福島県内に分布する地盤材料の物理・力学特性について(1) 〜土質材料の物理特性〜

1.岩石試料と試験項目

 表-1.2に示す岩石試料は、福島県内の7地域に分布している中生代三畳紀の堆積岩1試料、中生代後期ジュラ紀の堆積岩8試料、中生代白亜紀の火成岩(深成岩)2試料、新生代新第三紀の堆積岩11試料、新生代新第三紀の火成岩6試料、新生代第四紀の火成岩9試料の合計37試料である。岩種は、砂岩、頁岩、花崗岩、泥岩、凝灰岩、流紋岩、溶結凝灰岩などである。なお、これらの岩石の区分は、岩盤の工学的分類方法1)によって行った。
 試験項目は、表-1.1に示す岩石の含水比試験、岩石の密度試験、岩石の一軸圧縮試験、岩石の圧裂試験、岩石の超音波速度試験などの他土の陽イオン交換容量試験などを行った試料もある。



2.岩石試料の試験結果

 室内岩石試験結果一覧表を表-2.1に示した。この表は、地質年代と岩石の成因に基づく分類別に、中生代の堆積岩、中生代の火成岩、新生代新第三紀の堆積岩、新生代新第三紀の火成岩、新生代第四紀の火成岩の順に示した。

 2.1 物理特性
 (1)含水比(Wn)
 含水比は、新生代新第三紀の堆積岩である風化泥岩と新生代第四紀の火成岩である風化凝灰岩で多く、次いで新生代新第三紀の火成岩である凝灰岩・流紋岩が多い。中生代の堆積岩である砂岩・頁岩と中生代の火成岩である花崗岩は1.0(%)以下の含水比である。 

(2)湿潤密度(ρt)
 湿潤密度は、含水比と同様に新生代新第三紀の堆積岩である風化泥岩と新生代第四紀の火成岩である風化凝灰岩で小さくρt=1.682〜2.269(g/cm³)、次いで新生代新第三紀の火成岩である凝灰岩・流紋岩が
ρt=2.345〜2.599(g/cm³)が大きく、中生代の堆積岩である砂岩・頁岩と中生代の火成岩である花崗岩が
ρt=2.565〜2.816(g/cm³)とさらに大きい。

 図-2.1に湿潤密度と含水比の関係を示した。この図から自然含水比が少ないと湿潤密度が大きく、自然含水比が多くなると湿潤密度は小さくなる傾向が見られる。
 また、地質時代の古い中生代の堆積岩や火成岩は、地質時代の新しい新生代新第三紀や第四紀の堆積岩や火成岩に比べて含水比が少なく湿潤密度が大きい。

 2.2 力学特性
 (1)超音波速度(Vp,Vs)
 超音波速度試験は、P波速度VpとS波速度Vsについて行った。実施した試料は、中生代三畳紀の堆積岩1試料、中生代後期ジュラ紀の堆積岩8試料、中生代白亜紀の火成岩(深成岩)2試料、新生代新第三紀の堆積岩8試料、新生代新第三紀の火成岩6試料、新生代第四紀の火成岩7試料の合計32試料である。以下に地質年代毎の岩石のP波速度VpとS波速度Vsを示す。
 P波速度VpとS波速度Vsともに新生代第四紀火成岩、新生代新第三紀堆積岩、新生代新第三紀火成岩、中生代火成岩、中生代堆積岩の順に速くなる。また、図-2.2に示すようにP波速度VpとS波速度Vsは、Vp:Vs=2:1の関係が見られる。
 図-2.3に示した湿潤密度とP波速度の関係においては、新生代新第三紀の堆積岩を除いて湿潤密度が大きいとP波速度も速くなる傾向が見られる。また、図-2.4に示した湿潤密度とS波速度の関係においても湿潤密度が大きくなるとS波速度も速くなる傾向が見られる。
 図-2.5と図-2.6にはP波速度およびS波速度と換算N値の関係を示した。これらの図から新生代第四紀火成岩のSH-7試料を除くとP波速度,S波速度が速いと換算N値も大きくなる傾向が見られるもののその傾向は明瞭ではない。


 (2)一軸圧縮強さ(qu)
 一軸圧縮試験は、中生代三畳紀の堆積岩1試料、中生代後期ジュラ紀の堆積岩8試料、中生代白亜紀の火成岩(深成岩)2試料、新生代新第三紀の堆積岩11試料、新生代新第三紀の火成岩6試料、新生代第四紀の火成岩9試料の合計37試料である。以下に地質年代毎の岩石の一軸圧縮強さを示す。
 一軸圧縮強さは、新生代新第三紀の堆積岩、新生代第四紀火成岩、新生代新第三紀火成岩、中生代堆積岩,中生代火成岩の順に大きい傾向が見られる。
 また、図-2.7に示した一軸圧縮強さと湿潤密度の関係から湿潤密度が大きいと一軸圧縮強さも大きい傾向が見られる。
 図-2.8と図-2.9には一軸圧縮強さとP波速度およびS波速度の関係を示した。これらの図においては、一軸圧縮強さが大きいとP波速度およびS波速度も速くなる傾向が見られるものの明瞭な関係ではない。
 図-2.10には一軸圧縮強さと換算N値の関係を示した。この図から新生代第四紀火成岩のSH-7試料を除くと一軸圧縮強さが大きいと換算N値も大きくなる傾向が見られるもののその傾向は明瞭ではない。つまり、一軸圧縮強さは,地質時代や岩種によって異なるため,換算N値から一軸圧縮強さを推定することは、困難であることから一軸圧縮試験を行う必要がある。


 (3)変形係数(Es)
 変形係数は、一軸圧縮試験時に計測された歪から算出したものであり、中生代三畳紀の堆積岩1試料、新生代新第三紀の堆積岩11試料、新生代新第三紀の火成岩3試料、新生代第四紀の火成岩9試料の合計24試料である。以下に地質年代毎の岩石の変形係数を示す。
 変形係数は、一軸圧縮強さと同様に新生代新第三紀の堆積岩、新生代第四紀火成岩、新生代新第三紀火成岩,中生代堆積岩の順に大きい傾向が見られる(図-2.11参照)。
 また、図-2.12と図-2.13に示した変形係数とP波速度およびS波速度の関係から変形係数が大きいとP波速度およびS波速度も速くなる傾向が見られる。


 (4)静ポアソン比(ν)
 静ポアソン比は、一軸圧縮試験時に計測された歪から算出したものであり、新生代新第三紀の火成岩3試料、新生代第四紀の火成岩7試料の合計10試料である。以下に地質年代毎の岩石の静ポアソン比を示す。
 図-2.14に示した湿潤密度とポアソン比の関係からは明瞭な相関関係は見られない。
 また、図-2.15には一軸圧縮強さとポアソン比の関係を示した。この図では一軸圧縮強さが大きいとポアソン比が小さく、一軸圧縮強さが小さいとポアソン比が大きくなる傾向が見られるものの明瞭な相関関係ではない。
 図-2.16には変形係数とポアソン比の関係を示した。この図も一軸圧縮強さとポアソン比の関係と同様の傾向が見られるものの明瞭な相関関係ではない。


 (5)引張強さ(σt)
 引張試験は、中生代後期ジュラ紀の堆積岩8試料、新生代新第三紀の火成岩4試料、新生代第四紀の火成岩7試料の合計19試料で行った。以下に地質年代毎の岩石の引張強さを示す。
 引張強さは、新生代第四紀の火成岩、新生代新第三紀の火成岩、中生代の堆積岩の順に大きい。また,図-2.17に示す引張強さと湿潤密度の関係は、湿潤密度が大きいと引張強さも大きくなる傾向が見られる。
 図-2.18に示した一軸圧縮強さと引張強さの関係は、一軸圧縮強さが大きいと引張強さも大きい傾向が見られるものの明瞭な相関関係ではない。
 図-2.19と図-2.20には引張強さとP波速度およびS波速度の関係を示した。これらの図によると引張強さが大きいとP波速度およびS波速度も大きくなる傾向が見られる。
 図-2.21には引張強さと換算N値の関係を示した。この図から新生代第四紀火成岩のSH-7試料を除くと引張強さが大きいと換算N値も大きくなる傾向が見られるもののその傾向は明瞭ではない。これは、一軸圧縮強さと換算N値の関係と同様である。つまり、引張強さや一軸圧縮強さは,地質時代や岩種によって異なるため、換算N値から引張強さや一軸圧縮強さを推定することは、困難であることから、引張試験や一軸圧縮試験を行う必要がある。


3.岩石試験試料の特徴と問題点

 岩石試料は、福島県内の7地域に分布している中生代三畳紀の堆積岩1試料(砂岩)、中生代後期ジュラ紀の堆積岩8試料(砂岩、頁岩)、中生代白亜紀の火成岩(深成岩)2試料(花崗岩)、新生代新第三紀の堆積岩11試料(風化泥岩)、新生代新第三紀の火成岩6試料(凝灰岩、流紋岩)、新生代第四紀の火成岩9試料(凝灰岩、溶結凝灰岩)の合計37試料である。
 試験項目は、岩石の含水比試験、岩石の密度試験、岩石の一軸圧縮試験、岩石の圧裂試験、岩石の超音波速度試験などである。これらの試験から得られた物理特性(含水比、湿潤密度)と力学特性(一軸圧縮強さ、引張強さ、超音波速度)は、地質時代の古い中生代の堆積岩である砂岩・頁岩と火成岩(深成岩:花崗岩)は、含水比が非常に少なく、湿潤密度、一軸圧縮強さ、引張強さ、超音波速度などは大きい。次に新生代新第三紀の火成岩(凝灰岩、流紋岩)、新生代第四紀の火成岩(凝灰岩、溶結凝灰岩)、新生代新第三紀の堆積岩(風化泥岩)の順に含水比は多く、一軸圧縮強さ、引張強さ、超音波速度などは小さくなり、地質時代,岩種によってその特性が異なっている。

 (1)岩石試料の特徴
・岩石試料の湿潤密度は、土質材料と同様に含水比の多少によって異なり、含水比が少ないと湿潤密度が大きく、含水比が多いと湿潤密度が小さい(図-3.1(1))。
・岩石試料の一軸圧縮強さは、新生代新第三紀の堆積岩、新生代第四紀火成岩、新生代新第三紀火成岩、中生代堆積岩、中生代火成岩の順に大きい傾向が見られる。また、湿潤密度が大きいと一軸圧縮強さも大きい傾向が見られる(図-3.1(2))。
・引張強さは、新生代第四紀の火成岩、新生代新第三紀の火成岩、中生代の堆積岩の順に大きい。また、湿潤密度が大きいと引張強さも大きくなる傾向が見られる(図-3.1(3))。
・一軸圧縮強さが大きいと引張強さも大きい傾向が見られるものの明瞭な相関関係ではない(図-3.1(4))。
・P波速度VpとS波速度Vsともに新生代第四紀火成岩、新生代新第三紀堆積岩、新生代新第三紀火成岩、中生代火成岩、中生代堆積岩の順に速くなる。また、P波速度VpとS波速度Vsは、Vp:Vs=2:1の関係が見られる(図-2.2参照)。
・新生代新第三紀の堆積岩を除いて湿潤密度が大きいとP波速度およびS波速度も速くなる傾向が見られる(図-2.3、図-2.4参照)。

 (2)問題点
 一軸圧縮強さと引張強さなどを標準貫入試験結果のN値から推定する試みとして一軸圧縮強さと換算N値の関係(図-3.1(5))、引張強さと換算N値の関係(図-3.1(6))を示した。新生代第四紀火成岩のSH-7試料を除くと一軸圧縮強さや引張強さが大きいと換算N値も大きくなる傾向が見られる。しかし、その傾向は明瞭ではない。このことは、一軸圧縮強さは、地質時代や岩種によって異なるため、換算N値から一軸圧縮強さや引張強さを推定することは、現在のデータ数では困難であることを示すものである。このため、調査時には、調査目的に応じて一軸圧縮試験や引張試験を行う必要があると判断される。


あとがき
 福島県内には、多種多様な地形・地質が分布している。このため、地盤材料も多種多様であり、このような地盤材料の物理特性・力学特性を把握することが今後の性能設計に際して、非常に重要なことになる。
 また、東日本大震災によって地盤に関する過去の情報が失われたことから、地盤工学の一技術者としては,福島県の地盤に関わるデータをとりまとめておく必要があると判断した。土質試験データは、地盤柱状図のようにデータ・ベース化されていないため、特に重要であると判断した。このため、2007年から2012年の間の室内土質試験データ、岩石試験データをとりまとめた。とりまとめた土質試験データは、主に地盤から乱れの少ない方法で採取(シンウオールサンプリングやブロックサンプリング)した試料を用いて、物理試験の他に圧密試験や一軸圧縮試験および三軸圧縮試験などを行ったデータである。
 土質試料は、粘性土、砂質土、礫質土の3種と特殊土に分類される有機質土、火山灰質粘性土、まさ土の3種である。粘性土は12地域16試料、砂質土は7地域10試料、礫質土は2地域3試料、有機質土は5地域8試料、火山灰質粘性土は4地域7試料、まさ土は3地域7試料であり、合計51試料である。試験項目は、土粒子の密度試験、土の含水比試験、土の粒度試験、土の液性限界・塑性限界試験などの物理試験の他に土の水素イオン濃度試験、強熱減量試験、有機物含有量試験、保水性試験などを行った試料もある。力学試験は、土の圧密試験、一軸圧縮試験、三軸圧縮試験、繰返し三軸試験である。
 これらの試験結果は、軟弱地盤解析、堤体の安定計算、斜面の安定計算などに用いたものであり、室内土質試験結果が無いと行えないものである。
 岩石試料は、福島県内の7地域に分布している中生代三畳紀の堆積岩1試料、中生代後期ジュラ紀の堆積岩8試料、中生代白亜紀の火成岩(深成岩)2試料、新生代新第三紀の堆積岩11試料、新生代新第三紀の火成岩6試料、新生代第四紀の火成岩9試料の合計37試料である。岩種は、砂岩、頁岩、花崗岩、泥岩、凝灰岩、流紋岩、溶結凝灰岩などである。
 試験項目は、岩石の含水比試験、岩石の密度試験,岩石の一軸圧縮試験、岩石の圧裂試験、岩石の超音波速度試験などの他土の陽イオン交換容量試験などを行った試料もある。
 これらの試験結果は、斜面の安定計算、切土のり面の検討、掘削難易度の検討、上下水管渠の掘削検討、橋台・橋脚の基礎検討、トンネル坑門・坑口の検討などに用いたものであり、室内岩石試験結果が無いと行えないものである。
 現在、実務においては、標準貫入試験結果のN値を用いて、湿潤密度や強度定数を推定することが行われている。今回とりまとめた土質材料の51試料と岩石材料の37試料において、N値との相関についても考察を加えた結果、土質材料の強度定数(c,φ)や岩石材料の一軸圧縮強さ、引張強さなどについてはN値との相関については明瞭ではないとの結果が得られた。このため、調査目的に応じて室内土質試験や岩石試験を実施して設計に供する必要がある。また、今回データをとりまとめた試料数が少ないこともあり、今後も引き続き土質試験データ、岩石試験データを収集・とりまとめてデータ・ベースを構築していく必要があることを痛感した。
 おわりに、試料採取や室内土質試験および岩石試験を行っていただきましたスタッフに感謝の意を表します。


<参考文献>

1)岩盤分類基準化委員会:新制定地盤工学会基準・同解説 岩盤の工学的 分類方法(JGS3811-2004),2004
2)地盤工学会編:地盤材料試験の方法と解説,2009年11月25日



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