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 前号で第16回を迎えた、『私の山紀行』。弊社 社長の佐藤が、毎号淡々とした語り口で山登りを紹介しておりますが、ここでひといき。どうして山登りするようになったの??一体どれくらいの数を登っているの??と素朴な疑問をぶつけてみました。数年前から空前の登山ブームが巻き起こっておりますが、今後、山登りしてみたいなと思っている方には、よきアドバイスとなれば光栄です。筆者も実は登山にトライしようかなと毎年足踏みしているところ。登山の教習所があるとすれば、こちらは学科でしょうか。今後は初心者向けの実技ツアーもあるといいですね。 めざせ、山ガール!


蓬田:よろしくおねがいします。いつも清々しく登山された話ばかりなので、こぼれ話や失敗談など、登山がより身近に感じるようなお話をお願いします。
まず、初めての登山はいつで、何歳のときですか?

佐藤:2000年7月に安達太良山※1に登ったのが、記念すべき第1号です。ちょうど40歳のときでした。
蓬田:なるほど。意外に歴史は浅いですね。それから登山歴は13年間になりますかね。総計何回登りましたか?
佐藤:延べ523回登りました。昨年は42山を登ることができました。
蓬田:昨年だけで42!? 休日のほぼ半分は山の上という感じですね。特に多く登った山はどこですか?
佐藤:厳密には細かくカウントしていませんが、安達太良山と蓬田岳※2に一番多く登っていますね。両方とも、登山口が自宅から車で1時間以内の近距離にあるということ。また、様々なコースがあり、手軽に充実感を得られることが魅力です。休みは雨が降ろうが風が強かろうが『とりあえず山へ行こう』というのが私のスタイルです。
蓬田:そもそもの山を登ろうと思ったきっかけは何だったのでしょう。
佐藤:私が弊社の営業部長となった39歳(平成11年)のとき、まさに日本は不況の真っただ中でした。売上確保に日々奔走し、休日は仕事でたまった心身の疲労を癒すべく、いつもゴロゴロして過ごしていました。ストレス解消といえば飲み会。体重は増え、肝機能は悪化、典型的な中年オヤジとなってしまいました。それを見るに見かねた妻が『ねぇ、気分転換に山に行こうよ。』誘ってきました。『疲れるから嫌だ。』と何度か断り続けたものの、さすがに申し訳なく思い、一度やってみるか。と重い腰を上げたのがきっかけです。
蓬田:では523回の登山は奥様とお二人で?
佐藤:数回のツアー登山を除けば、7割が妻とで、残りが単独行です。
蓬田:ご夫婦で共通の趣味。ストレス発散もできて、夫婦円満。良いことずくめですね。
佐藤:そうですね。山頂に立つと、とてもさわやかな気分となります。体中が達成感で満ち溢れます。頂上からの眺めの素晴らしさに、また登りたいという気持ちが湧き上がります。下山後の温泉とビールもまた格別です。また、登山のおかげで、20数年手放せなかったタバコとも縁を切ることができました。
蓬田:山登りで、しんどい・大変だと感じることはないのですか?
佐藤:もちろんありますよ。毎度、登山口をスタートして15分から30分くらいは、『どうしてこんなにしんどい思いまでして登るかなぁ、俺は。』と後悔の念に苛まれますが、時間とともに呼吸のペースも掴むことができます。自分がいるべき場所に帰ってきたような気がします。
蓬田:山で一番好きな季節はいつですか?
佐藤:いつが一番というのはありませんね。私にとってはどの季節も登山に適しています。特に、季節の変わり目に出会えた時は感動しますね。3月の低山で春の息吹が感じられたときは、モノクロの世界がカラーに一遍したような感覚となります。
蓬田:なるほど。それは山登りしないと体験し得ない感動ですね。さて、わたしもトライ!といきたいところですが、私のようなビギナー向けにはどこがオススメですか?
佐藤:私にとっても初登山となった、安達太良山がオススメです。ゴンドラを利用し、薬師岳山頂駅(概略図参照)から標高差350m。私の初登山の登りのタイムが1時間10分でしたので、それほど苦にはならないと思います。ゴンドラで途中まで行けますから、子供連れでも楽しく登れると思います。
蓬田:ゴンドラリフトの出発点である、あだたら高原スキー場まで、郡山市内から車で1時間ほどですから、お休みに日帰りでファミリー登山にはうってつけですね。実は私、小学生のときに安達太良山には家族で登ったことがあります。父が高校のときに山岳部だったので、いいところを見せようとはりきって家族を連れて行きました。その時は強制的だったので、イヤイヤでしたが。今なら楽しめそう。
佐藤:山開きが行われる5月から雪が降る前の10月頃が登りやすい時ですね。季節もいいですし、名山は大勢の人で賑わっています。ちょっとしたアクシデント時でも、一人じゃないということが安心につながります。
蓬田:今まで登った山で一番遠方だとどこですか?また、一番高い山は?
佐藤:遠いところだと、北海道の大雪山。標高が高いところは、北アルプス南部の西穂高岳※3。西穂高岳はツアー登山でしたが、慣れない車中泊に苦労しました。
蓬田:ほかに失敗談はありますか?
佐藤:登山口まで行かないと気が済まない性格なので、無駄な時間を費やすことが多々あります。後は道迷い(道に迷うこと)ですね。できるだけ冷静になり、周囲を見渡し、記憶にあるところまで戻るようにしています。
蓬田:近々登る予定の山は?生涯の目標とする山は?
佐藤:ゴールデンウィークを利用して、燧ケ岳※4と浅草岳※5に行く予定です。今年も残雪がたっぷりあって、春山を満喫できそうです。目標としては。深田久弥※6の『日本百名山』の内、25山を登っているため、これからの楽しみとして、時間をかけてすべての山に登っていきたいと考えています。
蓬田:これからも75山。楽しみですね!ここで、実際に登山するときのことについて、お聞きしたいと思います。まずは、荷物ですが。
佐藤:荷物の内容について、表にしました。ひと揃えにした状態がこの写真です。
蓬田:率直な感想ですが、予想していたよりは少ない気がします。初登山に向け、これからひとつずつ買い揃えていくとすると、備品の費用はどれくらいかかりますか。
佐藤:13年かけて集めた物なので、費用はいくらかかっているかは不明ですが、ザックとトレッキングシューズは用途別に3種類ずつ持っているので、壊れた時などの更新を考えると、それなりの金額かもしれません。荷物の総重量は平均で10〜15kg程度です。
蓬田:一度の登山でかかる経費にはどのようなものがありますか。
佐藤:日帰り登山であれば、食料代と移動のためのガソリン代くらいです。
蓬田:登山で気を付けていることはなんですか。
佐藤:前日に深酒しないようにすることが、私にとって最大の注意点です。ほかには、私はアレルギー体質のため、虫刺されや漆などのかぶれにも十分注意をしています。
蓬田:二日酔いでは、大変そうですね。日々のトレーニングはしていますか。
佐藤:特にしていませんが、なるべく普段歩くことと、山に行き、回数を積み上げることがトレーニングと考えています。
蓬田:登山時のルールはありますか。
佐藤:登山道の両脇には植物が茂っていることが多いですが、そこに踏み込まないこと。踏み込んでしまうと、植物を枯らしてしまい、山の荒廃の原因になってしまいます。石混じりの斜面を通過する際には、石をけり落とさないように注意しないと、下に人がいた場合は非常に危険です。ゴミを残さない。木の枝や植物を持ち帰らない。大音量でラジオを聴いたりしないなど、当たり前のことですが、このようなマナーのない登山者も少なくありません。
蓬田:自分たちのことだけじゃなく、自然も守っていかないといけませんね。最後に、登山に興味のある方にメッセージをお願いします。
佐藤:山登りは、スポーツのカテゴリには含まれているものの、相手と競争することが目的ではありません。自然の中に身を置き、自分自身を見つめなおし、物事を冷静に考える行為だと考えています。自然に親しむことで、季節の変化を肌で感じたり、四季折々に咲く花の名前に興味が持てるようになりました。登山は私の活力の源です。
登山家 野口健氏の『私は、山から多くのことを学んできた。私にとって山は、学校であり、先生だった。これからも山に登って、前へ前へ進んで行きたい。』という言葉に共感しています。

1 安達太良山(あだたらやま)は福島県中部にある火山である。日本百名山およびうつくしま百名山に選定されている。沼ノ平周辺の荒涼とした火山の景観がみどころ。また、ガンコウラン、クロマメノキなどの高山植物を始めとし、ヤエハクサンシャクナゲ、サラサドウダン、レンゲツツジなどが咲き誇り、田中澄江著「花の百名山」の一座にも選ばれている。この火口を中心とする優れた景観と、高山植物を保護するため、磐梯朝日国立公園に指定されている。

※2 蓬田岳(よもぎただけ)は、福島県中部の石川郡平田村にあり、三角形の端整な山容である。東北百名山のひとつで別名:平田富士とも呼ばれる。日本武尊(倭建命)の神話が残る伝説と信仰の山でもある。国道49号線沿いにある為に車でアクセスし易すく、登山道もよく整備されおり気軽に登ることができる。1985年(昭和60年)にはハイキングコースの緑が「ふくしま緑の百景」に選定されている。4月下旬から5月中旬まで見頃となる芝桜の開花時期には近年「芝桜まつり」が開催されるようになり賑わいを見せる。

※3 西穂高岳(にしほたかだけ)は、長野県松本市と岐阜県高山市にまたがる標高2,909 mの飛騨山脈(北アルプス)南部の山である。山域は中部山岳国立公園に指定され花の百名山に選定されている。

※4 燧ヶ岳(ひうちがたけ)は福島県にある火山。山頂は南会津郡檜枝岐村に属する。尾瀬国立公園内にあり、至仏山とともに尾瀬を代表する山でもある。東北地方最高峰(2,356m)であり日本百名山に選定されている。

※5 浅草岳(あさくさだけ)は、越後山脈に位置し、新潟県魚沼市、福島県南会津郡只見町にまたがる第四紀火山である。標高1,585.5m。一等三角点「浅草岳」設置。越後三山只見国定公園に属する。

※6 深田 久弥(ふかだ きゅうや、1903年3月11日 - 1971年3月21日)は、石川県大聖寺町(現在の加賀市)生まれの小説家(随筆家)及び登山家である。旧制福井中学(現・福井県立藤島高等学校)から第一高等学校に進み、文芸部で堀辰雄や高見順と知り合う。また山岳部員として山にも親しんだ。俳号は九山。山をこよなく愛し、読売文学賞を受賞した『日本百名山』は、特に良く知られている。1971年(昭和46年)3月21日の登山中に、茅ヶ岳山頂直下で脳卒中のため68歳で死去。その場所には、『深田久弥先生終焉の地』と表記された石碑が立つ。

 


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