特集 住宅地盤
戸建住宅の地盤調査についての現状と今後
佐藤 正基
(RCCM―土質及び基礎、地質調査技士)

1.はじめに
 この4月から「住宅品質確保の促進等に関する法律」(略称「品質確保法」)が施行される。この法律によると、4月より新築される住宅に問題が発生した場合、補償・賠償・売買契約の解除などが請求されることになる。このような場合に備えて(財)住宅保証機構から住宅に対する瑕疵保証制度を受けることが必要となってくる。瑕疵保証制度とは、瑕疵担保責任に特例を設け瑕疵担保期間を最低10年間義務付けることにより、住宅取得後の暮らしの安全を図るものである。
 一般に戸建住宅の敷地面積はせまく、計画建物の重量も軽量であるため、建物の設計・施工業者は地盤の調査に関心が薄くなる傾向にあった。4月以降施行される「品質確保法」では基礎も対象となってくる。基礎が対象ということは基礎底面下の地盤の状態を十分に把握し設計に反映させるということである。地盤の状態を把握しないで建築を行い、思わぬ不同沈下が発生して建物に支障をきたし深刻な事態に陥っていることをしばしば耳にする。
 たとえば新築する際に地盤調査を行って基礎地盤の状態を十分に把握して基礎の仕様を決定した場合、仮に不同沈下が発生したとしても原因追求が早いことと、住宅保証機構が補償を行うため修繕費用の大部分が保険から支払われるのに対し、地盤調査を行っていない場合、不同沈下の原因がどこにあるのかを追求するのに時間がかかるとともに修繕費用を誰が支払うかなどの紛争処理に大きな時間と経費が損なわれることになる。このように「品質確保法」の施行にあたっては、住宅基礎地盤について調査を実施することが条件となってきており、我々地盤調査会社が重要な役割を果たすこととなる。

2.地盤調査の現状
2-1. 地盤調査の方法について
 戸建住宅の基礎は、一般に基礎幅が小さく接地圧による地中応力の主な分布は基礎底面下1.5〜2.0mの範囲となる。このため建築物位置において、この範囲の地盤が均質であるかどうかを確認することがなによりも大切である。さらにこの範囲の許容地耐力を決定し安全な基礎設計をすることが必要である。
 住宅の地盤調査を実施する場合、建築費用が2000万円〜3000万円程度、工事期間が50〜70日程度であることから、調査方法に要求される条件も限定される。そのため次のような調査方法が望ましい。
  1. 調査費用が安い→10万円以内
  2. 調査開始から結果が得られるまでの期間が2〜3日であること
  3. 少々固い地盤でも5m程度まで調査ができること
  4. 軽量小型で、運搬が容易なものを使用すること
  5. 取り扱いが簡単であること


 一般的な調査方法を挙げ上記の条件と対比させると表-1のようにまとめられる。

表-1 一般的な地盤調査方法と満足度
必要条件 
\試験法法
標準貫入試験 スウェーデン式
サウンディング試験
コーンペネ
トロメーター等
平板載荷試験 ハンドオーガー
調査費用が
安い
× ×
調査期間が
短い
× ×
深度5m可 × ×
土質の判断
ができる
× ×
軽量小型で
ある
× ×
取り扱い方
が簡単
× ×


 さらに地盤調査で明らかにしなければならない要素についてまとめると次のようになる。
  1. 土の種類(砂や粘土とか)を判別すること。
  2. 土の強さ(重量を支える力を評価する要素)を求めること。
  3. 土の圧縮性(沈下や地盤変形の原因)をつかむこと。
  4. 地下水位(液状化や支持力を評価する要素)を測定すること。
 このように地盤調査とは、対象となる範囲の土を手で直接触れ、観察して支持力特性・圧縮性を判断することが重要であり、上記の4つの要素を十分に調査する方法としては標準貫入試験を併用した調査ボーリングがもっとも優れた調査方法であるものの、金額的に高いため戸建の地盤調査方法としては特別な場合を除いて実施されていないのが現状である。現在戸建住宅の地盤調査で多く使用されているのは、スウェーデン式サウンディング試験次いでオランダ式二重管コーン貫入試験である。それぞれの試験方法について以下に述べる。

・ スウェーデン式サウンディング試験
  スウェーデン式サウンディング試験は、荷重による貫入と回転貫入を併用した原位置試験であり、土の静的貫入抵抗を測定し、その硬軟または締まり具合を判定するとともに土層構成を把握することを目的としている。この試験は密な砂質土層、礫・玉石層、もしくは固結土層等には適用できない。
・ オランダ式二重管コーン貫入試験
  オランダ式二重管コーン貫入試験は、コーン貫入抵抗を求め、原位置における土の硬軟・締まり具合または地盤の土層構成を推定する。この試験は、地盤中にアンカーをとり、その反力を利用して貫入先端を静的に圧入するため、極めて密な砂層、砂礫層、玉石層などは適用できない。

 いずれの試験方法も貫入抵抗から地盤の支持力度を推定(具体的な内容については後述する)するため精度の点で難はあるが表−1に示す必要条件をある程度満足することから使用されている。

 我社においては、戸建住宅の地盤調査を実施し始めた昭和57年からスウェーデン式サウンディング試験により地盤調査を行っている。この理由は、土を採取できないという短所があるものの必要条件を全て満足していることと、地盤調査対象地が台地・低地と様々な地形からなり、構成する土質の変化が著しく礫を混在する地盤が多いためである。さらに盛土材料として使用される土についても必ずといっていいほど礫が含まれている。このことから種々の地層に適用可能であるスウェーデン式サウンディング試験を採用している。また、スウェーデン式サウンディング試験は回転貫入することによりロッドを通して手に伝わってくる感触と、地中から上がってくる音によっておおよその土質を判断できる長所もある。しかし、人力操作で行っていた頃は地中の硬い地盤につき当たると、回転作業がかなりの重労働となり貫入困難になる場合が多くあったが、電動の自動回転による試験機を導入してからはこの問題も大幅に改善された。日本建築学会発行の「小規模建築物基礎設計の手引き」でもスウェーデン式サウンディング試験を推奨しているようである。その一文を抜粋し以下に記す。

(2)沖積層・埋め立て地など軟弱な地盤の場合
 建築物の四隅の位置で試験掘りとサウンディング調査を行う。サウンディング調査の方法は、スウェーデン式が便利である。調査の深さは、試験掘りが基礎の底面付近までとし、サウンディングの深さは、スウェーデン式の限度である10mで十分である。

 こうしたことから現在の段階では、土を手で直接触れ観察できる試験掘りとスウェーデン式サウンディング試験を併用した調査方法が、戸建住宅の地盤調査方法として望ましいと考える。

2-2. 許容地耐力の推定について
 地盤の許容地耐力を推定する場合、スウェーデン式サウンディング試験結果で得られた貫入抵抗からN値を換算して支持力度を求めている。支持力度を求める公式には、日本建築学会支持力式、テルッアギーの支持力式および簡易式(住宅都市整備公団)がある。この中で日本建築学会支持力式は、テルッアギーの支持力式を実用化したもので実務者には便利である。

【 建築学会支持力公式 】
公式


【 簡易式 】
<N値と長期許容支持力の関係(単位:tf/m2)>

・砂質土・・・・・・・・qa = 0.8N(マサ土を含む)
・粘性土・・・・・・・・qa = N
・洪積粘性土・・・・・・qa = 2N
qa:長期許容支持力(tf/m2)
N:基礎底面より下方、最小基礎幅2倍区間の平均N値〔1tf/m2=9.81kN/m2
 戸建住宅の地盤支持力度の判定については簡易式が多く使われている。また、簡易式の手順からも分かるように同じN値であっても砂質土と粘性土では地耐力が異なる。さらに同じ粘性土で同じN値であっても沖積粘性土と洪積粘性土で地耐力が異なることになる。したがって、戸建住宅の地盤調査に当たっては、単に地盤の抵抗値から許容地耐力を推定し基礎仕様を決定するというのではなく、あらかじめ地形・地盤状況を地形図などで十分に調査し敷地の地形を判読しておくことが必要である。住宅の密集する地域では、周囲の状況を把握しがたいので、敷地周辺の道路の勾配等を観察することが重要な手がかりとなり、さらに敷地付近に川が存在するかどうかも確認することが必要である。切盛造成地においては、敷地周辺の擁壁の高さによって盛土厚さおよび盛土と切土の境界を推定することができる。盛土造成地においては、盛土材料の質と経過年数を確認することも必要である。また、既存建物解体後の敷地においては地盤中に基礎の支持地盤として好ましくない塵芥等が混入していないかどうか確認する必要がある。
 戸建住宅で不同沈下などのトラブルが生じている地盤は、主に次のような地盤条件の場合である。

  1. 腐植土層等が堆積している軟弱な沖積谷底地形での盛土造成地で、軟弱地盤の圧密沈下が継続している地域。
  2. 沖積低地と洪積台地の境にある盛土造成地。
  3. 盛土造成地で盛土が新しい敷地。
  4. 盛土造成地で盛土の厚さに変化がある敷地。
 また、参考までに敷地と発生するトラブルについてまとめたものを以下に示す。

図-1 戸建住宅で起こりやすい基礎の事故と立地関係
公式
  1 2 3 4 5 6 7
起こりやすい
事故
古い地盤の宅地
(建替え等)
池・沼等へ埋土して
出来た土地
盛土厚さが同じ宅地 盛土の厚さが大きく
異なる宅地
切・盛宅地 切・盛宅地
小さな盛土 大きな盛土
建物の不同沈下 × × ×
基礎コンクリートの
ひび割れ
× ×
宅盤の陥没 × × × ×
土留め・擁壁に
おける沈下、
ハラミ等の変状
×
×:高い確率で発生する
△:時々発生する
○:ごくまれに発生する
◎:ほとんど発生しない


3.おわりに
 戸建住宅の地盤調査は、現地で正確に貫入抵抗を測定することと地形・地盤の状況を判読することがきわめて重要であり、どちらかが欠けても十分な地盤調査とはいえない。
 先日、私自身が実際に係わった地盤調査において次のような事例があったので紹介をする。建築される敷地は、沖積低地に均等に1.5mの厚さで盛土が施工してあり、盛土材料は比較的良質な砂質土で10年以上経過しているということであった。他社で行った地盤調査のデーターをみると盛土以深の土質は、3mまでやや締まった礫を混在する砂質土であり、3mから約0.5mの厚さで粘土層をはさんでおり、粘性土以深が砂礫層であった。この地盤状況から地盤調査を行った会社が提案した基礎工法は砂礫層まで打ち込む杭基礎とのこと。工務店の社長は、本当に杭が必要かどうかの判断に困り当社に連絡をしてきた。先に述べた地中応力の話をして、標準基礎で大丈夫との判断をすると、建主に基礎工事の増額分の話をする前で良かったといって帰っていかれた。
 今後、法律によって住宅の供給者は新築住宅について10年間の瑕疵保証をすることが義務づけられることから、今回の事例のように地盤を過小評価することで、安易に地盤改良や基礎杭を提案する住宅供給者または基礎工事業者が増加することが懸念される。不同沈下を防止し、安全で住みよい家を作ろうとの考えから基礎を強固なものとしようとすれば基礎にかかる費用が増大する。公共事業でもコスト縮減が叫ばれる中、戸建住宅だからといって安易に考えないで、熟練した地質調査員が調査・助言を行う体制のある地盤調査会社に依頼することをお勧めする。

写真(1) 不同沈下の発生例
公式
地盤調査を実施しなかったため地盤を正しく判断できず不同沈下が発生



写真(2)全自動スウェーデン式サウンディング試験機
公式

※新協地水(株) 営業部 部長
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