寄 稿 
地域特性を踏まえた水需要予測
福島県郡山市西ノ内1丁目17番11号
(株)共立コンサル 計画課長 
宮嶋 昭

1.はじめに
 上水道事業計画の立案を日常の業務としている関係から、水の需要予測について述べたいと思います。
 事業計画を立案しようとする時、まず一番最初に問題となるのが、一体どれだけの水を必要としていて、どこで水を確保する事が可能なのかということになります。水源開発が自然を対象としているのに対し、水需要の予測は地域を対象にしており、社会・経済の動向が反映することから常に不確実性を内蔵しているのが実状であります。
 需要予測を取りまとめますと、「将来のことなど分からないのによく水需要をまとめられますね」と言う御批評を頂くことがありますし、またどの程度の水需要すなわち事業規模を念頭に置けば良いのか思慮されていますので、予測の結果を参考になされ、「ここ暫く水は足りるのだね」とか、「そろそろ水源開発が必要なんだね」等々のお話しにもなりますので、意思決定の参考程度にはなっているのかなと考えると伴に、仕事の責任を痛感する次第であります。
 不確実性を内蔵しているとはいえ、需要予測は予言ではありませんので、あくまで根拠を基に行います。現在よく使われます予測の手法としては、次の様な方法があります。
  1. 時系列傾向分析
  2. 回帰分析
  3. 要因別分析
  4. 使用目的別分析
  5. その他
 これらを用いて、用途別に推計する手法、口径別に推計する手法等々がとられています。いずれの方法を用いるにしても、需要予測にあたっては、都市の特性や発展動向を合理的に反映させなくてはいけませんので、予測の対象地域(都市)がどの様な特性をもっているのかが予測の基礎となります。
 需要予測を始める場合、私が一番大切にしていることは、対象とする市町村の市街地と周辺を一通り巡ることであります。そしてその地域の特性といいますか、特長を肌で感じてくるようにしています。そして感じたことを数値で表現するために必要な統計資料を集め分析を試みます。

2.地域特性をどの様に分析するのか
 需要予測の対象地域を一巡しますと、工場の多い地域だったり、商店街に活気のある地域だったり等々、漠然とした印象を受けるわけですが、広域的に見た場合どの様な位置付けの地域になっているのか、どの様な方向に変化しつつあるのか等を数値で表現するために、主成分分析(principal component analysis)と呼ばれる手法を用いて表現しています。
 この手法は、「地域特性を表す複数の要因の中から、互いに無関係な小数個の総合特性値を抽出し、この総合特性値により地域の類似性に注目した分類を行うとともに、地域特性の分類を行う」(水道計画のための水需要予測の実際 小泉明著)というものです。

3.福島県内において主成分分析を適用した事例
 表−1に示す平成2年のデータを用い、主成分分析を行った結果について述べます。(因子負荷量散布図・因子得点散布図を参照)表−1のデータを見るだけでは、特に何も見えてきませんが、因子負荷量散布図を見ますと、第1主成分でZ1は正の値で大きいほど都市(商業)活動が活発であることを示し、第2主成分Z2は正で大きいほど工業活動が活発であることを示し、各々負が大きいほど農業活動が活発であることを示すファクターであると解釈できます。
 次に、第1主成分Z1と第2主成分Z2で表わされる総合特性値(因子得点)による市町村の分類結果を因子得点散布図に示します。この地域の各市町村は、大きく4つのグループに分類することが可能であることがわかります。
第Iグループ
特に都市活動が活発な市町村
(1,2)
第IIグループ
都市活動が活発な市町村
(4,7,12,14,16)
第IIIグループ
農業・工業活動が活発な市町村
(10,11,22)
第IVグループ
特に農業活動が活発な市町村
(3,5,6,8,9,13,15,17,18,20)


表-1(生データ)
表
福島県統計年鑑-H2・H3年 国勢調査報告-H2年10月1日

表 表
総人口(X1) 出展数(X10)
世帯数(X2) 商業従業者数(X11)
世帯人員(X3) 年間販売額(X12)
農家人口(X4) 第3次産業人口(X13)
耕地面積(X5) 宅地面積(X14)
農業粗生産額(X6) 普及率(X15)
工業事業所数(X7) 年間給水量(X16)
工業従業者数(X8) 財政歳出合計(X17)
製造品出荷額(X9)  

図-1 因子負荷量散布図
(1)白河市 (12)矢吹町
(2)須賀川市 (13)大信村
(3)長沼町 (14)棚倉町
(4)鏡石町 (15)矢祭町
(5)岩瀬村 (16)塙町
(6)天栄村 (17)鮫川村
(7)西郷村 (18)古殿町
(8)表郷村 (19)石川町
(9)東村 (20)玉川村
(10)泉崎村 (21)平田村
(11)中島村 (22)浅川村

図-2 因子得点散布図


表-2(生データ)
表
福島県統計年鑑-S60年 国勢調査報告-S60年10月1日

表
(1)白河市 (12)矢吹町
(2)須賀川市 (13)大信村
(3)長沼町 (14)棚倉町
(4)鏡石町 (15)矢祭町
(5)岩瀬村 (16)塙町
(6)天栄村 (17)鮫川村
(7)西郷村 (18)古殿町
(8)表郷村 (19)石川町
(9)東村 (20)玉川村
(10)泉崎村 (21)平田村
(11)中島村 (22)浅川村

図-2 因子得点散布図


4.経年データによる地域特性の変化と水需要
 表−1に示す平成2年のデータと表−2に示す昭和60年のデータを用いて主成分分析を行い、因子得点散布図を作成したものです。従って矢線の方向はその市町村が昭和60年から平成2年にかけて、その地域において相対的に特性が変化した方向を示していることになります。
 たとえば、7,10の村は急激に商業・工業活動が活発になっています。1,15,16,19の市町村は相対的に工業活動が停滞しています。これらの特性の変化は、水需要の用途と量の変化に結びつくものと考えられます。水需要予測を行う過程で、生活用使用水量原単位を予測する場合など、著しく商業・工業活動が活発になりつつある市町村においては、都市部の原単位を参考にする必要がでてきますし、時系列傾向分析等による推計を行う場合に、どの式を採用すべきかの判断の基礎ともなります。単に過去の実績との相関係数が高いということからだけで選択するのではなく、市町村の特性の変化を踏まえた選定を行うことが出来ると考えています。

5.おわりに
 近年の少子化傾向に伴い、福島県の人口も減少したとのことです。巨視的に見ればいずれ水需要にもそれらの要因が反映してくるものと思います。しかしその中で、人口の増加を続けている市町村あり、都市活動を強めている市町村あり、さまざまであることから注意深く地域の特性を踏まえて需要予測を行い事業計画の立案を進めたいと考えています。
 最後に、私どもの業務の一事例ではありますが、発表する機会を与えて下さった新協地水(株)の方々にお礼を申し上げます。


宮嶋 昭氏 略歴
昭和50年拓殖大学政経学部経済学科卒業
昭和50年株式会社福島銀行入行
昭和59年株式会社共立コンサル入社 現在に至る
技術士補(水道部門) 地質調査技士 一級土木施工管理技士


〈所 属〉
日本地下水学会



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