩(竹貫−御斎所変成岩)とよばれ日本列島の形成史を解明するうえで重要な地質体となっています。かつて、この変成岩は先カンブリア時代に広域変成作用を受けその後白亜紀に貫入した花崗岩により接触変成作用を受けたとされていました。しかし、現在では年代がぐっと若くなり御斎所変成岩の変成チャートからジュラ紀放散虫が産出することや竹貫変成岩中のジルコンの変成年代が白亜紀であることなどから、両者は付加体として形成され、ジュラ紀末から白亜紀の初めにかけて変成岩になったとされています。変成岩には馴染みがない方も「鮫川石」はご存知かと思いますが、これは御斎所変成岩の岩石です。

2.湧水への案内と湧水の状況
 耕土の清水

 いわき市から県道14号(御斎所街道)を西へ進み、上遠野を過ぎて皿貝トンネルを抜けると田人町に至る県道134号との交差点になります。そこを左折し南下します。田人支所の手前で県道71号(勿来浅川線)へ右折、すぐに「貝泊の名水 耕土の清水」の標識が目に入ります。道なりに71号を10数km北西方向に進むと標識(写真−1)が道路左側にあります。
 途中貝泊で御斎所街道・才鉢からの県道390号と合流しますが、この県道は崖崩れで現在(2016年11月)全面通行止めです。御斎所街道から湧水までの最短距離ですが注意が必要です。
 湧水は中山間地振興を実践するボランティア団体「貝泊コイコイ倶楽部」が整備したものです。3本のVPパイプから流れ出ていますがそれ以外に直接側溝への流れもあります。清涼で円やかな味わいでした。一帯の地質はマサ化した黒雲母片麻岩の分布域で、湧水は浅く開いた谷地形の下部から流れ出ています。

長寿の強清水

 耕土の清水から県道71号をさらに西へ進み、古殿町との境界を越え、富士山が見える三株山の麓を過ぎると県道134号との三差路に出ます。右折して北上すると大原(だいばら)で県道14号(御斎所街道)と交差します。そこを左折し古殿町の中心街へ向かいます。さらに進み古殿町役場の標識を左折します。鮫川の橋を渡ると庁舎があり、道路は林道(石井草・大作線)へ続きます。途中道幅は狭くなりますが、舗装された走りやすい林道をグングン登っていきます。鎌倉岳八合目大作山登山口駐車場の奥に目指す湧水「長寿の強清水」があります。
 この湧水は103歳で最高齢富士山登頂者(ギネス認定)故五十嵐翁が愛飲していた清水でもあります。水は鎌倉岳山腹の湧水をポンプで駐車場わきの貯水槽まで揚げ、そこから給水しています。
 鎌倉岳はひん岩で構成されていますが分布は狭く、マサ化した片麻岩に浸透した地下水が湧水となったものと推定されます。

延命の清水

 御斎所街道大原交差点を北へ進み、大久田川に沿って県道135号を北上し、各所にある「越代の桜」の表示を辿って一路越代へ向かいます。越代の桜から約800m東に湧水があります。
 「越代」とは、大昔清水を飲んで腹痛が回復した武士がいて、この家では代々山を越えて清水を飲みに来ていたそうです。そこからこの地名となったそうです。また、清水を飲んで自分の延命を願ったことから「延命の清水」と呼ばれています。
湧水は2箇所から出ており、水はね防止のマットや敷石もあり、良く整備された採水地です。
 湧水の涵養地は閃緑岩〜石英閃緑岩の分布域で、これらは白亜紀に阿武隈変成岩に貫入した宮本複合岩体を構成する岩石の一つです。湧水の西側に風化に耐えて残った硬い岩石が観察できます。湧水は浅く開けた谷の末端にありますが、涵養地と推定される面積はあまり広くなく、マサ化した岩石に浸透した地下水の流出だけではなく、地下の亀裂帯の存在も関係していると思われます。


3.湧水の水質

 湧水は現地で水温、流量、pH、EC(電気伝導度)を測定後に採水し、持ち帰ってイオン分析を行い、表−1にまとめました。
 イオン分析結果をもとにトリリニアダイヤグラム(図−4)とヘキサダイヤグラム(図−5)を作成し湧水の性質を考察しました。
 トリリニアダイヤグラムからは、いずれの湧水も同じI型(重炭酸カルシウム型)に分類されます。これは一般的な循環性地下水の性質を示していますがII型に近く、地下水が循環する深度はやや深いと考えられます。
 またヘキサダイヤグラムでも同じような形となり、湧水に含まれる成分はほぼ同様です。耕土の清水では若干Ca2+の量が多く、この湧水はやや停滞した環境にあったと考えられます。
 いずれも溶存成分が少なく、非常に清涼な軟水ということができます。吟醸酒の醸造に最適な水かもしれません。


4.さいごに

 いずれの湧水も道路のすぐ脇にあって採水地が分かりやすく、地元の人々の手できれいに整備されていています。多くの方が地域起こしや地域の資源として湧水を活用させたいと行動されており、この思いを強く感じることができました。




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