学会発表 
地下水位と降水量の関係についての一考察
日本応用地質学会研究発表論文要旨
地質環境課 主任 石井 六夢
技術士補(応用理学部門・環境部門)

1.はじめに
 地下水位の変動予測は、さまざまな現場で必要とされている。しかし、地下水位の時系列的な変動表現(図1)のみでは、地下水位の降水に対する反応を定量的に表現することはできなかった。本考察では「累計降水量」と「地下水位」の関係を表現することで、降水量と地下水位の間の関係をより定量的に表現することを試みた。

表
図1 時系列的な水位変動表現


2.方法
 地下水位を長期にわたって測定する事例は、地下水影響調査に伴うものが多い。3つの事例についてここに述べる。
  1. 火山山麓の扇状地内の既設井戸
    10mより浅い井戸4井、35mの深井戸1井を1年間観測した。

  2. マサ中の水位観測井
    マサ中に設けられた観測井5井(深度7〜10m)の6ヶ月のデータである。

  3. 沖積砂礫層
    河川に近接した、沖積砂礫層中に設けられた、観測井3井(深度10m程度)3ヶ月〜1年間のデータである。


 ここでは、X軸に「水位測定日前5日間累計降水量、15日間累計降水量、30日間累計降水量、60日間累計降水量」を取り、井戸・観測井水位をY軸にとって散布図を作成した。また、「5日間累計降水量、15日間累計降水量、30日間累計降水量、60日間累計降水量」ごとに最小二乗法で直線を引き、相関係数(R2乗)をもとめた。
 図2に例を示す。

表
図2 マサ中の水位と累計降水量(G-2)




3.考察
 13地点の結果をまとめると、表1のようになる。

表1 累計降水量期間と水位の「傾き」と相関係数
表

ここで「傾き」は直線近似をしたときの「傾き」でこの値が大きいほど、降水に対して水位の上昇が大きいことを示す。
 また、R2は相関係数で、R2が大きいほど、直線に対する近似が良いことを示す。
 R2の最も大きい「累計降水量期間」を採用し(表1:太字下線)、傾きを比較すると、マサ、火山山麓、沖積砂礫層で異なった傾向を示す。
 マサでは5井のうち4井で10-4台を示す(G-1,G-2,G-3,G-5)。傾きが10-3台を示したG-4(0.0016)では、透水試験値が他に比べ、1オーダー高かった(10-3cm/sec台)。火山山麓ではマサより傾きが大きい(0.0031〜0.0091)。沖積砂礫は平均すると最も傾きが大きい(0.0072)。
 最も相関係数の高い「累計降水量期間」は、マサでは30〜60日累計であった。火山山麓は5〜60日累計とまちまちである。
 沖積砂礫では、A-1,A-2は15日、A-3は60日累計であった。A-1とA-2は河川から100〜200mの距離であることに対し、A-3は550mと離れていることが、相関の良い「累計降水量期間」に影響を与えている可能性がある。

4.利用方法
(1)地下水影響調査
  累計降水量と地下水位の関係は「地下水影響調査」に利用できると考えられる。図3は、堤防工事前と工事後の水位傾向の変化を示す実際のデータである(A-2)。

表
図3 施工前後の水位変動傾向の変化




 図3では、堤防工事前の水位傾向と堤防工事後の水位の傾向が変化していることが示されている。堤防工事では不透水層まで矢板を打ち込んでいる。このため、工事後は降水量が多くなれば、堤内地に地下水がたまりやすくなり、地下水位が高い傾向を示しているものと見られる。
 このように、地下水に影響を与える工事に伴って、地下水(井戸)への影響を評価する際、工事前に累計降水量と水位の関係を把握しておくことで、工事後の地下水位(井戸水位)の変動が降水によるものかあるいは工事によるものか、定量的に判断することが可能であると考える。なお水位のデータがかなり、とびとび(10日おきなど)でも傾向が見えてくるようである。

(2)帯水層の性質
 図4は地下水位と累計降水量の間に見られる「傾き」を地層ごと(マサ、火山山麓、沖積砂礫)に比較したものである。
 また、図4には帯水層に降水がすべて入った場合、予想される傾きを、帯水層の有効間隙率ごとに示してある。有効間隙率が100%の場合(土がない場合)は1000mmの降水があって、降水が全て帯水層に入れば水位は1m上昇する。
有効間隙率が20%(例えば砂礫層)であれば、降水量1000mmの場合、降水がすべて地下水になれば水位は5m上昇する。
 沖積砂礫層(A-1,A-2,A-3)の場合、傾きは0.0072であるので、1000mmの降水に対し水位は7.2m上昇することになる。この場合、有効間隙率が10%程度以下でないと、降水量がすべて帯水層に入った状態より、大きな水位上昇が発生することになる。
 一方、マサの場合、傾きは0.0004〜0.0016であるので、1000mmの降水に対し水位は0.4〜1.6m上昇することになる。仮にマサの有効間隙率が5%(砂礫に比べ低い値と考えられる)であったとしても、水位上昇の傾きの値(0.0004〜0.0016)は、帯水層に降水量の10%以下しか入っていない状態を示している。
 累計降水量と水位の間の「傾き」は、帯水層の性質を反映している可能性がある。今後、さらに事例を蓄積してゆきたい。

表
図4 有効間隙率と累計降水量-地下水位間の傾き





第9回東北支部研究発表会
日本応用地質学会東北支部主催

 去る平成13年1月26日(金)ろうふく会館(仙台市青葉区)において、「第9回東北支部研究発表会」が開催された。
 当社から谷藤允彦、石井六夢の二名が参加し、論文の発表を行った。
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