特集 住宅地盤
土地に関するチェックポイント
(1)土地と住宅は移動することが困難な“不動産
住宅・工場・事務所など、あらゆる建物は土地の上に建てられています。土地を含めたこれらの建築物は、場所を移動することができず、この意味で不動産といわれていますが、個人や中小企業にとっては、所有する資産の大部分がこれらの不動産によって占められていることはめずらしくありません。
特に一般の勤労者にとっては、土地を取得して住宅を建てることは、生涯最大の事業といって良いでしょう。一度住宅を建ててしまえば、建てなおしたり、移転したりする事は大変難しいのが実情です。
テレビや新聞では機能的・快適・高耐久をキーワードにした住宅の宣伝が繰り広げられ、新聞の折込みの中では、交通の便と低価格を売り物にした分譲住宅地の広告が溢れています。これらの宣伝や広告の中では、“土地と住宅に関するリスク”(「地盤リスク」と仮称しておきます)について全く触れられていないのが特徴であり、不動産の評価にあたってもこれらの要素はほとんど取りこまれていないのが実情です。
住宅用あるいは工場・事務所用として土地を取得する場合、通常は不動産としての評価項目に含まれない「地盤リスク」についても十分チェックする必要があります。
不動産評価上、安く購入できる土地であっても、建築基礎工事に多額の費用を要したり、自然災害を受けやすかったり、地盤汚染対策を行なわなければならなかったりすると、結果的に大変高い土地になったり、土地利用を放棄せざる得なくなったりする危険があるからです。
新たに土地を取得しようとする場合、あるいは既に所有している土地についても、「地盤リスク」についてチェックしてみることは、資産リスクを回避するためにも重要なことではないでしょうか。
「地盤リスク」を詳細にチェックすることは専門家の力を借りなければできないことですが、最初から専門家の力を借りるには相当のお金がかかることなので、専門家に相談する前に、素人でもできるチェックの仕方についてまとめてみます。
(2)土地と住宅に関する主なリスク
チェックすべきリスクにはさまざまなものがあり、大きく自然条件に関するもの、社会的条件に関するものに分けることができます。このうち、社会的条件に関するものは、その多くが不動産の評価項目に含まれ、あるいは誰でも直接見て理解する事ができるものです。
ここでは、自然条件に関連してチェックすべき主な項目としては次のようなものが挙げられるでしょう。
- 自然災害の危険
- 地震、地滑り、洪水・土石流・山崩れ崖崩れ、火山噴火等
- 建物の変形・変状の危険
- 地盤沈下、不同沈下、盤膨れ、基礎破壊等
- 地盤汚染の危険
- 産業廃棄物などの埋めたて、有害物質の地下浸透・鉱毒等
- 自然環境
- 見晴らし、風景、騒音、異臭、日当たり、風通し等
- その他
- 地下水・地熱・有用鉱物などの地下資源、庭土の良し悪し等
このうち特に重要と思われるのは1〜3についてです。十分なチェックなしに土地購入・住宅建設を進めた結果、資産としての価値が台無しになったり、場合によっては生命や健康さえも危険にさらされる事態を招きかねません。
(3)リスク評価に関連する事項
簡単に入手できる情報を元に、これらのリスクを大雑把に評価し、回避する方法を考えてみましょう。
自然災害・地盤変状・地盤汚染のリスク評価に関連する情報としては次のようなものを上げる事ができます。これらは、その気になりさえすれば比較的簡単に入手する事ができるものです。
1)その土地の地形上の位置
- 自然地盤の場合…山地・丘陵地、台地、扇状地、低平地、火山山麓など
- 人工地盤の場合…切土、盛土、埋立地など
2)その土地の空間的な場所…河川際、海岸、崖下、崖上、谷底、急傾斜地など
3)その土地の履歴
- 以前の土地利用…水田、畑、荒地、山林、工場、埋立地、坑道・防空壕の上など
- 造成後の経過時間
例えば、阪神淡路大震災の被害は次のような場所に特徴的な大被害が発生しています。
海岸の埋立地…地盤の液状化による被害
海岸近くの低平地…震度7という振動被害
山腹の造成地…地滑り、土塊移動、落石、崖崩れ
山麓扇状地…後日の集中豪雨による土石流被害
このほか、地盤に起因する障害の多くは、その土地の条件に関連しています。
広域的な地盤沈下は、都市部や工業地帯に隣接する、低平地に発生します。
不同沈下は造成地地盤(特に盛土や埋立地)に発生しやすいです。
地盤汚染の発生は、廃止鉱山・工場跡地やその周辺、埋立地などに限られます。
切土地盤は一般にリスクは少ないですが、ある種の泥岩では盤膨れによる地盤の盛り上がりが発生します。
このように、その土地の地形・場所・履歴を調べますと、どのようなリスクがあり得るかについて大まかに予想することができます。その上に立って、専門家に相談したり、必要な調査を実施するかを判断することができます。
(4)地形とリスク
これらのリスクを評価するうえで最も基本になるのは、その土地・住宅がどのような地形上に位置するかということです。以下(図-1・図-2)に模式的な地形区分図を示しますが、この中のどこに位置するかをまず把握しなければなりません。
図-1 山間盆地の地形模式図
A:河床 |
B:低地帯 |
C:扇状地 |
D:中位段丘 |
>台地 |
E:高位段丘 |
F:丘陵地 |
G:山地 |
H:三日月湖 |
図-2 海岸付近の地形模式図
A:扇状地 |
B:自然堤防 |
C:後背湿地 |
D:三角州 |
E:洪積段丘(台地) |
F:崖錐 |
G:土石流(小扇状地) |
H:海岸砂州 |
I:潟湖( |
J:潟湖跡 |
K:おぼれ谷 |
L:山地 |
※後背湿地帯・・・自然堤防の外側で洪水時に水浸する範囲、通常湿地帯となっている。
※低地・・・・・・河川・湖沼・海に面して、水面よりの比高数m程度の平坦地。
※おぼれ谷・・・・大きな河川に流入する枝谷の下流部で、沼地や湿地帯化している部分。
(5)場所・土地履歴とリスク
その土地が空間的に占める場所の条件と、宅地として提供されるまでの履歴もリスク評価を行なううえできわめて重要なファクターです。
気象災害といわれる、崖崩れや土石流災害の発生もその現場の条件と結びついています。
地震や豪雨・豪雪、台風などの自然災害は、ある範囲の地域においては同じ強度で現れますが、受ける被害は均等に発生するのではなく、場所の条件・履歴によって異なり、被害を受けやすい場所・受けやすい履歴の土地と受けにくい土地があるのです。
とくに、傾斜地を切土・盛土して造成した土地は、住宅基礎に関するトラブルのもっとも発生しやすい場所となっているだけでなく、地震による災害を受けやすいことは阪神淡路大震災や宮城県沖地震で経験しているところです。阪神淡路大震災や宮城県沖地震の災害としては、地震動の強さによる建物の損壊だけでなく、造成した土地が広範囲にわたって流動化したり崩壊して、土地ごと破壊された例が多く報告されています。
(6)土地の条件とさまざまなリスク
リスクの大きい土地の条件について下表にまとめてみます。
表-1 土地と「土地リスク」の相関表
土地の条件\リスクの種類 |
地 震 |
地滑り |
洪 水 |
土 石 流 |
崖 崩 れ |
地盤 沈下 |
不同 沈下 |
軟弱 地盤 |
盤 膨 れ |
噴 火 |
地盤 汚染 |
地形 |
山地・丘陵 |
△ |
△ |
× |
△ |
△ |
× |
× |
× |
|
|
|
台地 |
△ |
× |
× |
× |
× |
△ |
× |
× |
|
|
|
扇状地 |
△ |
× |
△ |
○ |
× |
× |
△ |
× |
|
|
|
自然堤防・砂丘 |
○ |
× |
△ |
× |
× |
○ |
× |
× |
|
|
|
低地・後背湿地帯 |
◎ |
× |
◎ |
× |
× |
◎ |
△ |
◎ |
|
|
|
湖沼周辺低地 |
◎ |
× |
△ |
△ |
△ |
◎ |
△ |
◎ |
|
|
|
谷底平地 |
○ |
× |
○ |
○ |
○ |
△ |
△ |
○ |
|
◎ |
|
火山山麓 |
○ |
○ |
△ |
○ |
× |
× |
○ |
○ |
|
|
|
人工地盤 |
埋立地 |
◎ |
× |
△ |
× |
○ |
◎ |
○ |
◎ |
|
|
|
切土造成地 |
△ |
△ |
× |
× |
× |
× |
× |
× |
○ |
|
|
盛土造成地 |
◎ |
△ |
× |
× |
○ |
× |
◎ |
|
|
|
|
切盛り混合 |
○ |
△ |
× |
× |
× |
× |
◎ |
|
○ |
|
|
場所 |
平坦地 |
△ |
× |
△ |
× |
△ |
|
|
|
|
|
|
傾斜地 |
△ |
△ |
× |
× |
◎ |
|
|
|
|
|
|
崖上 |
○ |
× |
× |
× |
◎ |
|
|
|
|
|
|
崖下 |
○ |
× |
× |
× |
|
|
|
|
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河川際 |
△ |
|
○ |
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海岸 |
◎ |
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× |
経歴 |
水田 |
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× |
畑 |
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|
× |
山林 |
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△ |
荒地 |
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◎ |
工場跡地 |
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○ |
埋立地 |
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|
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|
|
◎ |
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|
|
◎ |
鉱山跡地 |
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|
○ |
○ |
|
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◎:リスクが大きい
○:リスクがある
△:わずかに危険
×:殆どリスクはない
上表に示されるように、低地帯・後背湿地帯、埋立地においては、自然災害のほかに地盤沈下や基礎の沈下・破壊のリスクが大きいです。また、造成地(とくに盛土地盤)は、元の地形に関わりなく、リスクの大きい土地であることが分かります。
工場跡地や鉱山跡地では、有害物や有毒物によって汚染されている危険があり、そのような場合は健康被害が心配されるだけでなく、除去対策の実施を求められる場合があり、せっかく入手した資産がマイナスの資産に化ける可能性もあります。
ここに取り上げたような土地は全部がリスキーであるわけではありませんが、専門家でなければリスクの有無を判断することは困難です。このような条件の土地の取得を計画する場合は、まず、信頼できる専門家に相談されるようお勧めします。
※新協地水(株) 代表取締役社長